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そのよん
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このあたりの気候は、湿気こそ少ないけれど、沖縄のような亜熱帯に近いものだ。朝晩はそれなりに冷え込むけれど、昼間の日差しはとても強くて暑い。外を歩く人は皆よく日に焼けていて、つばの広い大きな麦わら帽子みたいなものを被っている。
町に出るようになって知ったことだけれど、この愛の女神の神殿は、この大陸で一番大きいものらしい。それでもこの神殿が抱える司祭は数十人ほどで、もっと大きくて信者の多い神……たとえば病院を兼ねた太陽神の神殿に比べたら、ほんの十分の一程度の規模なのだとか。
たしかに、愛とか恋とかで浮かれている女神より、病気を治してくれる神の方に人は多く集まるのだろう。
恋愛成就だなんだを祈願するなんて、年頃の女の子がするものなのだ。
ところが、そんな愛の女神の神殿にもちゃんと役割のようなものはあった。
恋人たちの“駆け込み寺”という役割が。
恋人たちの最後の砦、あるいは、最後の試練……愛の女神の神殿は、町の人たちからそんな風に呼ばれている。自らの愛が本物であると示したいのであれば、この地にある愛の女神の神殿を訪れよ、というわけだ。
女神は愛を育み守り試す、恋人たちの守護者だから。
育んで守るというのはわかったけれど、試すというのはいったいどういう意味なのか。
愛の試練? と首を捻ったけれど――何のことはない、単に、恋人と引き裂かれるのが嫌で駆け込んだはずのこの神殿で、見目麗しい司祭方騎士方に優しくされて目移りしないか、もしくは誘惑されないか、試されるだけだった。
それも、一方的に。
「エセキエルも、やっぱりそうだったんだ」
「そう、とは?」
並んで神殿の裏手の庭をぼんやり眺めながら、今朝、エセキエルの部屋で起こった修羅場を思い返して吐息を漏らす。
数日前、親に引き離されるのは嫌だと言って駆け込んだ恋人たちがいた。
きれいで身なりのいい女とちょっと無骨な男という組み合わせで、これは身分がどうのこうのというやつなんだろうなというのは、すぐに見て取れた。
女神は愛を守護する方だから、神殿はすんなりと彼らを受け入れた。ずっとというわけにはいかないが、ここでしばらく過ごし、女神の祝福を受ければ婚姻が成立するから……という理由で。
ところが、見目のいい司祭や騎士たちに優しくされて、女の頭にお花畑ができてしまったらしい。
女の目に映る愛していたはずの男は、どう見ても田舎者で振る舞いも垢抜けない。あんなに輝いて見えたはずの男が、化けの皮を剥がされたかのごとく、みるみるうちに色褪せていく。
本当にこのまま結婚してしまっていいのかと悩んだあげく、昨夜になって部屋を訪れた女を、エセキエルが拒むわけがなかった。だって、女は愛を求めているのだ。エセキエルが与えないわけがない。
けれど、司祭たちの言葉で言う“一夜の愛”というやつは、当然のように男にバレた。バレないはずがなかった。
「結婚前の思い出に……なんてこと言う女が本当にいるなんて知らなかった」
「彼女が心の底で望んでいたのは、縛られない愛だったというだけの話だよ」
「そう? 単に美味しいとこつまみ食いしたかっただけじゃないの? エセキエルみたいなイケメンに優しくされて舞い上がって、もしかして自分はもっと良いものを欲しがってもいいんじゃないか、なんて」
「“イケメン”? それはトウキョの言葉かな?」
「見た目がきれいでかっこいいってこと」
エセキエルがくすりと笑う。
どんなに見た目がよくたって、自分の手に収まるのかどうかくらいは見極められなきゃ、いいことなんてあるわけないのに。
「愛の女神は美の女神と双子の姉妹なんだ。だから、この神殿で美容に力を入れる者は多いよ。愛を語る相手が美しければ、より嬉しいだろう?」
「まあ、そうだけど」
臆面もなくそんなことを言えるのは、エセキエルも自分の容姿に自信を持っているからだろう。
彼も美容には力を入れているのだろうか。
「ストーも十分に美しい」
