絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い****

となりにいさせて。3

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ちょっとだけ落ち着いてきたけど、心臓はまだせわしなく弾んでいる。
心を鎮めるために美夜ちゃんの柔らかな頬をなでていたら、少し欲がでてきた。
「唇にも、キスしたい」
今なら頷いてくれないかと口にしたけど。『それは……』と紡がれた言葉の先を聞きたくなかった。
イヤ。ダメ。ヤダ。……そんな否定の言葉聞きたくない。
とっくの昔に体の隅々まで僕に暴かれているくせに、誰かのために操をたてて、その唇と心だけは明け渡さない。そんな健気な彼女を、涙が枯れて心を壊すまで蹂躙してしまうかもしれない。

指を突っ込んで、舌を弄び、口蓋を撫でて美夜ちゃんの唾液に濡れたそれを引き抜いて味わった。
「美夜ちゃんの……ずっと好きな人って、美夜ちゃんをなんて呼ぶの?」
そう問えば、戸惑うように瞳を揺らし『……美夜ちゃん』と答える。
今、まさに好きな人の声が彼女の中で再生されたんだろうなと思うと、苛立ちよりも悲しみが襲った。

競うように『美夜って呼ぶ』と宣言して、子供っぽさを露呈させてしまったけれど、仕方がない。
美夜ちゃんをいつも抱いているのが誰なのか、擦り込むようにわからせないと。
美夜ちゃんにも、呼び捨てを強要してみる。難色を示すとわかっているけど、繰り返すことにする。
そのうち、諦めて『拓眞くん』くらいは呼んでくれると踏んで。
「美夜って呼ばせて……」
そう懇願したけど、やっぱり否定の言葉。
「……ダメ。……絶対。」
よし!大分弱々しい!
押し切ったらいけるかもしれない。
「じゃあ、キスしたい」
いつか絶対するけど。美夜ちゃんの中から長年の片想いなんて追い出して、他の男が入る隙間もないくらい溺愛するけど。

『いつになったら、なにをしたら、美夜ちゃ……美夜にキスできる?』
『美夜ちゃ……美夜。いつになったら、僕を好きになる?』
その問いを振り切って、いつもはしなやかな猫を思わせる彼女が、震える子鹿の風情で浴室に消えた。
結構な時間をかけていなくなった美夜ちゃんに、やっぱり無理をさせたなってほんの少しだけ思った。
反省も、後悔もしていないけど。

美夜ちゃんを待つ間、コーヒーを蒸らす。
今日は酸味の少ないものを入れてみる。
ふと、シューズボックスに追いやった、テイクアウトのドリンクを思い出した。
ホットのブラックコーヒーを好むと思っていた美夜ちゃんが、この部屋ではなかなか出したものを飲み干してくれない。
缶コーヒーを買い求めるくらいだから、こだわりが強すぎるとも思えないんだけど。
普段どんなものをオーダーしてるか知りたくて、玄関まで取りに戻った。
散乱した靴に、自分の余裕のなさを感じて失笑がもれた。美夜ちゃんがいつも通りに靴を揃える間も与えられなかった。

キッチンスペースに戻って回収したドリンクを見つめる。
こっそり飲んだら、あまりに変態的だなって思っていたら、ドアが開く音と、ゆっくりゆっくりこちらに近づく気配がした。
幸いと、飲んでみていいかの確認をとった。
「冷めてるから美味しくないよ」
なんて言うから『大丈夫』と答えながら想い人を見遣って……時も、音も、すべて止まった気がした。

もともと、顔が変わるくらいの化粧なんて施していないようだけど。
すっぴん。濡れた髪。全部男の大好物!
メイクが落ちて、つるりとした肌が光を跳ね返してる。頬はシャワーの後で上気して、健康的だ。
あどけない印象に反して、濡れた髪が色気を纏ってるのに、動けなくなった僕を小首を傾げて見てくる。
なにこのかわいい生き物!
大股で距離を詰め、抱きすくめた。自分が普段使うシャンプーと同じ香りが嬉しくて、でも、同じはずなのにほのかに甘く感じるのがたまらない。
「今日、泊まってくれるの?」
初めてのすっぴんだし、髪も洗ってるし、足は震える子鹿だし……間違いないと思ったのに!
『もうちょっとしたら帰る』って?

美夜ちゃんは、とってもわがままで頑固だと思う!
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