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彼の片想い*
いってみたいな。4
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うちから自分のアパートへ向かう美夜ちゃんは、とても早足だ。
ずっと下を向いて、ただひたすら歩く。
夜道が怖いからというよりも、何かの修行のような風情だ。
最初の頃は自宅だったけど、お兄さん夫婦が二世帯住宅を建てるのに合わせて家を出たらしい。
自宅の時は、10分弱の駅までの道のりを見届けて、そこから後はソワソワと待つだけだった。
彼女の最寄り駅から自宅までは近かったけれど、その少しの間にチカンにでもあったら……電車の中で酔っ払いに絡まれたら……
そんな嫌な想像ばかりをしていた。
だから、美夜ちゃんが部屋を探してると聞いたとき、自分の時も世話になった知り合いを頼った。
候補は3つくらいあったけど、うちからほど近いアパートを強く勧めた。
どんなに遅くなっても、終電までに駅に向かって自宅へ帰る美夜ちゃん。
家が近ければ、もしかして泊まってくれるんじゃないかという目論見は見事に外れてしまった。
近いんだから朝から着替えに戻ればと、再三に渡って言ったけれど今でも必ず帰って行く。
ストーカーのような見届けは続くこととなり、時間も伸びたけど、美夜ちゃんが建物に入って部屋から連絡がくれば安心なのでよしとしている。
万一、美夜ちゃんが振り返って一連の行動がバレてしまっても特に問題はないのだし。
好きな女の子が夜道を一人歩きするのに、心配しない男なんていないばずだ。
なので、そうコソコソ振舞っているわけではない。
見咎められたら、心配だから家で待てるわけはないと再度説得を試みて横を歩くだけだ。
断っても勝手に後ろをついてくるとわかれば、美夜ちゃんも根負けしてくれるのでは……と、むしろ望んでいるくらいなのに。
それなのに、いつでも美夜ちゃんは思いつめたように視線を下げて、一度も後ろを気にしたことはない。
毎回、僕と体を繋げたことを後悔してるんじゃないかと、それだけが不安で切なかった。
今日も無事に中に入って行く。
ゆっくりと来た道をもどりながら連絡を待つと、程なく律儀にメッセージを受信した。近くの自販機の灯りが眩しい。
『部屋に入りました』
よかった。歩調を通常のそれに戻して家路をたどっていった。
『今日も無事でよかった』と返したら、少ししてまた連絡が届く。
『声が少し枯れてたので早く寝てね』
その一言にうれしくなる。
『心配してくれてありがとう』と『おやすみ』を返す。
それ以上の返事はいつもない。
おやすみも、一度もかけられたことがない。
一緒に眠りにつくことができれば……
美夜ちゃんの優しい声でささやかれるその言葉を最後に、1日を終えられる。
それは、とても魅力的な未来だった。
いつか叶うといいのだけど。
美夜ちゃんが我を忘れるくらいに乱して、それこそ起き上がることも億劫なくらいに抱き潰してしまうこともたぶん可能。
でも、そうすると警戒心満載の彼女は、次にはもう訪れてくれないかもしれない。
アパートに帰って、コーヒーカップを片付ける。
中身は冷めたコーヒー。今日はきちんとドリップした。
いつも、ほんの少し口をつけられる。でも、飲み干されたことはない。
ブラックコーヒー、好きなはずなんだけど……
味覚が変わってしまったのか、好みのものを出せないでいるのか。
違うものをと声をかけても『大丈夫』と言われてしまう。
インスタントにしてみたり、ドリップしてみたり、苦味が強いもの、酸味が強いもの、と色々淹れてみた。
いつのまにか、一人暮らしの大学生には不釣り合いなほどに器具がそろっている。
コーヒーにこだわってしまって、頑なに出してしまっている自覚はある。
美夜ちゃんを、本当の意味で好きになったきっかけだったから。
その出会いを、彼女は覚えていないんだと思う。
コーヒーをこだわって出すたびに、少しでもこの気持ちが届けばいいのにと思っていることを、美夜ちゃんはしらない。