「ありがとう」
エセキエルの手が、少し伸びたうなじの髪を掬うようにふわりと頭を撫でる。
カレンダーも時計も無いここでは、意識して数えていないと日付の感覚も怪しくなってくる。
皆、空にふたつ昇る月の欠け具合と距離で今が何月かを知ると言うけれど、この世界に来てまだひと月のわたしにそんなことがわかるはずもなく、もちろん、知ってて当然のことをわざわざ説明する人もいない。
「ストーの髪は、珍しいくらいに真っ直ぐなんだね」
「そう? 黒くて真っ直ぐなんて珍しくなかったっていうか、そんなのばっかりだったし。だから、わたしの友達はみんな染めたり巻いたりしてた」
「トウキョでは、ということ?」
「そう」
ひと月経ったのに、エセキエルにも誰にも、わたしがここじゃない別などこかの世界から来たことは話してなかった。
なんとなく、話しても仕方ないような気がして。
だいたい、「女神に呼ばれて別な世界から来ました」と言われたところで、皆困るだけなんじゃないかとしか思えなかったのだ。
それに、いつかは帰りたいという気持ちはあるけど、今はそれほどでもない。もちろん、両親や兄に心配させて申し訳ないとも思うけど。
「――わたし、疲れてたのかな」
「何に?」
唐突な言葉に、エセキエルはいつものように穏やかな声で訊き返す。
「わたしでいること」
「君でいること?」
「わたし、ここに来る前はもっと髪を伸ばしてて、お人形さんみたいでかわいいね、ってよく言われてたの」
「うん」
「別に、おしとやかにしてるつもりなんて全然なかったけど……“大和撫子”って言葉があってね、控えめでおとなしくて、余計な主張なんてしないで、いつでも一歩下がって男の人を立てる貞淑な女の人のこと……だと思うんだけど、よくそれだって言われてた」
「それは……ずいぶん男性に都合のいい女性像に思えるね」
「わたし、全然そんなんじゃないのにね」
“そんな女の子だったなんてがっかりした”と告げ、背を向ける元彼たちを思い出して、くすりと笑う。
「別にそんなフリなんてしてないのにって、ずっと疑問だった……んだけど、でも、今になってよくよく考えてみたら、実際はそう見えるように振舞ってたからなんだよね。
だから、そういうのに疲れてここに来たのかなって」
エセキエルの手は、ゆっくりゆっくり襟足のあたりを撫で続けている。
「思い余ってイメチェンしようって髪もばっさり切ったけど、ちょっとだけ……ううん、たぶん、すごく不安だったんだ。“大和撫子”じゃなくなったら、誰も、わたしのことなんか見向きもしないんじゃないかって」
頭の後ろにあてられた手で、エセキエルのほうへと顔をぐいと向けられた。
紫と青の入り混じる不思議な色の目が、わたしを覗き込む。
「その、以前の君や“ヤマトナデシコ”云々は知らないけれど、今、ここにいる君はとても魅力に溢れているよ」
キスをされて、「そうかな」と小さく呟く。
そう正面切って言われると、少し恥ずかしい。
「だいたい、つい先日もマチェイ司祭に声をかけられていたじゃないか」
「あれは……」
「少なくとも、彼が望んで一夜の愛を交わしたいと思うくらいに、ストーは魅力的だということだろう?」
「うん……」
愛の女神の司祭は、わたしが尻軽そうだから、なんていう理由で声を掛けるわけではない――そうとわかってはいても、一夜の付き合いを持ちかけられることには少し抵抗があった。
けれど、考えてみたら、わたしだってエセキエルとは恋人でもないのにたびたび寝ているのだ。抵抗なんて感じるだけ馬鹿らしいのかもしれない。
愛の女神の教義は、とにかく開放的だ。
それに、愛を交わすのはひとりの相手だけと決めた者は、神殿の外にふたりだけで過ごすための家を持っている。それゆえ、神殿に残っている司祭や騎士は、皆、ひとりに縛られたくない者ばかりというわけだ。
だから、愛を交わしたいと思えばストレートに伝えてくるし、好かれたいと思った相手には臆面もなくアピールしてくる。
食傷気味だ、なんて感じるくらいには。
不意にエセキエルがわたしの唇を塞ぐ。
隙間から舌を滑り込ませ、わたしの舌を捉えて絡め合う。
「ん……っ、誰か、来たら……」
