絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*

いってみたいな。2

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「ねぇねぇ美夜ちゃん」
細心の注意を払ったのに、少し震えてしまった。
何かを察知したらしい美夜ちゃんは、少し表情を固くしてなんでもないように装っている。
「美夜ちゃんの部屋にいってみたいな」

美夜ちゃんは、甘えられると弱い。
僕以外には流されなくてもいいんだけど、最後にはついつい許してしまう節がある。
だけど、このお願いはいつも警戒しているようで…
うっかり頷いてくれないかと、スキを見てはねだっているのだが、お決まりの答え。
構えていたからなのか、いつも以上にはっきりとした口調だ。

「絶対、ダメ」

きっと押しに負けないように、こちらを見もしない。
「いっつも、そればっかり」
そう言って、大袈裟に拗ねてみせる。
もちろん、美夜ちゃんがそんな仕草に弱いと知っていて。
そこまで無理して演技しているわけではないけど、美夜ちゃんを陥落させるために日に日に誇張していってるのは認める。
成人男性としては正直多少気持ち悪い振る舞いも、このおねだりには通じず、意地悪な気持ちが芽生えてしまう。
「そっか。そんなに部屋汚いんだ?」
そう言うと相当不本意だったようで、上手く無関心なフリを演出していた美夜ちゃんが急いでこちらを振り仰いだ。
「ちがっ…」
う、まで言い掛けて、しまったと言わんばかりの沈黙のあと、渋々続きを口にした。
「…………っそうよ!」
「今、ちがうって言い掛けたじゃん!!」
だいたい、なんでもキチンとしていて所作も美しい美夜ちゃんの部屋が、そう汚いわけがない。
肩までの髪に右手で手ぐしを滑らせている。落ちつかない時の美夜ちゃんのクセだ。
サッとバッグやアウターに目を走らせている。逃げる気に違いない。

案の定、帰るからと素早く立ち上がる。
「へぇー、きったない部屋に?」
腹に据えかねた顔を隠せもしないくせに『汚い方が落ち着く』なんて無理がある言い訳を残して玄関に向かってしまう。
後ろからついて見送りにでるけど、美夜ちゃんが靴をはこうとする瞬間が一番嫌だ。
余計なことを言わなければ、もっといてくれたのになんて思うと華奢な背中を抱きしめずにはいられなかった。

すっぽりと腕に収まる、細いのに柔らかい体。
甘い香りと肩を少し過ぎた髪。
その髪の奥のうなじに、密やかにつけた所有の証。

毎回つけているうなじの赤い印に、美夜ちゃん自身が気づいてる様子はない。
嫌がるのがわかっているから、毎回キッチリ見えないところにつけているけど…
本当はまわりの男たち全員に知らしめたい。
美夜ちゃんには、こんな関係の人がいるって。
できれば、それが僕なんだって。
人前で肩や腰に手を添えて、他の男が邪な想いを諦めるように。
それが許されるポジションをずっと狙っているけれど、美夜ちゃんはそこだけはスキを見せない。

「次はいつくる?」
情けないけどいじけた声が出た。
少し体を強張らせているけれど、後ろから抱きしめるとだいたい大人しく収まってくれる。
正面からかき抱くと、手のひらで僕の胸を押して距離を取ろうとするのだ。
美夜ちゃんの小さな手のひらは、僕にはすごく有効で、胸を押して拒否されると毎回ひどく悲しくなる。
好きな人に嫌がられることが、こんなにも心を痛めつけるのだと実感する。
だから、誰か他の人を想っていたらどうしようと思いながらも、最近は後ろから美夜ちゃんを補充するのだ。
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