そして、届かなかった想いをシンクに流す時、毎回ちょっと傷ついていることも。
ずっと下を向いて、ただひたすら歩く。
夜道が怖いからというよりも、何かの修行のような風情だ。
最初の頃は自宅だったけど、お兄さん夫婦が二世帯住宅を建てるのに合わせて家を出たらしい。
自宅の時は、10分弱の駅までの道のりを見届けて、そこから後はソワソワと待つだけだった。
彼女の最寄り駅から自宅までは近かったけれど、その少しの間にチカンにでもあったら……電車の中で酔っ払いに絡まれたら……
そんな嫌な想像ばかりをしていた。
だから、美夜ちゃんが部屋を探してると聞いたとき、自分の時も世話になった知り合いを頼った。
候補は3つくらいあったけど、うちからほど近いアパートを強く勧めた。
どんなに遅くなっても、終電までに駅に向かって自宅へ帰る美夜ちゃん。
家が近ければ、もしかして泊まってくれるんじゃないかという目論見は見事に外れてしまった。
近いんだから朝から着替えに戻ればと、再三に渡って言ったけれど今でも必ず帰って行く。
ストーカーのような見届けは続くこととなり、時間も伸びたけど、美夜ちゃんが建物に入って部屋から連絡がくれば安心なのでよしとしている。
万一、美夜ちゃんが振り返って一連の行動がバレてしまっても特に問題はないのだし。
好きな女の子が夜道を一人歩きするのに、心配しない男なんていないばずだ。
なので、そうコソコソ振舞っているわけではない。
見咎められたら、心配だから家で待てるわけはないと再度説得を試みて横を歩くだけだ。
断っても勝手に後ろをついてくるとわかれば、美夜ちゃんも根負けしてくれるのでは……と、むしろ望んでいるくらいなのに。
それなのに、いつでも美夜ちゃんは思いつめたように視線を下げて、一度も後ろを気にしたことはない。
毎回、僕と体を繋げたことを後悔してるんじゃないかと、それだけが不安で切なかった。
今日も無事に中に入って行く。
ゆっくりと来た道をもどりながら連絡を待つと、程なく律儀にメッセージを受信した。近くの自販機の灯りが眩しい。
『部屋に入りました』
よかった。歩調を通常のそれに戻して家路をたどっていった。
『今日も無事でよかった』と返したら、少ししてまた連絡が届く。
『声が少し枯れてたので早く寝てね』
その一言にうれしくなる。
『心配してくれてありがとう』と『おやすみ』を返す。
それ以上の返事はいつもない。
おやすみも、一度もかけられたことがない。
一緒に眠りにつくことができれば……
美夜ちゃんの優しい声でささやかれるその言葉を最後に、1日を終えられる。
それは、とても魅力的な未来だった。
いつか叶うといいのだけど。
美夜ちゃんが我を忘れるくらいに乱して、それこそ起き上がることも億劫なくらいに抱き潰してしまうこともたぶん可能。
でも、そうすると警戒心満載の彼女は、次にはもう訪れてくれないかもしれない。
アパートに帰って、コーヒーカップを片付ける。
中身は冷めたコーヒー。今日はきちんとドリップした。
いつも、ほんの少し口をつけられる。でも、飲み干されたことはない。
ブラックコーヒー、好きなはずなんだけど……
味覚が変わってしまったのか、好みのものを出せないでいるのか。
違うものをと声をかけても『大丈夫』と言われてしまう。
インスタントにしてみたり、ドリップしてみたり、苦味が強いもの、酸味が強いもの、と色々淹れてみた。
いつのまにか、一人暮らしの大学生には不釣り合いなほどに器具がそろっている。
コーヒーにこだわってしまって、頑なに出してしまっている自覚はある。
美夜ちゃんを、本当の意味で好きになったきっかけだったから。
その出会いを、彼女は覚えていないんだと思う。
コーヒーをこだわって出すたびに、少しでもこの気持ちが届けばいいのにと思っていることを、美夜ちゃんはしらない。
そして、届かなかった想いをシンクに流す時、毎回ちょっと傷ついていることも。
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