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5話:拒絶
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レストランを出て、春の夜風に当たりながら手を握ってくる悠人の誘いにさくらは迷っていた。
少しだけだったはずの赤ワインがくるくると頭の中を回っているのが分かる。思考能力は正常? 大丈夫、まだ私は大丈夫。
その最中で嫌な声が蘇る。
“経験ないんだろあんた”
“だから処女臭えんだよ”
さくらは、小雪にまつわる噂を思い出した。
“三組の灰川小雪ってハルウリらしいよ”
あいつは、ハルウリだ。
つまり……男性経験だけで言えば、私より上だ。
だからか。だからあいつは! 私を見下して!
さくらの思考が真っ赤に塗りつぶされていく。
「大丈夫さくらちゃん? 酔っちゃった?」
「大丈夫! ジュース飲みたい!」
「あはは、おっけー。じゃあタクシー使おう」
さくらは、悠人と共にタクシーに乗り、彼の部屋へと向かった。
悠人の部屋は、タワーマンションの上層階にあった。
「よっし、じゃあジュース作るから、適当に寛いでて」
「はーい。あ、ソファに座っていい?」
「もちろんさ、マイマジェスティー」
おどけて貴族っぽくお辞儀をする悠人にさくらは思わず吹き出した。
さくらは、もう流れに任せてしまおうと考えるようになった。この流れならもしかしたら。
そうすれば、もうあんな奴に見下されなくてすむ。
ミキサーの静かな駆動音が部屋に響く。
「お待たせ」
「美味しそう! 写真撮っていい?」
「もちろん! 僕も撮っていいかい?」
「好きだよねカメラ」
「被写体がいいからだよ。いつもモデルになってくれて感謝してる」
悠人が持ってきたのは、オレンジ色のスムージーで、いちごやオレンジスライスがグラスの縁にデコレーションされていた。
「じゃあ、乾杯!」
さくらが、一口飲む。少しだけ粒々が残ったジュースは甘くて複雑な味がした。
「これってフルーツだけ?」
「フルーツと、蜂蜜と、あとは秘密」
悠人が笑いながら、指を口に当てた。
「ええ! もう教えてよ~」
コロコロと笑うさくら。しかし、その表情が次第に曇っていく。さきほどレストランを出る前にトイレに行ったばかりなのに、なぜか急にまた行きたくなってきてしまった。
お酒を飲んだせいかしらとさくらはのんびり考えていた。
「どうしたの?」
悠人が目を細めて笑みを浮かべていた。
「ちょっとお手洗いお借りしていい?」
「そこの扉出て左だよ」
「ありがとう」
さくらがソファから立つと、焦ってると思われない程度に全速力でトイレに向かった。
「へーやっぱり効くんだねえ。さって充電切れてないといいけど」
さくらがトイレの扉を閉じる音を聞いてから、そう悠人は呟いた。
その後さくらはさりげなく身体を求めてくる悠人を失礼でない程度に拒絶してそそくさと部屋から出て行った。
さくらは覚悟していた割に、結局拒絶してしまった自分に嫌悪感を抱きながら帰宅したのだった。
少しだけだったはずの赤ワインがくるくると頭の中を回っているのが分かる。思考能力は正常? 大丈夫、まだ私は大丈夫。
その最中で嫌な声が蘇る。
“経験ないんだろあんた”
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あいつは、ハルウリだ。
つまり……男性経験だけで言えば、私より上だ。
だからか。だからあいつは! 私を見下して!
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「大丈夫さくらちゃん? 酔っちゃった?」
「大丈夫! ジュース飲みたい!」
「あはは、おっけー。じゃあタクシー使おう」
さくらは、悠人と共にタクシーに乗り、彼の部屋へと向かった。
悠人の部屋は、タワーマンションの上層階にあった。
「よっし、じゃあジュース作るから、適当に寛いでて」
「はーい。あ、ソファに座っていい?」
「もちろんさ、マイマジェスティー」
おどけて貴族っぽくお辞儀をする悠人にさくらは思わず吹き出した。
さくらは、もう流れに任せてしまおうと考えるようになった。この流れならもしかしたら。
そうすれば、もうあんな奴に見下されなくてすむ。
ミキサーの静かな駆動音が部屋に響く。
「お待たせ」
「美味しそう! 写真撮っていい?」
「もちろん! 僕も撮っていいかい?」
「好きだよねカメラ」
「被写体がいいからだよ。いつもモデルになってくれて感謝してる」
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「じゃあ、乾杯!」
さくらが、一口飲む。少しだけ粒々が残ったジュースは甘くて複雑な味がした。
「これってフルーツだけ?」
「フルーツと、蜂蜜と、あとは秘密」
悠人が笑いながら、指を口に当てた。
「ええ! もう教えてよ~」
コロコロと笑うさくら。しかし、その表情が次第に曇っていく。さきほどレストランを出る前にトイレに行ったばかりなのに、なぜか急にまた行きたくなってきてしまった。
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「ありがとう」
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「へーやっぱり効くんだねえ。さって充電切れてないといいけど」
さくらがトイレの扉を閉じる音を聞いてから、そう悠人は呟いた。
その後さくらはさりげなく身体を求めてくる悠人を失礼でない程度に拒絶してそそくさと部屋から出て行った。
さくらは覚悟していた割に、結局拒絶してしまった自分に嫌悪感を抱きながら帰宅したのだった。
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