絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い*******

ムリ、絶対。5

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「高園!」
呼び止められて、振り向いたら五十嵐くんがこちらに駆けて来た。
目の前に彼が立つ間に、一昨日聞いたばかりの、りこちゃんの話が頭をよぎる。
「……?お前、熱でもあんの?」
息を軽く乱した五十嵐くんに、心配をかけてしまったけど、まさか『貴方達恋人同士の痴態を細かく聞きました』なんて言えるはずもない。
曖昧に笑みを浮かべ『何か用事?』と話をそらした。
「あー、なんて言うかさ。ちょっと、俺、誤解していたことがあって。それが解けて。りこちゃんと付き合うことになったんだ」
「うん。りこちゃんに聞いた」
……恥ずかしい話まであれやこれや。
「んでさ、散々かき回した俺が言うのもなんだけど、その……いや、りこちゃんにも、これ以上首を突っ込むなって言われたんだけどさ」
「……う、ん?」
いつもの五十嵐くんらしくない、要領を得ない話し方。
「俺のせいでこじれたとこもあるって、改めて反省して……あの、つまり」
つまり?
「今度!今度、拓眞の家にコーヒー飲みに行こう!」
そう言い切った五十嵐くんに、ひゅっと息を飲んでしまった。

どうしてここで坂本くんが出て来るのか。
坂本くんの部屋を、私が訪れていることを、五十嵐くんは知っているのか。
「俺とりこちゃんと、お前と!3人で!」
名案だと言わんばかりの五十嵐くんに、めまいがした。
……なに?その拷問。
辛い思いをする坂本くんを間近で見て。
複雑な思いでりこちゃんと五十嵐くんを見て。
好きでもないコーヒーを飲む?
想像しただけで胃が痛い。
それなのに、五十嵐くんは更に続きを口にした。
「知ってる?アイツん家、カフェ並みに色んなコーヒーや器具が揃ってんの」
そう言って、こちらを覗き込んだ。
目をそらしたら挙動不審に映るだろうと、五十嵐くんの眉間をじっと見てやりすごす。
小さく『へぇ』って相槌を打った。
「……最近は、紅茶や豆乳なんかも増えてんだよ」
あまりにしっかりと視線を合わせる五十嵐くんに、見透かされてるみたいで落ち着かない。
『今度、一緒に行こうぜ。びっくりするから』なんて、屈託無く言うから、私がすでにその一通りのコーヒーを試したなんて気づいていないようで安心した。
その、最近増えた紅茶や豆乳は、もしかして、私のためかもなんて……自惚れかもしれないから思ってはいけない。
だけど、りこちゃんが坂本くんの部屋に通わない限り、今のところは私以外の女の子の影なんかないのだ。
私専用のカップを満たすソイラテを思い出して、緩んでしまった頬を引き締めた。

そんな不釣り合いな優越感を罰するように、五十嵐くんが放った次の言葉に、全身の血が凍った。
「昨日、りこちゃんと坂本の部屋に行った時もさ……」
りこちゃんが。坂本くんのお部屋に。
一人で行ったんじゃない。五十嵐くんも一緒だった。それは、わかってる。
今は、りこちゃんは五十嵐くんの彼女。
先のことはわからないけれど、とりあえず今は、坂本くんとりこちゃんが寄り添うとこを見ることはない。
それにホッとして、好きな人の失恋を……痛ましく思いながらもどこかで安堵した、私の罪を。何かが戒めたんだと思った。
りこちゃんが、坂本くんの部屋に足を踏み入れた。
きっと、坂本くんは気づいたと思う。
いつも部屋に来る私が、改めて代わりだったって。
本物のりこちゃんが、自分の部屋にいるのを見た彼が、これから、私なんかで満足するんだろうか?
長年想い続けた女の子に、その代わりを務めた私に出し続けたコーヒーを、やっと振舞って。
それを、きっと、やっと。
飲んでくれたのを、間近で見たに違いないのに。
そう思うと、五十嵐くんの続きの言葉は一切聞こえなかった。

「……高園?具合、まだ悪いのか?」
五十嵐くんが話すのを中断して、私を心配そうに見ている。
「さっきまで赤かったのに、今度は顔色悪いぞ。病み上がりって聞いてたのに、引き止めて悪かったな」
『ううん』とか『大丈夫』とか、適当に返事をした。気遣って送ってくれようとするのを固辞して、別れた。
『じゃあ、またな』って去って行く五十嵐くん。

『また』が、りこちゃんと一緒に坂本くんのお部屋訪問だったとしたら?
そう思うと、消えてしまいたかった。
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