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第一章 異世界の住人はとても個性的でした。
横暴な王子
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その後、異世界から来て、あっという間にこの場所に馴染んだ暖の後ろ姿を、ウルフィアは見送る。
「不思議な娘だ」
年老いた女騎士は、しみじみとそうつぶやく。
彼女が来てから、この村は”奇跡”続きだ。
年老いて現実と記憶の区別がつかなくなり、石のように眠ったままだった竜が、暖が世話をするようになってから起きて話をするようになった。
誰が何と話しかけても無表情で、死ばかりを渇望していたエルフがあれほど感情を表し泣く姿だって、暖が来る前は誰も見た事は無い。
気難しいディアナが一緒に暮らし、人嫌いの王子が文句を言いつつ言葉を教える少女。
何より、騎士であり無防備に他人に体を触らせる事など、例え治療のためでも厭っていた自分がマッサージをさせるなど――――
ウルフィアの昔を知る者ならば誰も信じはしないだろう。
「ウララのマッサージは、温泉のようだ」
異世界から呼び寄せた温泉。
暖が現れた騒動の後、あらためてゆっくり入ったお湯は、とても気持ちの良いものだった。
体がポカポカと温まり、心まで温かくなる。
そんな温泉と一緒に来た娘。
彼女自身も温泉のように人の心を温める存在なのかもしれない。
女騎士は、最近前より痛みの軽くなった腰を伸ばし、暖の去った方を見つめる。
ウルフィアの顔には、知らず笑みが浮かんでいた。
◇◇◇
「見て、見て、見て! これ、リオール特製、森の木の実のクッキーよ!」
「うるさい。こちらの言葉で話せ!」
大喜びで白い袋の中のクッキーを見せる暖に、にべもない反応をするアルディア。
「ウ~ッ …… リオール、クッキー焼イテクレタ。美味シイ!」
プーッと頬を膨らませながらも、たどたどしく暖は話した。
リオールの自殺未遂騒ぎから数日後、暖に心配をかけたからと、エルフの青年(ただし見た目だけ)は、木の実入りのクッキーを焼いてくれたのだ。
実に百年くらいぶりに料理を作ったのだそうで、その事実だけでもとても嬉しい暖だ。
この喜びを分かちあいたいと、急いでアルディアの元に駆けつけたのだが――――
(こっちの言葉じゃ、この感動の半分も伝えきれないのに! ……アルディアのケチ!)
暖は心の中で、あっかんべーと舌を出す。
「それでいい。ただでさえお前はうるさいんだ。言葉に不自由なくらいが丁度いい」
綺麗な王子さまは、済ました顔でそう言った。
暖は、危うくクッキーを握り潰しそうになる。
そんな暖にはお構い無しに、アルディアはクッキーの袋へと手を伸ばした。
暖は、慌てて袋を遠ざける。
「何だ? あの程度の言葉で怒って、私にクッキーを食べさせないつもりか?」
アルディアの眉が不機嫌そうに上げられる。
「違ウ! アルディア ”あれるぎー” ナイカ?」
暖はそう聞いた。
喘息の人にはアレルギーのある人が多い。
森の木の実で作られたというこのクッキーを食べさせる前にアレルギーの有無を確かめるのは常識だろう。そうでなくともクッキーにはアレルギーの特定原材料が多く含まれている。
「アレルギー?」
なのにアルディアは不思議そうに首を傾げる。
(え? ひょっとして、この世界にはアレルギーの知識が無いの?)
暖は途方にくれた。
そう言えば日本だって食物アレルギーを普通に認識したのは、それほど昔ではないと聞いたことがある。
「アルディア、何カ食ベテ具合悪クナッタ、ナイカ?」
「何だ? 毒殺の心配か?」
物騒な言葉に暖は慌てて首を横に振った。
「違ウ! 卵、ミルク、…… アルディア、オ腹、平気?」
アルディアが、目を見開いた。
「何故、私がミルクで具合が悪くなることを知っている?」
実はミルクを飲む度に湿疹ができたり頭痛がするアルディアだった。
喘息の発作もそういった時に多いような気がする。
「ヤッパリ! ソレ、あれるぎー!」
ポンと手を打った暖は、片言でアレルギーの説明をはじめた。
「エット、あれるぎーッテイウノハ、免疫反応ガ …… ア、免疫ッテ、ドウ言ウノ?」
しどろもどろに話す暖。
「ええい! 普通に話せ!」
――――やっぱり横暴な王子様だった。
アレルギーについて知っている事を話す暖。
「しかし、他の者は皆平気で食べたり飲んだりしているだろう?」
「だからアレルギーの原因自体は有毒じゃ無いんです。それに対して過剰な反応をする人と平気な人がいるだけで……」
医師でもない暖の説明が通じたかどうかは怪しいが、それでも最後にアルディアは頷いた。
「よくは分からないが、お前の話には頷ける点が多い」
病に苦しむアルディアは、疑うよりも信じたいと思ったようだ。
「大丈夫よ。私の妹も喘息だったけれど気をつけていれば普通に暮らせていたもの。アルディアもきっと良くなるわ」
もちろんそんなに簡単な事ではないだろうが、暖は笑ってそう言った。
喘息発作は苦しい。
妹を見ていた暖は、その苦しさが他の人よりわかるつもりだ。
できることなら代わってやりたいと、何度も思った。
「気をつけて頑張ろう。少しでも発作が、おさまるといいよね」
優しく言葉をかける暖。
