絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の想い

絶対……いや。4

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明かりを消した部屋で、何度も意識がふわふわと浮上して、その度に右手に力を込める。坂本くんのお守りは、確かにそこにあって、私を安心させた。
再び眠りに落ちそうになる度、坂本くんの顔を思い出す。寝ぼけていたからなのか、何度かに1度は、制服姿の坂本くんだった。制服の彼はどれも、昨日知ったばかりの隣を歩いた角度の顔。
欲張りな私は、頑張って高校生の時に告白したら、制服で隣を歩けたかもなんて思って。
その欲深さに恥ずかしくなったりもしたけど、それが心地よかった。

幸せな夜は、優しい気配で私を包んで安心させた。

「やっぱり、やめれば良かった」
朝、そう独言ひとりごちても時間は戻らなかった。浮かれすぎていた昨夜の自分を呪っても、なかったことにはならない。
自分の部屋のチェストの一番上。最近ではそこにしまってあったはずの空き缶を、昨日坂本くんに手渡したのは、愚かな愚かな昨日の自分だった。
一人暮らしの部屋に鎮座していたそれは、しばらく実家で過ごすからとわざわざ持ち出していた。子供っぽい執着心。
坂本くんが貸してくれたお守りが、安心をくれて。私の歯ブラシを用意してくれたのが嬉しくって。だから……坂本くんも喜んでくれるかもって、自惚れて。
彼を玄関で待たせて、部屋に駆け込んだ。チェストを開けて取り出した『拓眞くんのコーヒー』は、今は空き缶なのに、未だにとってあった。あまつさえ、時々取り出しては眺めたりしていたのだ。
「気持ち悪いって思われたかも」
小さい呟きは、1人の部屋に溶ける。
その辺にあったポーチの中身を適当に出して缶をいれて、急いで戻って渡す時……本当はちょっと我に返った。でも、私が手を引っ込めるより、坂本くんがポーチを受け取る方が早くて。
「預かっておくね」
何が入っているのかは言及されなかったけど、推しの強い笑顔で言われて、お母さんの手前もあって。小さな声で『お願いします』って言うのが精一杯だった。

思い起こせば、坂本くんは荷物らしいものは持ってなかった。貴重品と、コンビニの袋。薄いブルーだったけど、それでも一目で女性物とわかるポーチを持たせるなんて。
しかも、中身はストーカー紛いの行いが集結した逸品。
迷って、迷って。昨日五十嵐くんのお家で夜更かししたかもしれないから、お昼過ぎまで待って。坂本くんにメッセージを送る。

『ポーチの中身を見ましたか?気持ち悪くなかったですか?』

送信して、一番大事なことを言ってなかったことに気付いて、もう一度送信。

『気持ち悪かったら、捨ててください。嫌われたくないです。拓眞くんにだけは』

本音と、ちょっとだけ混じった媚びるような、祈るような気持ちの現れ。
執行を待つ罪人のような時間は、長いようで、数分。すぐに読んでくれた坂本くんからの返事は、私を舞い上がらせた。

『ポーチの中は今見た。夢でも、妄想でもないってわかって、嬉しくて死ぬかも』

坂本くんも、私に負けないくらい、冷静さを欠いていて。ちょっと嬉しくて、すごくほっとした。
安堵して、ベッドにへたり込んだところで、追加のメッセージ。

『嫌いになんて、なってあげられない。ごめんね。好きだよ』

熱もなくて、めまいがする訳でもないのに、座ってさえ居られなくて。ベッドに横たわって、ジタバタした。しばらくして、やっと落ち着いて、噛み締める。
私は坂本くんが好きで、坂本くんも私のことが好きだなんて。
そんな奇跡みたいなことが、私に起こるなんて。
改めて、心にその事実が居座る。何度も読み返せる、文字で『好き』をもらったからかもしれない。

私の願いが、神様に届いた。それを実感した瞬間だった。
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