「大丈夫。この時間、ここに来る者はいない」
ひとしきり口を堪能した後、首を啄ばみながらエセキエルは囁いた。こんな、誰でも通るような場所なのに、とは思うのに、止めることができない。
「あ……っ、あ、はぁっ」
上衣がずり下げられて、胸が曝け出された。膨らみは興奮でほんのり赤く染まって、先端もすっかり固くなっていた。
身体を抱き寄せて、エセキエルが舌を這わせ始める。
その頭を抱き込んで、わたしの胸に押し付ける。
「まだまだ短い髪は少年のようにも見えるのに、首も肩もこんなに華奢で……君は十分に魅力的な女性だよ」
くるりと身体の向きを変えられた。後ろから抱える格好になったエセキエルが、今度はわたしの背に舌を這わせていく。
柔らかい粘膜の感触から、皮膚が粟立つような快感が生まれる。脚の間にじわりと粘液が染み出して、まだ触れられていないそこがずくずくと疼きだす。
するりと腰帯が緩められて、上衣の布も巻きスカートもはらりと解ける。
あ、あ、と断続的な声を上げて、背中を震わせる。
前に回った手が柔らかく胸を揉んで、固くなった先を摘み、転がす。もう片手はお腹を滑り降りて、ひくひくわななく濡れそぼった襞を擽り始めた。
「あ、っ、エセキエル、中、ほし……あっ」
「もう? 今日はずいぶん早いね」
楽しそうに笑いながら、エセキエルが耳を食む。舌先で耳朶を擽って、ふうっと息を吹きかける。
「あ、だって……ああっ」
くちゅくちゅと入り口ばかりを弄られて、腰が動いてしまう。押し付けたお尻のあたりに固くなった熱を感じるのに、まだまだ焦らそうというのか、エセキエルは未だに服を着たままだ。
耳元で、くすくすとエセキエルが笑う。
「君は魅力的だよ。こうして愛を交わしたいと思うくらいには、魅力的だ」
耳に掛かる息が擽ったくて、わたしは身体を捩らせた。しゅる、という衣摺れの音が聞こえて、背に直接肌が触れた。
露わになったエセキエルのそれが脚の間に触れて、くちゅりと音を立てる。
「入れても、いいかい?」
「ん……入れて、早く……ああっ」
ふわりと腰を持ち上げられたと思った次の瞬間には、ぐちゅりと熱杭が潜り込んできた。はあっと大きく吐息を漏らしたエセキエルが、ぐぐ、と押し付けるようにわたしの腰を抱き締める。
珍しく、今日の彼は興奮しているようだな、と思う。
「声を出して」
「ん……あっ、でも……」
「小鳥のさえずりのように、高く、啼いて」
強く深く突き込まれ、喉を仰け反らせて声を上げてしまった。反らせた喉を甘く齧られて、背がふるりと震える。
“愛を交わす”と言うけれど、これは単なるセックスだ。交わしている愛なんてない。どっちかと言えば、セフレに近いやりとりだろう。
でも、これも女神に言わせれば“愛”のひとつで……。
あ、あ、と途切れなく高い声を漏らしながら、頭のどこかで考える。
愛かどうかはわからないけれど、“情”を交わしていることには間違いない。
なら、女神の説く“愛”には、情も含むということなのか。
エセキエルが、本当の意味でわたしを“愛してる”なんてことは、とうていあり得ない。けれど、こうして抱きたいと思うほどの情ならあるんだろう。
そう考えると、いろいろ腑に落ちる気はした。
どうせ、帰れるかどうかもわからないのだ。
だったらここに留まると覚悟を決めて、その時々にいいと思った相手と抱き合うのも、別に悪くないのかもしれない。
いっそ、正式に愛の女神の司祭を目指すのだって悪くないだろう。
エセキエルに、自分がどこか違う世界から来たのだとちゃんと話して……。
「また、別なことを考えている」
「んぅ……ああっ」
胸の尖りを強く摘まれ、引っ張られて、びくりと震えた。ぐちゅぐちゅ掻き回されながら、もう片手の指に肉芽を捏ねられて、中のエセキエルをぎゅうっと締め付けてしまう。頭の中が快感でいっきに塗り込められて、考えていたこともすべて霧散してしまった。
「やあ……っ、そんな、いっちゃ……あっあっ、だめ、ああっ」
掻き混ぜるだけでは足りなくなったのか、エセキエルがわたしを抱えて身体の位置を変える。それまで座っていたベンチの座面に手をつかせて腰を上げさせると、後ろから大きく突き上げ始めた。