なのに――――
「……こちらの言葉で喋ろ」
少し頬を赤くしたアルディアは、ブスッとしてそう言った。
やっぱり横暴な王子さまだった。
「不思議な娘だ」
年老いた女騎士は、しみじみとそうつぶやく。
彼女が来てから、この村は”奇跡”続きだ。
年老いて現実と記憶の区別がつかなくなり、石のように眠ったままだった竜が、暖が世話をするようになってから起きて話をするようになった。
誰が何と話しかけても無表情で、死ばかりを渇望していたエルフがあれほど感情を表し泣く姿だって、暖が来る前は誰も見た事は無い。
気難しいディアナが一緒に暮らし、人嫌いの王子が文句を言いつつ言葉を教える少女。
何より、騎士であり無防備に他人に体を触らせる事など、例え治療のためでも厭っていた自分がマッサージをさせるなど――――
ウルフィアの昔を知る者ならば誰も信じはしないだろう。
「ウララのマッサージは、温泉のようだ」
異世界から呼び寄せた温泉。
暖が現れた騒動の後、あらためてゆっくり入ったお湯は、とても気持ちの良いものだった。
体がポカポカと温まり、心まで温かくなる。
そんな温泉と一緒に来た娘。
彼女自身も温泉のように人の心を温める存在なのかもしれない。
女騎士は、最近前より痛みの軽くなった腰を伸ばし、暖の去った方を見つめる。
ウルフィアの顔には、知らず笑みが浮かんでいた。
◇◇◇
「見て、見て、見て! これ、リオール特製、森の木の実のクッキーよ!」
「うるさい。こちらの言葉で話せ!」
大喜びで白い袋の中のクッキーを見せる暖に、にべもない反応をするアルディア。
「ウ~ッ …… リオール、クッキー焼イテクレタ。美味シイ!」
プーッと頬を膨らませながらも、たどたどしく暖は話した。
リオールの自殺未遂騒ぎから数日後、暖に心配をかけたからと、エルフの青年(ただし見た目だけ)は、木の実入りのクッキーを焼いてくれたのだ。
実に百年くらいぶりに料理を作ったのだそうで、その事実だけでもとても嬉しい暖だ。
この喜びを分かちあいたいと、急いでアルディアの元に駆けつけたのだが――――
(こっちの言葉じゃ、この感動の半分も伝えきれないのに! ……アルディアのケチ!)
暖は心の中で、あっかんべーと舌を出す。
「それでいい。ただでさえお前はうるさいんだ。言葉に不自由なくらいが丁度いい」
綺麗な王子さまは、済ました顔でそう言った。
暖は、危うくクッキーを握り潰しそうになる。
そんな暖にはお構い無しに、アルディアはクッキーの袋へと手を伸ばした。
暖は、慌てて袋を遠ざける。
「何だ? あの程度の言葉で怒って、私にクッキーを食べさせないつもりか?」
アルディアの眉が不機嫌そうに上げられる。
「違ウ! アルディア ”あれるぎー” ナイカ?」
暖はそう聞いた。
喘息の人にはアレルギーのある人が多い。
森の木の実で作られたというこのクッキーを食べさせる前にアレルギーの有無を確かめるのは常識だろう。そうでなくともクッキーにはアレルギーの特定原材料が多く含まれている。
「アレルギー?」
なのにアルディアは不思議そうに首を傾げる。
(え? ひょっとして、この世界にはアレルギーの知識が無いの?)
暖は途方にくれた。
そう言えば日本だって食物アレルギーを普通に認識したのは、それほど昔ではないと聞いたことがある。
「アルディア、何カ食ベテ具合悪クナッタ、ナイカ?」
「何だ? 毒殺の心配か?」
物騒な言葉に暖は慌てて首を横に振った。
「違ウ! 卵、ミルク、…… アルディア、オ腹、平気?」
アルディアが、目を見開いた。
「何故、私がミルクで具合が悪くなることを知っている?」
実はミルクを飲む度に湿疹ができたり頭痛がするアルディアだった。
喘息の発作もそういった時に多いような気がする。
「ヤッパリ! ソレ、あれるぎー!」
ポンと手を打った暖は、片言でアレルギーの説明をはじめた。
「エット、あれるぎーッテイウノハ、免疫反応ガ …… ア、免疫ッテ、ドウ言ウノ?」
しどろもどろに話す暖。
「ええい! 普通に話せ!」
――――やっぱり横暴な王子様だった。
アレルギーについて知っている事を話す暖。
「しかし、他の者は皆平気で食べたり飲んだりしているだろう?」
「だからアレルギーの原因自体は有毒じゃ無いんです。それに対して過剰な反応をする人と平気な人がいるだけで……」
医師でもない暖の説明が通じたかどうかは怪しいが、それでも最後にアルディアは頷いた。
「よくは分からないが、お前の話には頷ける点が多い」
病に苦しむアルディアは、疑うよりも信じたいと思ったようだ。
「大丈夫よ。私の妹も喘息だったけれど気をつけていれば普通に暮らせていたもの。アルディアもきっと良くなるわ」
もちろんそんなに簡単な事ではないだろうが、暖は笑ってそう言った。
喘息発作は苦しい。
妹を見ていた暖は、その苦しさが他の人よりわかるつもりだ。
できることなら代わってやりたいと、何度も思った。
「気をつけて頑張ろう。少しでも発作が、おさまるといいよね」
優しく言葉をかける暖。
なのに――――
「……こちらの言葉で喋ろ」
少し頬を赤くしたアルディアは、ブスッとしてそう言った。
やっぱり横暴な王子さまだった。
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