絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い***

ダメ、絶対。6

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「今日は泊まって行って。あと、これからずっと美夜って呼ぶから、美夜ちゃ……美夜は僕のこと拓眞って呼んでね」
坂本くんはべったりと張り付いたまま。
「だから、もうちょっとしたら帰るの!坂本くん、わがままばっかり言わないで……」
なんだか今日は突き放すことができなくて、そのままの距離で精一杯の虚勢を張る。
「美夜……のほうがわがままだと思うけど」

え!?わがままなんて言われたことない!

そんな気持ちが顔に出てたんだと思う。
「……いつまでも泊まっていかないし。かと言って送らせないし。キスもさせないし。部屋にも入れてくれないし。乱れてがまんできない時しか拓眞って呼ばないし。なのに僕が美夜を抱く時には名前を呼ばせないし。顔を見ながら抱かせてくれないし……」
そこで言葉を切って、また強くかき抱かれる。
「………もし、その好きな男に抱かれてる気になりたいなら、そうはさせない。これからは美夜って呼ぶし、誰と繋がってるのかを見せつけて、身体中に刻みつける」
耳元で残酷なことを言う。

「だって……」
瞳が潤んできたので、瞬きを繰り返した。

だって。勘違いするのも、惨めになるのも、いつか名前を間違えられるのも嫌なんだから、仕方がない。

なるほど。確かに……わがままかもしれないけど、他の人を抱いてる気になってるのは自分のくせに。
りこちゃんを抱いてる気で、愛おしげに見下ろされるのがいたたまれない。
いつか、その表情が現実を受け止めて歪むのを見たくない。
どれもいえない。だから、坂本くんだけが饒舌になる。
「……急に、名前で呼び合ったら、変に思われるし」
やっと私が言えたのは、たったこれだけ。
「……わかった。じゃあ、二人の時だけ」
それはそれで、苦しい。多くを望んでしまうから。
「それ以上は譲らない。この部屋では美夜って呼ぶから。拓眞って呼んで。この部屋に、もう来ないなんて選択肢もないから」
その選択肢は、私にもなかった。だって、結局私が会いたいんだから。

「……拓眞、くん、でも……いい?」
坂本くんの唇が、私の耳元にあるように、私の言葉もすぐに坂本くんの耳に滑り込む。
「……うん。わかった」
「あと……ね」
小さく呟いたけど、聞こえてるはず。
「た、拓眞くんを、その…誰かの代わりにしたことなんて、ない……から。……私は」
恨みがましく付け加えてしまった。
坂本くんの体が一瞬強張った気がするけど、それを確認する前に苦しいくらい力を込められた。
坂本くんが切実な祈りのように、大切な告白のようにこう言った。

「僕も、ない。抱きたいのは、美夜……だけだ」

坂本くんは、ウソツキでもあったらしい。
そのまま鵜呑みにして、信じてしまえれば楽なのに。
もしかして、私にだけ都合のいい空耳かもしれない。
心の中で『りこちゃん以外は』って言ってるかもしれない。
それでも。心が踊ってしまう。呼吸の仕方が合ってるかわからない。
ゆっくりと、坂本くんが体を離す。
顔が見える。真剣で、とてもウソを言ってるようには見えないから困る。

じっと目を合わせるから、ついそらしてしまった。
再度確認するみたいに大好きな人が請う。
「美夜って呼ばせて……」
なんて、そんなの。
「……ダメ。……絶対」
一応言ってみたけど、私が『拓眞くん』って呼んでるから、本当は答えがわかってるんだろう。否と言っても呼ぶのだろうし。
視線を戻したら、まだ熱く見つめられていて目が反らせなくなった。
今度は片手が伸びてきて、あごをすくい取られる。
ゆっくりと、顔が近づいて、視線を絡めたまま何かを言おうと口を開いている。
ダメ。今言わないで。今言われたら、そのまま瞼を閉じてしまうかもしれない。

ダメ……絶対。

なのに、意地悪な坂本くんは、予想通りの言葉を紡いだ。

「キス、したい」
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