絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*

いってみたいな。3

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「来週の金曜日。サークルの飲み会だよ」
やっぱりそれ以外では会ってくれないらしく、にべもなく告げられた。
「そっか。じゃあ、待ってるね」
聞き分けのいいフリをして拘束を解いたけど、たった今まで閉じ込めていた温もりを手放すと途端に淋しくなった。

「ねぇ、美夜ちゃん」
みっともなくて、情けない。未練があり過ぎて、我ながら不甲斐もない。
振り向いてさえくれないけれど、じっと待つ。
沈黙に耐えきれなくなった美夜ちゃんが、短く息を吐いてやっとこちらに向き直った。
「…なに?」
困った顔をして僕の用件を促した。
「来週まで、会えないの?」
淋しいのは、もっと会いたいのは、僕だけなんだろうけど。
「会えるじゃない。サークルで」
「ちがうよ。そういうことじゃなくて」

その他大勢で満足なんてできない。
インドア活動をそれぞれ楽しむ我がサークルは、集まりも自由だし活動もゆるい。
会える確証もないし、第一、みんなの前で美夜ちゃんはほとんど僕としゃべらない。
美夜ちゃんに彼氏がいないことは周知の事実で、彼女を狙っている男も少なからずいる。
次に会ったときに誘うつもりだと、今話題の映画のチケットを何回も確認していた後輩を思い出した。
美夜ちゃんが年下趣味だったら…とばかり考えて焦る。
今日はいつもよりベタベタと触り、執拗に求めてしまった自覚があった。

二人で会いたいと伝わっていても、もちろん答えは否だろうけど、聞かずにはいられなかったのだ。
「……ダメ」
ちょっとだけ、ためらった様子がうれしかった。
少しは二人で会う時間を思ってくれたかもしれない。

「次の、飲み会の後に」
そう言われて、さらに食い下がる勇気はなかった。
嫌われたり、煩わしがられたら、この関係さえ終わってしまう。
それは、サークルのみんなにも、親しい人たちにすら、ひた隠しにする美夜ちゃんの様子から分かりきっていた。
『好きだ』と『付き合いたい』と、そう伝える権利さえ用意されていないのがわかっていた。
まだ救われるのは、今のところそれを許されている人が、自分以外でもいないことだ。
そして、触れることだけは許された自分が、今きっと一番美夜ちゃんの近くにいる男だという優越感。
なんとか、それだけで我慢ができている。
右手を伸ばして美夜ちゃんの頬をつつく。
距離を取られたり、やめてと言われないことにひどく安堵して、欲が出る。

「わかった。待ってる」
そう言いつつやわらかな頬を、そのまま人差し指の背でなでた。

「明るい道を、通って帰って」
「うん」
名残惜しいけど、あまり遅くなると美夜ちゃんも夜道が不安だろう。
「部屋に入ったら、連絡して」
「……うん」
最初の頃こそ送ると言い張ったけれど、美夜ちゃんは絶対に頷かなかった。。

ここから徒歩15分と、ちょっと。
部屋を探していた美夜ちゃんに、知り合いのツテで自分のアパートから近い物件を勧めたのは自分だ。
近いから大丈夫と言って聞かない美夜ちゃんに、本当は誰かに見られたくないんだろうと気づいてからはもう強く出られなかった。
結局、僕の方が好きなんだから…最終的に引くのは、もちろん自分の方だ。

美夜ちゃんが、猫のようにドアをすり抜けて出て行く。
たっぷり60秒数えてから、静かに扉を開いて美夜ちゃんの後を追う。
ストーカーじみてると非難されたって、美夜ちゃんに何かあるくらいならその方がマシだ。
絶対にうちで眠りにつかない愛しい人を、見失わないように離れて歩く。
美夜ちゃんの家に自分が通えば、彼女を危ない目に合わせずに居座って朝を迎えられるのに。
そう思うと言わずにはいられないのだ。

部屋にいってみたいな、と。
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