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【VerΑ編第1章〜ラノアのマイホーム】
14話「そして始まる前々前世」
しおりを挟む何度も壁にかけてある時計を確認する。
ただいま午後11時55分。後、5分で、【前々前世オンライン】が始まる。
私は、もう一度、済ませるべき事を済ませたかチェックした。
トイレ、行った。
お風呂、入った。
水分補給、した。
戸締まり、確認した。
「よし、これで大丈夫」
そわそわしながら、私はVR機器を被った。
明日から2日間、私は休みを貰っていた。田辺社長曰く、プレイに集中して欲しいからという事らしいけど……。
「ゲームしてお給料貰えるのって良いのかなあ……」
いまだに私には、信じられないような待遇だ。
雑務はするものの、さほど難しい事ではないのですぐに覚えた。それよりも私は、【前々前世オンライン】をプレイする事の方が重要な仕事らしい。
とはいえ、特に何かしろと言われたわけではない。むしろ、自由に好きにやったらいいと言われた。報告書もいらないらしい。
そもそも私が働いてるこの会社は、既に【前々前世オンライン】からは手が離れていた。元々の占い要素はさほど受けなかった(途中からサバイバルモード目当てのプレイヤーしか残らなかった)せいで、VerAからはほぼその要素は無くなったのだ。
今は鈴木さんの会社へ【前々前世オンライン】の名義だけを貸している状態で、ゲームの運営やサービスについては一切タッチしていない。
「だから、気兼ねなく、好きなように楽しんでくれていいわ」
そう田辺社長は言ってくれた。運営側だとやりづらいと思っていたので安心した。
ちなみにあれから鈴木さんとは会っていない。開発と運営で忙しいようだ。VerAについての情報は一切教えてくれなかった。鈴木さん曰く、普通のプレイヤーとして楽しんで欲しい、だってさ。
「うーんじゃあ普通に楽しんじゃお」
私は、VR機器のスイッチを入れた。
いつものホーム画面が目の前に広がる。私は、時計を確認する。
11:59
……あと少し
0:00
きた!
私は、既にダウンロード済の【前々前世オンライン】の表示が起動可能になっていることを確認して、私はそのロゴをタッチした。
世界が暗転。
ズーーンという効果音と共に【前々前世オンライン】のタイトルロゴが表示された。背景にいる暑苦しい顔をした太陽と月のキャラが若干ウザい。あんなの前いたっけ?
オプションも何もないので、『はじめる』の項目に触れた。
パリンッ! という心地良い音と共に、目の前の光景がガラスのように割れた。
真っ暗闇に浮かぶのはシンプルなダイアログボックス。
『貴方の生年月日と出生地、血液型、身長、体重、本名、ニックネームを入力してください』
私は前と同じ各データを入力していった。体重も、一緒だ(本当だよ?)
「……【平野亜紀子】、ニックネームは……どうしよっかな」
【アキコ】という名前はあまりにも有名になりすぎた。
だから、Verβが終わったあと、たびたびSNS上でニセアキコが出現するようになった、らしい(後から聞いた)
それを考慮して、私はニックネームを変えようと思っていた。どうせならもっと可愛い名前にしたい。いやアキコって名前自体は気に入ってはいるんだけど……
「ヒラノアキコ、だから……中だけ読んで……よし決めた! 【ラノア】にしよ!」
アキコを期待している人がいるかもしれないけど……私はこの正式版では、あんなプレイをしないと誓ったのだ。もう……ラスボスはお腹いっぱいだ。私は、ラノアとして生まれ変わって、のんびり楽しむつもりだ。
最後に、これで全て合っているかの確認が出て、私はOKを押した。
さあ始まる!
真っ暗闇から、タイトルにいたあのウザ顔太陽と月がまた出てきた。
「ようこそ……前々前世オンラインへ……」
「君の運命を歓迎しよう」
なんか厳かにその二人(ふたり?)がそう言った。
「これより君は、前世に生まれ戻るのだ。さあ、何世前に戻る?」
私の目の前に【前世を選ぶ】【前々世を選ぶ】【前々前世を選ぶ】の三択が並ぶ。
こんな要素なかったなあ。新要素かな?
んー前世を選ぶと……多分スピノサウルスだと思うけど、他の二つはどうなるんだろうか……。
だけど、私は迷った結果、【前世】を選んだ。
スピノサウルスが、恋しかった。ただそれだけ。
「良いだろう……では運命を、受け入れよ」
太陽と月がどアップになり、目の前が暗転。
さあゲームスタートだ。
…………
私は気付けば、あの激闘を繰り広げた【獣王広場】の真ん中に立っていた。
周りは相変わらず鬱蒼とした森だが、前に比べて随分と深く、高くなっている。
いや、違う。見れば、私は、私のままだった。
右端のウィンドウに自分の姿が映っている。
控えめな大きさの胸と、そこまで届く黒髪。
自分では気に入っているそれなりに可愛くて愛嬌ある顔
全体的に細い身体付きに、少し低めの身長。容姿が歳の割に幼いせいか更に小さく見える。
着ている服はVRオンライン上のいつもの服ではなく、白い布で作ったシンプルなワンピースだった。足下には丈夫そうなゴムみたいな素材で出来た靴。右腕にはメカメカしい腕輪が嵌まっている。
「前々前世オンラインへようこそだ!」
「あ、スーズ!! 久しぶり!」
「あん? あーVerβ経験者だな……データ収集中」
赤髪に赤い服のアシストAI妖精スーズがなんだかよそよそしい。
私の事忘れてしまったのかな?
「……データ照合完了。ランキング一位特典をボックスに転移済。改めて、ようこそ【ラノア】。これからチュートリアルを行う。あたしは、アシストAIのスーズだ。よろしくな!」
サムズアップするスーズだったが、なんだか、前とは違う……けど仕方ない。
「ちゅーとりある?」
「ああ。特にVerβ経験者は、混乱するだろうから、チュートリアルはスキップしない事を推奨するぞ」
「はーい」
スーズがくるんと一回転すると、スーズの横に、半透明のスピノサウルスが現れた。
「スピちゃん!」
間違いない、あれは私だ。
「これが、ラノアの前世の姿だ。君の力の源であり、力そのものだ。さあ、初期武器を選びな」
私の周りにエフェクトと同時に、半透明の武器たくさんが現れた。それらはくるくると私の周りを回っている。
見れば、剣だったり弓だったり槍だったりと様々だ。
これもVerβにはなかった。
「後から変更できるので、好きな物で構わないぞ」
その中で、一番ピンときたのが、
「扱いは難しいが、上手く使えば接近戦はかなり強い武器だな! それでいいんだな?」
「うん!」
ピロンという音と共に、
『【斧槍】を手に入れました』
というメッセージが表示され、私の手には鉄製の武器が現れ、ずしりとその重みを訴えた。
見た目は槍だけど、槍の刃の横に斧がついている。ハルバード? と言うらしい。なんだかこれが一番格好良い。というか近付かなくても倒せそうな感じが良かった。斧も付いてて強そうだし。
弓は使う自信がなかった。遠距離からぴゅんぴゅんするのも格好いいんだけど……。
「武器も決まった。さあ——運命を切り開け」
スーズがそう言いながら、消えた。
そして私の目の前に、
——半透明だったスピノサウルスが具現化した。
「ギャルアアアアアアアア!!」
敵意を剥き出しにした咆吼が広場に響いた。
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