【完】グランディール学院の秘密

伊藤クロエ

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「ひうっ!」
 初めてゲオルグに性器を口に含まれた時のことを思い返していたアリスティドは、だしぬけに軽く歯を立てられて思わず悲鳴を上げる。
「何を考えているんです?」
 アリスティドが集中していないことを責めているのか、揶揄しているのか、わからぬ口調でゲオルグが言う。
「そ、それ、は、う、んっ、はっ……っ」
 どう答えようか迷っているうちにまた再開したゲオルグの巧みな口淫に、アリスティドは再び限界まで追い立てられた。

「……どうしますか? アリスティド先輩」
 この期に及んでまだアリスティドの口から言わせようとするゲオルグに心底腹が立つ。だがゲオルグはあくまでも奉仕委員で、だからアリスティドの許可なくしては何もできないのだと言われてしまえば反論などできやしない。
「アリスティド先輩……?」
「ハッ、ハッ、あっ、く、そ……ッ!!」
 ゲオルグの口の中が熱くて熱くて、咥え込まれたペニスが溶けてしまいそうだ。そして先ほどからずっと優しく親指の腹で押されて刺激されている会陰の奥が疼いて疼いてたまらない。
「…………い、いい」
 きつく目を瞑ったまま、アリスティドは声を絞りだす。
「して、いいから」
 会陰に触れるゲオルグの親指が動きを止める。
「だから、はやく、イか、せ…………ッツ!!」
 その時、ゲオルグが暗闇の中でほくそ笑んだような気がしてアリスティドは目を開けた。だが会陰から降りてゆく指に後腔を揉みしだかれ、亀頭をぢゅっ! ときつく吸われて息を止める。
「あっ、う、はうっ!!」
 ひくひくと脈打つ後ろの入り口を引っ掻いては潜り込んでくる、太い指。だらだらと垂れるカウパーと彼の唾液、そしていつの間にか施されていた香油のせいで指はいとも簡単に狭い肉壁を掻き分けて奥へ奥へと入り込んでくる。
「あ、あ、あ」
 アリスティドは目を見開き背中を反り返らせて下に敷いたバスタオルをきつく握りしめた。
(ほんとうに、奉仕というのはこんなこともするのか)
 性の知識に疎い自覚はあるアリスティドは、彼らの言う『奉仕』というものが具体的にどういう事をするのかよくは知らない。
(ほかの者たちも、いつもこんなことまでさせているのだろうか)

 ぐちゅぐちゅと聞くに堪えない音を立てて潜り込んだ指が行き来する。それと同じリズムでペニスをしゃぶられて腰が痙攣する。
「っは、あ、あふ、んぐ」
「先輩、すみませんが自分で足を持って頂いても?」
 ふざけるな、と言いたかったが絶頂まであと一歩のところでぐずぐずと引き延ばされて息も絶え絶えになっているアリスティドにそんな力はない。言われるままに自分の膝裏を胸に引き寄せて、まるで赤子がおしめを替えて貰うような屈辱的な形を取らされる。
「あ、んっ、ゲオ、ルグ、はやく、はやくしろ、この馬鹿者が……ッ!」
 暗闇の中で自分を見下ろす黒い目がわずかに細められた。
「……わかりました」
「んぐっ!?」
 膝が顔につくほど足を開かされ、二本、三本と中の指が増やされる。そしてこすって抉って挟んで揺すられた。
「ゲ、ゲオル、グ、これは、ほんとうに『奉仕』、なんだ、な……ッ!?」
 頭がおかしくなりそうな快感に必死に耐えながら尋ねると、ゲオルグがアリスティドのモノを咥えたまま視線を上げる。
「こたえろ、ゲオルグ……っ」
「……俺は確かに貴方の奉仕委員ですよ」
 そして恐ろしく敏感な膨らみを何度も何度も押されながらペニスのくびれを唇で挟んでこすられる。
「っひゃ、あ、あう、あ、おく、や、おく、んっ!」
 ナカのしこりを執拗に押し潰していた指がアリスティドの言葉に答えるように奥を突き始めた。
「あう、ひうんっ、あ、あ、イく、イく、ゲオ、ルグ、ゲオ、ルグ……ぅ……ッ!」
 みっともないほど蕩けた声がアリスティドの口から溢れ出る。そして激しくナカを掻き回され男根をしゃぶられてアリスティドは絶頂を極めた。
「~~~~~~ッツ!!」
 もはや声も出せずただぐったりと手足を投げ出したアリスティドのナカから、ゲオルグがゆっくりと指を抜き出した。そしてぢゅっ、と音を立てて最後のザーメンを吸いとって顔を上げる。
「......大丈夫ですか?」
 そう尋ねるゲオルグに頷くこともできない。
「飲んで下さい」
 おそらくタオルと一緒に持ってきていたのだろう。身体を起こされ、水の入ったグラスを口にあてがわれてアリスティドは夢中で食いついた。だが未だ身体の奥深くが痙攣している身体では上手く飲み下せず、ぽたぽたと部屋着に零れ落ちる。

