まだまだこれからだ!

九重

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第一章 異世界の住人はとても個性的でした。

まずは名前を名乗りましょう

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 気づいた途端、うららは激しくむせた。

「グッ……フゥ~ッ……くっ、苦しい! 死んじゃう!」

 ゲホゲホと咳をして、口どころか鼻からもお湯を吐き、さんざんな目に会いながらも、彼女はなんとか息を整える。
 お湯と涙と鼻水でドロドロの顔を上げて……呆気にとられた。

「へっ? 何っ……何で!? おばあちゃんコスプレイヤー?」

 無理もない感想だろう。それほどに、目の前の二人の姿は、インパクトがある。

「夢!? ……私、温泉で溺れて夢を見てるの?」

 そう思いたい暖の気持ちはよくわかる。

「×××、○○△○?」

 そんな彼女に、騎士姿の女性が話しかけてきた。
 何を言っているのか、さっぱりわからない。

「えっ? ここ日本よね? 私、溺れて外国人観光客に助けられたの? ……そういえば、最近は日本のアニメが好きで、コスプレする外人さんが多いって、テレビで聞いたけど」

 まさか、目の前のおばあさんが? と、思いながらも、暖は強張った笑みを浮かべる。

「ハ、ハロー?」

 とりあえず話しかけてみた。

「××、○△?」

 やっぱり通じない。

「何で? ハローは、世界共通言語じゃないの!?」 

 ……そんなことは全くない。
 暖とて学校で英語くらいは習ったし、片言の英会話くらいなら話せる自信はある。
 なのに、コスプレ二人組の会話は、さっぱりわからなかった。
 困ったなと思う。

(でもでも、とにかく無事助かったみたいだし、服を返してもらって宿に帰ろう。……助けてもらったお礼はそれからでも良いわよね)

 そう思った暖は、あらためてキョロキョロと辺りを見回す。
 だだっ広い空地と、遠くに集落みたいなものが見えた。

「……えっと……ここはどこ?」

 暖の溺れた露天風呂は、山奥にあったはずだ。
 間違ってもこんなだだっ広い空地があるはずがない。

「私、まさか川にでも流されてここまで来たの?」

 露天風呂の近くには、ごく小さな小川しかなく、今この場所にも川などどこにも見えないのだが、暖はそう呟く。
 そうとでも思わなければ、混乱しすぎて、おかしくなってしまいそうだった。

「と、ともかく、服を」

 落ち着け、落ち着けと心に言い聞かせながら、暖は服を探す。
 当然だが、服はどこにもなかった。
 体に巻き付けてあった黒いローブを、ぎゅっと強く手で握りしめる。

「×××!」

 突然、魔法使いのおばあさんに怒鳴られた。

「えっ、えっ? 何?」

 びっくりして暖は動きを止める。

「××○××、○△××!」

 おばあさんは、杖を振り回し暖の手の辺りを指し示す。
 暖は慌てて自分の手を見た。――――握りしめた服にシワが寄っている。
 どうやらこのローブは、おばあさんのもので、彼女はローブのシワを怒っているようだった。

「あっ……あの、ごめんなさい」

 慌てて謝りながらも、暖は手の力を緩める事が出来なかった。
 ボロッと涙がこぼれ落ちる。

「××! ○○!」

 魔法使いのおばあさんが、また怒鳴る。
 それでも暖は、涙を止められなかった。

「だって、だって……ここはどこ? 私、何でこんなところにいるの? 温泉に入っていただけなのに……」

 何が何だかわからずに、呆然としながら、暖は泣き続けた。
 魔法使いのおばあさんが、大きく舌打ちをする。
 もう一人の騎士姿のおばさんと、不機嫌そうに話し合いをはじめた。 
 その様子を見ながら、なんとか暖は泣き止もうと努力する。
 多分助けてもらっただろう人にこれ以上迷惑をかけられないと思う。
 ヒックヒックとすすり泣きをする暖に、騎士姿のおばさんが視線を合わせてくる。

「××、……ウルフィア」

 何かを言った後に自分を指しながら、彼女は「ウルフィア」と言った。
 暖は、幾度か瞬きをする。
 また自分を指して「ウルフィア」と言った彼女は、今度は、魔法使いのおばあさんを指さし「ディアナ」と言った。
 泣いてボーッとしていた暖の頭が、ようやく回る。

(ひょっとして名前を教えてくれているの?)

 彼女の身振りは、そう見えた。

「……うらら」

 自分で自分を指しながら、暖も名前を名乗る。名字を言うべきかとも思ったが、相手が言ったのは名前だろうと思ったので名前だけにした。

「ウララ?」

 暖を指して聞いてくる女騎士。
 コクコクと頷きながら、暖は彼女に呼びかけた。

「ウルフィアさん?」

「ウルフィア」

 即座に言葉を直される。 どうやら敬称はつけない方が良いようだ。

「ウルフィア。…………ディアナ?」

 二人を順に指しながら暖は尋ねる。
 女騎士は満足そうに頷いた。

「ウララ、××、○○?」

 何かを話しかけてくる女騎士。言葉はやっぱりわからなかったが聞き慣れない言葉の中に自分の名前が聞き取れるだけでも暖の気持ちは落ち着いた。

「ウルフィアさん、ここはどこですか? どうして、私はこんなところにいるのですか?」

「ウルフィア」

 また呼び方を直される。

「ウルフィア、ここはどこ?」

 暖の問いに、ウルフィアは黙って頷き、彼女の方に手を伸ばす。
 その手が触れた途端、ビクッと震えた暖の頭をワシワシと撫でてくれた。
 女性なのに固くて大きな手が、優しく動く。

「…………ウルフィア」

「ウララ、○△△……」

 顔を覗きこまれ、多分慰めてもらっているのだろうと思う。
 どうしていいのか、何一つわからないままだが、徐々に暖の焦りは消えていった。


「ありがとうございます。ウルフィア」


 顔を上げた暖の言葉に、ウルフィアは優しく笑い返してくれる。

「ウララ、××」

 何かを話しかけてきたウルフィアが、集落の方を指差した。
 そちらに行こうと言っているような気がする。
 肩に手を回され体の向きを集落の方に向けられた。



 暖は、――――覚悟を決める。
 どの道、いつまでも此処にいるわけにはいかないのだ。彼女たちについて行く他、ないだろう。

 「あ、あの、……でも待って!」

 直ぐにでも引っ張って行きそうなウルフィアに待ったをかける。


「服を! 何かきちんとした服――――着るものをください!」


 切実に、暖は叫んだ。
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