奥深くまでを強く抉られて、身体の中心で火花が散っているようだ。
「は、あ、あ、あ……っ」
ばちんばちんと肉を打つ音とぐちゅ、ぐぽとエセキエルの出入りで粘液が立てる音が激しくなって――
「あ、あ、ああああっ!」
パン、と風船が破裂するみたいに、わたしの中の気持ちいいが弾け飛ぶ。
ベンチの座面に突っ伏すように脱力した拍子に、入っていたエセキエルがずるりと抜け落ちた。
町に出るようになって知ったことだけれど、この愛の女神の神殿は、この大陸で一番大きいものらしい。それでもこの神殿が抱える司祭は数十人ほどで、もっと大きくて信者の多い神……たとえば病院を兼ねた太陽神の神殿に比べたら、ほんの十分の一程度の規模なのだとか。
たしかに、愛とか恋とかで浮かれている女神より、病気を治してくれる神の方に人は多く集まるのだろう。
恋愛成就だなんだを祈願するなんて、年頃の女の子がするものなのだ。
ところが、そんな愛の女神の神殿にもちゃんと役割のようなものはあった。
恋人たちの“駆け込み寺”という役割が。
恋人たちの最後の砦、あるいは、最後の試練……愛の女神の神殿は、町の人たちからそんな風に呼ばれている。自らの愛が本物であると示したいのであれば、この地にある愛の女神の神殿を訪れよ、というわけだ。
女神は愛を育み守り試す、恋人たちの守護者だから。
育んで守るというのはわかったけれど、試すというのはいったいどういう意味なのか。
愛の試練? と首を捻ったけれど――何のことはない、単に、恋人と引き裂かれるのが嫌で駆け込んだはずのこの神殿で、見目麗しい司祭方騎士方に優しくされて目移りしないか、もしくは誘惑されないか、試されるだけだった。
それも、一方的に。
「エセキエルも、やっぱりそうだったんだ」
「そう、とは?」
並んで神殿の裏手の庭をぼんやり眺めながら、今朝、エセキエルの部屋で起こった修羅場を思い返して吐息を漏らす。
数日前、親に引き離されるのは嫌だと言って駆け込んだ恋人たちがいた。
きれいで身なりのいい女とちょっと無骨な男という組み合わせで、これは身分がどうのこうのというやつなんだろうなというのは、すぐに見て取れた。
女神は愛を守護する方だから、神殿はすんなりと彼らを受け入れた。ずっとというわけにはいかないが、ここでしばらく過ごし、女神の祝福を受ければ婚姻が成立するから……という理由で。
ところが、見目のいい司祭や騎士たちに優しくされて、女の頭にお花畑ができてしまったらしい。
女の目に映る愛していたはずの男は、どう見ても田舎者で振る舞いも垢抜けない。あんなに輝いて見えたはずの男が、化けの皮を剥がされたかのごとく、みるみるうちに色褪せていく。
本当にこのまま結婚してしまっていいのかと悩んだあげく、昨夜になって部屋を訪れた女を、エセキエルが拒むわけがなかった。だって、女は愛を求めているのだ。エセキエルが与えないわけがない。
けれど、司祭たちの言葉で言う“一夜の愛”というやつは、当然のように男にバレた。バレないはずがなかった。
「結婚前の思い出に……なんてこと言う女が本当にいるなんて知らなかった」
「彼女が心の底で望んでいたのは、縛られない愛だったというだけの話だよ」
「そう? 単に美味しいとこつまみ食いしたかっただけじゃないの? エセキエルみたいなイケメンに優しくされて舞い上がって、もしかして自分はもっと良いものを欲しがってもいいんじゃないか、なんて」
「“イケメン”? それはトウキョの言葉かな?」
「見た目がきれいでかっこいいってこと」
エセキエルがくすりと笑う。
どんなに見た目がよくたって、自分の手に収まるのかどうかくらいは見極められなきゃ、いいことなんてあるわけないのに。
「愛の女神は美の女神と双子の姉妹なんだ。だから、この神殿で美容に力を入れる者は多いよ。愛を語る相手が美しければ、より嬉しいだろう?」
「まあ、そうだけど」
臆面もなくそんなことを言えるのは、エセキエルも自分の容姿に自信を持っているからだろう。
彼も美容には力を入れているのだろうか。
「ストーも十分に美しい」
「ありがとう」
エセキエルの手が、少し伸びたうなじの髪を掬うようにふわりと頭を撫でる。