「これ、脱ぎましょう」
 アリスティドが答える前にゲオルグは部屋着を剥ぎ取った。
「ほら、もう一度横になって」
 そう言われて布団に倒れ込み、震える息を深く吐き出す。するとゲオルグの両手が力を入れ過ぎて強張ったアリスティドの腿をマッサージし始めた。
「同室の三学年生のトムが、来月のオリエンテーリングは相当キツいというがどのくらい大変なのか、と誰彼構わず聞いて回っているそうで」
 緊張したままの筋肉を揉みほぐすゲオルグの力強い慣れた手つきに思わずため息をつきながら、アリスティドはゲオルグの声に耳を傾ける。
「俺も聞かれたので、それを知ったところで棄権はできん、と言ったら、それでも心の準備ってもんが必要でしょうが! と叫び返されました」
 そう言って珍しく微かに笑ったゲオルグの声に思わず聞き入ってしまった。
 事の最中のゲオルグは酷い男だが、この常に落ち着いた低い豊かな声は少しばかり心地いい、とアリスティドは渋々心の内に認める。

 いつの間にか雨が降り出していたようで、ベッドの横の大きな窓ガラスに行く筋も水滴が落ちていく。こんな風に雨音を聞きながらだんだんとなだらかになっていく自分の呼吸に耳を澄ましていると、つい今までこの部屋で起こっていた出来事が全部夢か嘘のように感じさえする。
 だがアリスティドの腿を揉んでいた手がつい、と上に上がり、腿と尻の境の辺りを掴んだ。
「…………アリスティド先輩?」
 そしてゲオルグの声がまた秘められた色を帯びる。
「まだ足りないんでしょう?」
 そんなことはない、と跳ね付けられればどんなに楽か。だがアリスティドは内腿にそっと押し当てられた唇がそろそろと這い上がって来て、ついさっきまで散々指が出入りしてじんじんと疼くソコをちろちろと舐める舌が縁を広げて中へ潜り込んでくるのを拒むことができなかった。

「……っあ、あう、んっ、ひうっ」
 ぬちゅぬちゅと抽挿を繰り返す舌と指が、またアリスティドの身体に火を点ける。
 やがて身体を裏返されベッドにうつ伏せになって後ろから尻肉を掻き分けられて奥を延々愛撫されながら、アリスティドはふと形の崩れた枕の向こうの壁を見つめた。その壁の向こうは8号室。同じ監督生でアリスティド以上に生真面目なテオと三学年生のエイリークがいる部屋だ。
(……もし、彼らが、私がこの部屋で何してるのか、知ったら)
 一体なんと思われることだろう。
 伝統あるグランディール始まって以来の才媛だ、栄えある筆頭監督生だ、と持ち上げられながら、その実同じ男でしかも下級生にこんな恥ずかしい場所を弄られてたまらなく感じてしまっている。
「っふ、あ、あう、っひ」
 ベットに敷かれたバスタオルを唾液で濡らし零れ続ける喘ぎは、我ながらとても男と思えぬほど甘く、いやらしい。

 背中に圧し掛かる重みが遠ざかってもナカでうごめく指の動きは止まらない。その太い指をきゅうきゅうと締め付けながら、アリスティドの身体は勝手に揺れてはガチガチに勃起したペニスをベッドにこすりつけて快楽を貪欲に追いかける。すると背後でゲオルグがかすかに笑った。
「……可愛い人ですね、貴方は」
 低い声でそう耳朶に吹き込まれて、アリスティドはめちゃくちゃにわめいてやりたくなる。
 物心ついて以来、この女のような顔と五代前に隣国から人質も同然に娶られた女性の子孫であることを誰にも侮られぬように勉学も馬術も剣技も人の何倍も努力して今の地位を築いてきた。その努力と矜持をこの男はたったひと言で粉々に打ち砕き、アリスティドという人間を丸裸にしてしまう。
「……だま、れ、……ッ」
 歯を食いしばってそう言うと、そっと後ろ髪を掻き上げられうなじに何かが触れる。ちゅ、とまるでひどく愛おしいものに口づけるように優しく与えられるその感触に、なぜかひどく泣き出したくなった。

「…………っふ、……あ……っ」
 ベッドと身体の間に手が潜り込んでくる。うっすらと汗ばんだ背中にたまらなく熱い肌が触れ、力強くしなる筋肉の動きが伝わって来る。
「……っ、ああ、クソ……ッ! んっ、あ、ソコ、いやだ、あ、んん……っ!」
 そしてナカとペニスを同時に愛撫されながら、アリスティドは布団に指を食い込ませ、涙を流して喘ぎ続けた。
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