絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い****

となりにいさせて。2

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美夜ちゃんが子鹿のようにプルプルしながら浴室に消えた後、寝具を軽く整えて、一人暮らしには十分な広さのキッチンに立つ。
コーヒーを入れるべく器具を用意してる間に、美夜ちゃんとの行為の余韻がさざ波のように押し寄せた。

かわいい鳴き声も、扇情的なうなじも、柔らかな髪も、全て思い通りに堪能した。
いつもは手加減してるから、すぐにシャワーを浴びに行ってしまうけど……今日は無理をさせすぎて動けないのをいいことに、力なく横たわる気だるげな美夜ちゃんを散々撫で回して補給した。
どれだけ触れても飽きることはなく、満たされることもない。
もっと。いつでも。そう考えると、長く想っているという男を、美夜ちゃんの心から追い出して、自分がそこに収まるしかないだろう。

「……名前、呼ばないで」
髪をいじりながらからかうと、弱々しく答えながらもそんなことを突きつけてくる。
その願いが、いつもきっちりと僕を傷つけているのを、美夜ちゃんは知らない。
普段は流すこともできるけど、今日は自分から笑みが消えたのがわかった。
いつも、名前を呼ぶのを嫌がる美夜ちゃん。想い人の声じゃないからかもしれない。
そう思うといたたまれなくて、悲しくて、せめて僕の名前を何度も呼ばせた。

美夜ちゃんが、愚かな僕を慰めてくれた。
体は許すのに隙は見せず、想いを口にすることすら許されない……それなのに、みっともなく体だけでもと縋る僕の、ささやかな願いを叶えながら。
「何か、あったの?さ……あ、た、拓眞くん?」
髪を撫でたり梳いたりしながら、慣れない名前を呼んでくれる。一生懸命慰めてくれる。……情けない。
でも、弱さを見せただけで美夜ちゃんが甲斐甲斐しく自分を慰めてくれる様子に、これはこれでいいかと浮上しかけた時。ふと、僕の髪を撫でる手が止まった。もっとと、擦り寄ろうとした、その時。
柔らかな感触が、頬に押し当てられた。

信じられなくて、時が止まった。
こちらがねだったり、手を回したり、逃げ道をふさいだり……男らしからぬ振る舞いを駆使して仕向ける以外に、美夜ちゃんからそういうことをしてくれたのは初めてだった。
それこそ、さっき僕の欲の残滓を綺麗に舐めとってくれたのだって、もともと口での慰めを要求したのはこちらだ。
体を繋げるたびに応えてはくれるものの、積極的には行為しない美夜ちゃんの唇に、僕自身をふくませるなんてそうそうできない。
でも、頼めば……恥じらいながら、困った顔を見せながら、健気に奉仕してくれる。
「……変な顔になるの、見られたくないの」
今日、そう告白されたのが嬉しかった。
その行為自体が嫌なんじゃなくて、それが恥ずかしいのだと告げる彼女ががんばってくれたので、張り切ってお返しをした。……張り切りすぎたかもしれないけど。

「美夜ちゃん、今ほっぺにキスしたっ!?」
そんな彼女が、いつも送るだけの頬へのキスを自分からしてくれたのは初めてだった。
信じられなくて確認すれば、真っ赤に染めた肌で答えてくれる。
近すぎる距離でも、美夜ちゃんが赤くなってるのがわかる。でも同時に、自分の方が絶対に赤くなってるのが、顔に集まる熱でわかった。
「美夜ちゃんからキスしてくれたの、初めて」
そう言うと『……名前…』と小さくつぶやいたけど、それは無視。
美夜ちゃんが呼ばれたくなくても、それを突きつけられてへこんでも、やめるわけにはいかない。

美夜ちゃんの好きな人の声を、上書きしなきゃいけないから。
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