カレンダーも時計も無いここでは、意識して数えていないと日付の感覚も怪しくなってくる。
皆、空にふたつ昇る月の欠け具合と距離で今が何月かを知ると言うけれど、この世界に来てまだひと月のわたしにそんなことがわかるはずもなく、もちろん、知ってて当然のことをわざわざ説明する人もいない。
「ストーの髪は、珍しいくらいに真っ直ぐなんだね」
「そう? 黒くて真っ直ぐなんて珍しくなかったっていうか、そんなのばっかりだったし。だから、わたしの友達はみんな染めたり巻いたりしてた」
「トウキョでは、ということ?」
「そう」
ひと月経ったのに、エセキエルにも誰にも、わたしがここじゃない別などこかの世界から来たことは話してなかった。
なんとなく、話しても仕方ないような気がして。
だいたい、「女神に呼ばれて別な世界から来ました」と言われたところで、皆困るだけなんじゃないかとしか思えなかったのだ。
それに、いつかは帰りたいという気持ちはあるけど、今はそれほどでもない。もちろん、両親や兄に心配させて申し訳ないとも思うけど。
「――わたし、疲れてたのかな」
「何に?」
唐突な言葉に、エセキエルはいつものように穏やかな声で訊き返す。
「わたしでいること」
「君でいること?」
「わたし、ここに来る前はもっと髪を伸ばしてて、お人形さんみたいでかわいいね、ってよく言われてたの」
「うん」
「別に、おしとやかにしてるつもりなんて全然なかったけど……“大和撫子”って言葉があってね、控えめでおとなしくて、余計な主張なんてしないで、いつでも一歩下がって男の人を立てる貞淑な女の人のこと……だと思うんだけど、よくそれだって言われてた」
「それは……ずいぶん男性に都合のいい女性像に思えるね」
「わたし、全然そんなんじゃないのにね」
“そんな女の子だったなんてがっかりした”と告げ、背を向ける元彼たちを思い出して、くすりと笑う。
「別にそんなフリなんてしてないのにって、ずっと疑問だった……んだけど、でも、今になってよくよく考えてみたら、実際はそう見えるように振舞ってたからなんだよね。
だから、そういうのに疲れてここに来たのかなって」
エセキエルの手は、ゆっくりゆっくり襟足のあたりを撫で続けている。
「思い余ってイメチェンしようって髪もばっさり切ったけど、ちょっとだけ……ううん、たぶん、すごく不安だったんだ。“大和撫子”じゃなくなったら、誰も、わたしのことなんか見向きもしないんじゃないかって」
頭の後ろにあてられた手で、エセキエルのほうへと顔をぐいと向けられた。
紫と青の入り混じる不思議な色の目が、わたしを覗き込む。
「その、以前の君や“ヤマトナデシコ”云々は知らないけれど、今、ここにいる君はとても魅力に溢れているよ」
キスをされて、「そうかな」と小さく呟く。
そう正面切って言われると、少し恥ずかしい。
「だいたい、つい先日もマチェイ司祭に声をかけられていたじゃないか」
「あれは……」
「少なくとも、彼が望んで一夜の愛を交わしたいと思うくらいに、ストーは魅力的だということだろう?」
「うん……」
愛の女神の司祭は、わたしが尻軽そうだから、なんていう理由で声を掛けるわけではない――そうとわかってはいても、一夜の付き合いを持ちかけられることには少し抵抗があった。
けれど、考えてみたら、わたしだってエセキエルとは恋人でもないのにたびたび寝ているのだ。抵抗なんて感じるだけ馬鹿らしいのかもしれない。
愛の女神の教義は、とにかく開放的だ。
それに、愛を交わすのはひとりの相手だけと決めた者は、神殿の外にふたりだけで過ごすための家を持っている。それゆえ、神殿に残っている司祭や騎士は、皆、ひとりに縛られたくない者ばかりというわけだ。
だから、愛を交わしたいと思えばストレートに伝えてくるし、好かれたいと思った相手には臆面もなくアピールしてくる。
食傷気味だ、なんて感じるくらいには。
不意にエセキエルがわたしの唇を塞ぐ。
隙間から舌を滑り込ませ、わたしの舌を捉えて絡め合う。
「ん……っ、誰か、来たら……」
「大丈夫。この時間、ここに来る者はいない」
