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魔霧の森の賢者
11話「リリン村防衛戦決着」
しおりを挟む魔蒸兵と同じ黒鉄と、歯車そして蒸気を噴き出すパイプによって構成された4足歩行のドラゴン。目らしきガラスの部分が赤く発光しており、ボルト止めされた顎が開く。
「キュgysdgdfhdぎゅgaaあraaa!!」
甲高く不快な咆吼と共に、そのドラゴンが頭にネルスに乗せこちらへと突進してきた。
「テンガ様! あれは危険です!」
止めようと間に入ったサキュバスの戦士が前脚の一薙ぎで吹き飛ばされた。どうやら攻撃と同時に高熱の蒸気を噴き出しているらしく、近付くだけで火傷しそうだ。
『へー、リビングアーマーの技術もあそこまで進んでいましたか。人も侮れないですね。どうします? 奪う事もできますよ? 魔力だいぶ消費してるんで少々時間いりますけど、あ、今ここでメリッサを裸に剥いてスキンシップを取』
「そんな暇ないな!」
「リシア様ぁ!」
ネルスの叫びと共にドラゴンの右手が俺達へと放たれた。高熱を纏い赤く発光しているあの手は撫でられただけで大怪我を負うだろうな。
「くっ! 下がれテンガ!」
無謀にも剣を向けたリシアを抱き寄せる。
「リシアもな!」
「ばか! 変なとこ触るな!」
そのままリシアを抱えて横っ飛び。間一髪ドラゴンのお手を避ける。
「貴様ぁぁぁ! テンガ様に刃向かった罪は重いぞぉぉぉ!!」
反対側に回避したメリッサがなんかぶち切れて、節くれだったノコギリ剣を構えドラゴンへと突撃する。
「そんなちゃちな剣が届くか蛮族ぅ! ぐふふ僕をここまでコケにした奴は全員生きながら僕直属の魔蒸奴隷にしてかわいがってやるぅ!」
「先代賢者様の剣を馬鹿にする者は……万死に値する!」
メリッサが、ドラゴンの左手の引っ掻きをバックステップで避けながら剣を振りかぶった。
その瞬間に、剣のギザギザした刃が——伸びた。
刃の節となった部分がワイヤーのような何かで伸び、まるで多節棍のように、鞭のようにしなる。
「ガ〇アンソードじゃねえか!」
俺のツッコミと共に、メリッサのしなった剣が目で追えぬ速さでネルスへと迫った。
「っ!!」
咄嗟にドラゴンの右手を上げて、唸りを上げるメリッセの剣を弾く。
流石にそう簡単にやらせてはくれないかと思ったと同時、空気が裂けるような大きな破裂音が鳴った。
「かはっ……!」
しなる剣撃を防いだはずのネルスが耳や鼻や目から血を流し、膝を崩していた。
『精霊魔術による風で、剣先で起きたソニックブームを強化した感じですねー。んー職人芸な使い方。剣自体を防いでも音波による攻撃を防げないので、無傷で受けるのは至難の技ですね』
解説サンキュー。めちゃくちゃおっかない技じゃねえか。
「チャンスみっけ!」
聞きおぼえのある声と共にドラゴンの動きが一瞬止まる。操っているネルスが負傷すればやはり動きは鈍るのだろう。
『あ、今なら動き止められますよ?』
俺の視界の端にドラゴンへと赤い風が向かっているのが見えて、杖をドラゴンへと向けた。
「俺が動きを止める!」
ドラゴンとリリスの間に不可視の糸がピンと張るような感覚と共に、ドラゴンの動きが完全に止まる。
「なにぃ!? 動けぇ! 動けぇ!」
ネルスが杖を振り回し、魔力をドラゴンへと注ぐが杖から放たれた俺の魔力をリリスが使いそれを妨害する。
致命的な隙を見せるネルス。
そしてそれを見逃すほど——彼女は甘くなかった。
「はああああああああ!!」
赤く燃える颶風がドラゴンを駆け上る。
「トドメは任せましたよ——ミーニャ」
メリッサの伸びた剣が金属音を鳴らしながら元の形に戻す。
それと同時に、炎を纏わせた曲刀を翼の様に広げたミーニャが膝を付くネルスへと疾走。
「馬鹿なぁ! 蛮族がぁ、売女の癖にぃ! リシア様は僕のも——」
交差された2本の曲刀によって、言葉途中でネルスの首が飛ぶ。
刃に纏う火によって、ネルスの身体が燃えながらドラゴンから転げ落ちた。
「敵将、討ち取ったりぃぃ!!!」
ミーニャが雄叫びを上げると、他のサキュバス達も歓声を上げた。
どこの戦国武将だよ。可愛い顔してこいつら揃いもそろって戦闘狂っぽいぞ。
「一件落着……か?」
俺の言葉に、あっけにとられていたリシアが小さく返してくれた。
「そうだな……」
『あ、テンガ様、魔蒸兵とあの機械竜も貰っておきましょ。さっきの操作阻害ついでにちょっと中身を見てみたんですが……中々にそそる機構で……ちょっと研究したいです。ぐふふ……ああいうメカ系には私弱いんですよ……魔改造してやろうか』
なんかリリスさんがおっかない事を考えているようなので、一応メリッサに聞いてみる事にした。
「メリッサ、魔蒸兵とあのドラゴンは俺が貰っていいか? 村の警備に役立てるかもしれない」
「勿論です。それでは今度こそ帰りましょうか。まだテンガ様の歓迎祭も行っていません」
「ああ、そうだな。それに——事情を聞かないとな」
俺はそう言って、リシアへと向いた。
「分かっている」
無表情のままリシアが頷き、綺麗な銀髪が揺れた。
こうして、リリン村第一次防衛戦が圧勝で終わったのだった。
俺は途中からほぼ何もしてないけどな!
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