群青よ、歌え ~陽キャでリア充な俺が恋をしたのは、底辺だと思っていた地味系陰キャ女子でした~

虎戸リア

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02:SNSクイーン

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「ねえ~リョーマさあ、ウチら付き合おうよ~」

 フライドポテトの匂いと共に、香水のような甘い声を出したのは俺の女友達の一人である今里いまざと美佳みかだった。

 自由な校風が売りの桜香高校でも、彼女ほど髪を明るい金色に染めている生徒もいないし、SNSのフォロワー数ランキングがあればぶっちぎりで一位だろう。なんでも現役高校生でありながらフォロワー数が全国トップスリーなんだとか。カリスマギャルとか、美佳様とか呼ばれているらしいが、俺からすれば普通の女の子だ。

 俺はため息をひっそりとついて、赤い容器から溢れているポテトから視線を上げた。
 カラオケボックスでのアルバイトが終わった後、俺は美佳に呼び出されて某ハンバーガーチェーン店にやってきていた。夜、21時のファーストフードショップには色んな人間がいる。会社帰りの疲れ切った社会人。騒ぐ大学生。そして金髪ギャルとイチャイチャしている俺。

 だけど、そんな景色も白黒の背景でしかない。俺の頭の中では、ずっとあの青い歌と地道さんの顔が交互にリフレインしていた。

 あれ、なんて曲なんだろう。

「ねえってば~」

 俺は美佳にされるがままに、ポテトを口に放り込まれる。背が低いわりに胸が大きい美佳がしだれ掛かってくるせいで柔らかい感触が左腕に当たるが、その程度のことで興奮するのはもう小学校で卒業した。

 だがふと、その感触で今日、あのカラオケボックスで地道さんを見下ろした時に見た、あの慎ましい胸を思い出す。にわかに下半身に血が集まってくるような錯覚を覚えた。

「んー、そうだなあ……」

 心、ここに非ずといった風の俺の煮えきれない返事に、美佳が派手めな、でも間違いなく似合っている、化粧をした顔に怪訝そうな表情を浮かべた。

「〝嫌だよ。付き合ったら美佳としかデート出来ないじゃん、俺は博愛主義なのさ〟……とかなんとか言わないんだ」

 美佳の声まねが妙に上手いことに俺は思わず笑ってしまった。

「俺はそんなこと一回も言ったことねえよ」
「近いことは言ったし~。つか、何? 今日調子悪くない? お腹痛い? バイトで疲れた? もしかして呼び出したのメーワクだった?」

 美佳が申し訳なさそうな表情をするので、俺は美佳の小さな頭をポンポンと叩いた。

「大丈夫、腹減ってたし丁度良かった。ありがとう心配してくれて」

 自分で言いながら、その言葉に釣られて地道さんの歌が脳内で再生される。

 〝息を吸うように隣に君がいて、それで僕らは一つだ。だから僕は優しい赤い嘘に青線を引いていく……〟

「……それ、歌?」
「え?」

 美佳が首を傾げて、俺を見つめていた。どうやら無意識で口ずさんでいたようだ。

「なんか良い歌だね」
「何の曲か分からないんだけどね。偶然、耳にしただけだし。美佳はこの曲のこと知らない?」

 俺がそう言うと、美佳がキョトンとした表情を浮かべた。何にそんな驚いているんだ?

「え? えっと……リョーマでも知らない曲をウチが知るわけないし……。リョーマって一度聞いただけでメロディーも歌詞もタイトルも全部覚えられるんでしょ? 作詞作曲とヘンキョク? も出来るし……」
「編曲な。まあそうだよなあ……じゃあオリジナルかも」

 となると……地道さんが作詞作曲した? いや、まさかね。

 なんて俺が考えていると、美佳がスマホを俺に向けた。

「もっかい歌って」
「へ? ああ、なるほど」

 スマホの画面には、ハミングや口笛、鼻歌だけでその曲のタイトルを教えてくれるアプリが起動していた。
 俺は覚えている限り、正確に歌う。

「うーん……該当無しだって。やっぱりオリジナル曲か、よっぽどマイナーな曲なのかも」
「ふむう」

 いや、つうか、地道さんに聞けば話は早いんだけどね。よし、明日学校で聞いてみよう。

 そんな俺を見て、美佳が目を細めた。

「なんかさ、やっぱりリョーマ変だよ」
「何が?」
「リョーマが、ウチに何かを聞くなんておかしい」
「なんだそれ」
「リョーマは何でも知っているし、全部自分で解決出来るから、ウチらなんて頼らないじゃん。聞く前に答えをもう持ってるっていうか」

 美佳が拗ねたような声で言葉を続けた。

「だから、ウチらには何も期待もしてないんだなって思ってた。だから、さっきはちょっとびっくりした。ウチ、頭悪いけど分かるよ、リョーマは珍しく何かに悩んでる」
「悩んでる? 俺が? まさか。気になる曲があるだけだよ」

 そう、知らない曲があって、それが気になるだけだ。何もおかしくはないし、悩みですらない。

「リョーマなら、ネットと知識を使ってとっくに答えを出してると思うけど。聞いた場所とか歌っている人とかそういうのから答えを出せるんじゃないの?」
「あー」

 それは確かにその通りかもしれない。

「それがないってことは……何かをウチに無意識で隠してる」

 ジトっと見つめてくる美佳に、俺は降参の意思表示として両手を宙に挙げた。

 ああ、そうか。

 俺は地道さんのことを、今日の出来事を、隠したかったのか。なのに、あの歌の良さを共有したかった。だから無意識で口ずさむし、この曲知ってる? なんて分かりやすい話題を振った。

 それを目敏く見抜いた美佳はやっぱり凄いやつだ。自分では、〝ウチはバカだから〟と言うが、俺は決して彼女をバカだとは思わない。

 女の勘を決して侮ってはいけないし、本当にバカならフォロワーなんて増えないだろう。

「俺の負けだよ。だから勘弁してくれ」
「じゃあ教えてよ」
「それも出来ないんだ。俺もまだ、整理出来てない」

 なんだか言葉にすると、消えてしまいそうだから。
 あの歌が、まるで朝起きた時にはすっかり忘れてしまっている夢のような物のような気がして仕方が無かった。

「じゃあ、いつか話して」
「もちろん」
「なら許す」

 そう言って、美佳がにっこりと笑った。

 だけど、俺はそれを見てこう思ってしまった。

 地道さんも、こんな笑顔を浮かべるのだろうか、と。
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