ひとしきり口を堪能した後、首を啄ばみながらエセキエルは囁いた。こんな、誰でも通るような場所なのに、とは思うのに、止めることができない。
「あ……っ、あ、はぁっ」
上衣がずり下げられて、胸が曝け出された。膨らみは興奮でほんのり赤く染まって、先端もすっかり固くなっていた。
身体を抱き寄せて、エセキエルが舌を這わせ始める。
その頭を抱き込んで、わたしの胸に押し付ける。
「まだまだ短い髪は少年のようにも見えるのに、首も肩もこんなに華奢で……君は十分に魅力的な女性だよ」
くるりと身体の向きを変えられた。後ろから抱える格好になったエセキエルが、今度はわたしの背に舌を這わせていく。
柔らかい粘膜の感触から、皮膚が粟立つような快感が生まれる。脚の間にじわりと粘液が染み出して、まだ触れられていないそこがずくずくと疼きだす。
するりと腰帯が緩められて、上衣の布も巻きスカートもはらりと解ける。
あ、あ、と断続的な声を上げて、背中を震わせる。
前に回った手が柔らかく胸を揉んで、固くなった先を摘み、転がす。もう片手はお腹を滑り降りて、ひくひくわななく濡れそぼった襞を擽り始めた。
「あ、っ、エセキエル、中、ほし……あっ」
「もう? 今日はずいぶん早いね」
楽しそうに笑いながら、エセキエルが耳を食む。舌先で耳朶を擽って、ふうっと息を吹きかける。
「あ、だって……ああっ」
くちゅくちゅと入り口ばかりを弄られて、腰が動いてしまう。押し付けたお尻のあたりに固くなった熱を感じるのに、まだまだ焦らそうというのか、エセキエルは未だに服を着たままだ。
耳元で、くすくすとエセキエルが笑う。
「君は魅力的だよ。こうして愛を交わしたいと思うくらいには、魅力的だ」
耳に掛かる息が擽ったくて、わたしは身体を捩らせた。しゅる、という衣摺れの音が聞こえて、背に直接肌が触れた。
露わになったエセキエルのそれが脚の間に触れて、くちゅりと音を立てる。
「入れても、いいかい?」
「ん……入れて、早く……ああっ」
ふわりと腰を持ち上げられたと思った次の瞬間には、ぐちゅりと熱杭が潜り込んできた。はあっと大きく吐息を漏らしたエセキエルが、ぐぐ、と押し付けるようにわたしの腰を抱き締める。
珍しく、今日の彼は興奮しているようだな、と思う。
「声を出して」
「ん……あっ、でも……」
「小鳥のさえずりのように、高く、啼いて」
強く深く突き込まれ、喉を仰け反らせて声を上げてしまった。反らせた喉を甘く齧られて、背がふるりと震える。
“愛を交わす”と言うけれど、これは単なるセックスだ。交わしている愛なんてない。どっちかと言えば、セフレに近いやりとりだろう。
でも、これも女神に言わせれば“愛”のひとつで……。
あ、あ、と途切れなく高い声を漏らしながら、頭のどこかで考える。
愛かどうかはわからないけれど、“情”を交わしていることには間違いない。
なら、女神の説く“愛”には、情も含むということなのか。
エセキエルが、本当の意味でわたしを“愛してる”なんてことは、とうていあり得ない。けれど、こうして抱きたいと思うほどの情ならあるんだろう。
そう考えると、いろいろ腑に落ちる気はした。
どうせ、帰れるかどうかもわからないのだ。
だったらここに留まると覚悟を決めて、その時々にいいと思った相手と抱き合うのも、別に悪くないのかもしれない。
いっそ、正式に愛の女神の司祭を目指すのだって悪くないだろう。
エセキエルに、自分がどこか違う世界から来たのだとちゃんと話して……。
「また、別なことを考えている」
「んぅ……ああっ」
胸の尖りを強く摘まれ、引っ張られて、びくりと震えた。ぐちゅぐちゅ掻き回されながら、もう片手の指に肉芽を捏ねられて、中のエセキエルをぎゅうっと締め付けてしまう。頭の中が快感でいっきに塗り込められて、考えていたこともすべて霧散してしまった。
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奥深くまでを強く抉られて、身体の中心で火花が散っているようだ。
「は、あ、あ、あ……っ」
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