サキュバス村の色魔王 〜性欲を魔力へと変える力とスキル【賢者タイム】で無双してたら魔王扱いされたのでちょっと異世界征服してくる〜

虎戸リア

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魔霧の森の賢者

4話「黒鎧と銀髪」

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『さあこの杖の真の力を解放させるのです! 私に続いて詠唱してください!』
「激アツ展開! よしきた!」
『では……“そして僕は愛液湧きし泉の脇にそっと佇む蕾へと舌を——”』
「却下! 真面目にやれ!」

 もう飛び出しちまったぞ!

 飛び出してきてバスローブ男な俺に、銀髪少女も、黒鎧も気付く。
 一瞬目をこちらに奪われた銀髪少女に黒鎧の凶刃が迫る。

『仕方ないですね……ではこちらで……“射貫け、惑わしの槍”』
「真面目な奴あるじゃねえか!! “射貫け——惑わしの槍!”」

 そう詠唱し俺が振り上げた杖の先を赤い水晶が覆う。それは幅広の刃を持つ槍へと変化していった。

「VRゲームで散々鍛えた俺の槍さばきを舐めるな!」

 銀髪少女へと剣を振っていた黒鎧の脳天へと俺の槍が直撃する。

 槍は何の抵抗もなく易々と黒鎧の兜を切り裂き、そのまま鎧ごと縦に切断する。

 待ってくれ、せいぜい兜凹ますつもりぐらいでやったのに……切れ味やべえ。

 俺いきなり人を殺しちゃった!?

 しかし、俺の心配をよそに鎧の中から蒸気のような物が噴き出し、真っ二つに裂けた鎧だけが音を立てて地面へと崩れた。

「中身がない!?」
「魔蒸兵だ! 知らないのか!?」

 間一髪剣を避けた少女が驚きながらそう俺に怒鳴る。

「知らん! とにかく君は逃げろ!」
「無用! 4対2なら……勝てる!」

 俺の助太刀を好機と見た銀髪少女が叫びながら黒鎧へと反撃を開始する。

「とりあえず人じゃねえなら容赦なく倒す!」

 残り4体だ。俺は左右から迫る2体へと、薙ぎ払うように槍を振るう。2体の鎧を横一文字に切り裂き、蒸気が噴き出す。

「はあああ!! 【絶対凍結】!!」

 銀髪少女が裂帛の気合と共に黒鎧に突っ込み、その細剣レイピアに宿る冷気が唸らせた。
 
 彼女の細剣が黒鎧に触れた瞬間にパキンッ! という澄んだ、まるで空気が凍り付くような音が鳴り、黒鎧が霜に覆われていく。
 そのまま黒鎧の動きが止まり、沈黙。

 おお、なにあれ凄い。

『余所見してる余裕はないですよ!』

 リリスの声と共に俺の目の前にいた最後の一体の放った斬撃を杖で防ぐ。意外と強度はあるのか、杖は傷一つ付くこと無く剣を受け止めた。

『痛い! 乱暴なのは嫌い……でもないです!』
「そうかよ!」

 俺はそのまま剣を弾いて杖を短く持ち直し、くるりと回した穂先で黒鎧を突く。
 風穴空いた黒鎧の胴体部分から蒸気が噴き出し、そのまま地面へと落ちた。

「うっし、討伐完了! 経験値とかドロップアイテムはないのか?」
『ゲームじゃないですからね』
「冗談だよ」

 俺は、凍結した黒鎧を蹴飛ばし粉砕した銀髪少女の方へと向いた。

「あー、えっと俺は」
「貴様、何者だ」

 銀髪少女が赤い瞳に剣呑な光を浮かべたままあの細剣を俺へと向けていた。

 あれ? ここは助けてくれてありがとうございます! 好き!
 みたいな感じじゃないの?
 というか自己紹介しようとしてたの止めたのそっちだろ!

「俺は井上典雅いのうえてんが。あーそこにあるリリン村に住んでいる? これから住む予定? 客人?」
「怪しいな……あの場所は男子禁制。そもそもあそこは。貴様のような凡俗が近寄れる場所ではない」
「凡俗て……。んーそう言われてもなあ……」
『……』

 銀髪少女が今にも噛み付いてきそうな表情を浮かべ、青白くなった顔でこちらを睨んでくる。

 参ったなあ……助けたのに全然信用されてない。めちゃくちゃ警戒心マックスだよこの子。野良猫かよ。

「そうか……貴様もコーン卿の手先か。良い、ならば容赦はせぬ!」
「いや、ちょ待ってくれ!」

 少女が地面を蹴る。思ったよりも速いその動きに俺の反応が一瞬遅れた。

「あ、まずい」

 剣先がブレるほど速い突きが俺の喉へと迫る。

『はあ……誰に似たんでしょうねえ……この人の話を聞かない困ったちゃんは。仕方ありません、ちょっと眩しいですが我慢してください』

 リリスがそう言った瞬間に杖先の宝石が目も眩む光を放った。同時に目の前に迫る少女のペンダントも共鳴し光を放つ。

「っ!!……」

 その瞬間少女が気絶した。

「おっと!」

 少女がこちらへと向かってきていた勢いのまま俺の胸に飛び込んできた。俺は思わず、彼女は抱くように受け止める。

 折れそうなぐらい細いその身体はびっくりするぐらい軽く——そしてどうしようもなく柔らかかった。杖を持ってて良かった。でなければその感触で俺はどうにかなりそうだ。

 気になるのは彼女がまるで死んでいるかのように身体が冷たい点だ。

『秘術の使い過ぎよ……馬鹿な子。テンガ様、早急に村に連れて帰って湯か何かで温めてあげてください』

 リリスの声には、言葉と裏腹になぜか愛情に似たようなものを俺は感じた。

『あ、彼女にえっちぃ事したら殺しますからそのつもりで』
「しねえよ! 殺すとかさらりと言うなよこえーよ」
『冗談です』

 俺はそのままその銀髪少女を背中に乗せ、杖と細剣を持って、来た道を戻る事にした。

 問題は……来た道が霧で全く分からない点だ。

 前途多難だ……。

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