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第九章 許嫁
54.突然の訪問者
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ドグマ様が書斎で呪文のようなものを唱えると、空中に小さなブラックホールのようなものが出現した。
初めて見たときは驚いたけれど、これは時空を超えるの穴でこの黒い穴をくぐればそこはもう魔界なのだと言う。ドグマ様自身が魔界へ行くことは珍しいことだけど、魔界から来た使いの者を帰すために、ドグマ様は時々時空の穴を開けることがあった。
「行ってくる」
見送る俺に向かって片手をあげて微笑んだ。目が合っただけで体の奥がキュンと疼いて、俺はくっと口元へ力を入れて表情が崩れないようにするのに必死だった。幸い、ドグマ様は気付いていないようで、頭をかがめて穴へ体をねじ込んだ。
「行ってらっしゃいませ」
ドグマ様が通るとブラックホールはシュンとすぼまって、瞬く間に跡形もなく消えてしまった。
穴がすっかり消えると、俺はふぅっと肩の力を緩めた。
ドグマ様が俺のことを「特別」だと思っていると思うと、顔がにやけそうになっていけない。どうしてだろう、フランシス様が俺を特別だと思っているのとは嬉しさが違うのだ。
机の上からドグマ様が飲んでいたコーヒーカップを回収して書斎を後にした。
階段を降りていると、どうも玄関の辺りが騒がしい。珍しい、誰か来たのだろうか……?
階段を駆け上がって来たメアリーと危なくぶつかりそうになった。
「あら、ごめんなさい」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
「お客様がお見えなんです。ドグマ様はまだお部屋にいらっしゃいます?」
「いや、たった今魔界へお出かけになられたよ」
「まあ、行き違いですわね。マデューサ様が魔界から遥々お越しくださいましたのに……」
「マデューサ様?」
今まで聞いたことのない名前だった。
「ええ。ドグマ様のフィアンセですわ」
……フィアンセ!? ドグマ様に婚約者がいるなんて初耳だ。
考えてみれば、俺はドグマ様のことを何も知らないのだ。魔界にいるご家族のことも何も知らない。
留守だと告げるメアリーにマデューサ様は「せっかく来たから少し待ちたい」と言ったらしく、応接間にお通しすることになった。
メアリーはキッチンでてきぱきと紅茶を淹れてお菓子を用意していたが、俺は手伝う気力が起きずに呆然とメアリーの手つきを眺めていた。
お茶を乗せたお盆を運んでいくメアリーの後姿が見えなくなると、銀食器を磨いていたトムが話しかけてきた。
「どうかしたの、ローレンスさん? なんだか顔色が悪いみたいだけど……」
「いや、別に……」
なんでもないと言いかけて、やっぱりこの際トムに聞いてみようと思った。
「えっと、その……マデューサ様というのは、どんなお方なの?」
「どんなって? ドグマ様の許嫁だけど」
「そうじゃなくて、どんな見た目をしているとか……」
初めて見たときは驚いたけれど、これは時空を超えるの穴でこの黒い穴をくぐればそこはもう魔界なのだと言う。ドグマ様自身が魔界へ行くことは珍しいことだけど、魔界から来た使いの者を帰すために、ドグマ様は時々時空の穴を開けることがあった。
「行ってくる」
見送る俺に向かって片手をあげて微笑んだ。目が合っただけで体の奥がキュンと疼いて、俺はくっと口元へ力を入れて表情が崩れないようにするのに必死だった。幸い、ドグマ様は気付いていないようで、頭をかがめて穴へ体をねじ込んだ。
「行ってらっしゃいませ」
ドグマ様が通るとブラックホールはシュンとすぼまって、瞬く間に跡形もなく消えてしまった。
穴がすっかり消えると、俺はふぅっと肩の力を緩めた。
ドグマ様が俺のことを「特別」だと思っていると思うと、顔がにやけそうになっていけない。どうしてだろう、フランシス様が俺を特別だと思っているのとは嬉しさが違うのだ。
机の上からドグマ様が飲んでいたコーヒーカップを回収して書斎を後にした。
階段を降りていると、どうも玄関の辺りが騒がしい。珍しい、誰か来たのだろうか……?
階段を駆け上がって来たメアリーと危なくぶつかりそうになった。
「あら、ごめんなさい」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
「お客様がお見えなんです。ドグマ様はまだお部屋にいらっしゃいます?」
「いや、たった今魔界へお出かけになられたよ」
「まあ、行き違いですわね。マデューサ様が魔界から遥々お越しくださいましたのに……」
「マデューサ様?」
今まで聞いたことのない名前だった。
「ええ。ドグマ様のフィアンセですわ」
……フィアンセ!? ドグマ様に婚約者がいるなんて初耳だ。
考えてみれば、俺はドグマ様のことを何も知らないのだ。魔界にいるご家族のことも何も知らない。
留守だと告げるメアリーにマデューサ様は「せっかく来たから少し待ちたい」と言ったらしく、応接間にお通しすることになった。
メアリーはキッチンでてきぱきと紅茶を淹れてお菓子を用意していたが、俺は手伝う気力が起きずに呆然とメアリーの手つきを眺めていた。
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「いや、別に……」
なんでもないと言いかけて、やっぱりこの際トムに聞いてみようと思った。
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