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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
風雲いまだ至らず
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ギオルは大きなため息をつく。
「まあ良い。それは後々考えることにして …… それより、スゥェン、お前の用だ。お前がわしの元に来たのは、何か用があったのだろう? ……竜の里では、既に死んだも同然に扱われているわしにまで報せが必要な用とは何だ?」
後々とはどういう事だろうか? と思いながらも暖は驚く。
スゥェンは、ただ単にギオルに会いに来たのではないのだろうか?
問われたスゥェンは、急に真面目な顔になった。
「残念ながらその通りだ。だが、俺がお前の元に来たのは俺の独断だ。竜の里はお前には報せる必要はないと思っている」
さもありなんと、ギオルは頷く。
スゥェンは重い口を開いた。
「魔族が、動いた」
ギオルが息を呑む!
「奴らが!? どういう事だ!」
「わからん。わからんが事実だ」
そう言って、スゥェンは詳しい情勢を話し出した。
この国の隣国トクシャが、国境付近で小競り合いを起こした事。
事件自体は小さかったが、トクシャの兵の中に明らかに魔族と思われる特徴を備えたものがいた事。
「直ぐにこの国の王はトクシャに抗議と同時に状況の説明を求める使者を出した。その悉くが物言わぬ骸となって帰って来たそうだ。……公式なルートはモチロン、非公式な裏ルートでも」
聞いたギオルは表情を消して黙りこむ。
直ちにこの件は、竜族やエルフ、他の人間と友好関係にある全ての種族に知らされたのだという。
「……魔の者が動くのは、何年ぶりだ?」
「おそらく前回から百年は経っているだろう。標的はやはり人間か」
「魔の恐ろしさを人は直ぐに忘れてしまうからな」
竜二頭が頭を寄せ合い話し合う。
一方、暖はポカンとしてそれを見ていた。
(スゴイ、本当にファンタジーだわ)
今更ながらそう思う。
いや、既にギオルを見た時点で、この世界がファンタジーな世界だとは十分わかっていたのだが、二頭となるとその迫力は十倍くらいにはね上がる。
(しかも魔族だなんて!)
これに驚かずに何に驚けば良いのだろう。
(ひょっとして、魔王なんかもいたりして?)
のんきにもこの時の暖はそう思った。
よもや、この後、当の魔物に自分が深く関わるようになるなんて思いもよらなかったのだ仕方ない。
ギオルは突如グルンと暖に首を向けた。
「ウララ! 直ぐにディアナの元へ行け!」
そう言ってくる。
「エ?」
「ディアナの結界にこもり絶対外に出るな! 悔しいが今ここで一番安全なのはそこだ」
「……エット、国境デ、小競リ合イヨネ?」
別にここが狙われているわけでも何でもないだろうと暖は思う。
スゥェンも微妙な顔をした。
「おいおいギオル、契約者が心配なのはわかるが気を回し過ぎではないか? 魔族がここを襲う確率はほとんど無いぞ」
ここは他の者から忘れられた者が住まう場所だ。普通に考えてこんな所が狙われるはずがない。
「そうであって欲しいと思っているが……ウララの出現と魔族が動き出した時期が近いのが気にかかる。偶然であってくれれば良いのだが」
ギオルは難しそうな顔で考えこんだ。
偶然に決まっていると、暖もスゥェンも思う。
とはいえ、ディアナのところに行くのは別に何の不都合もないことだ。今日の暖の仕事は、ギオルの世話で終わりであり、あとはどのみち家に帰るだけ。
だから暖は素直にコクリと頷いた。
「ジャア、帰ルネ。スゥェン、サヨナラ。会エテ、嬉シ、デス」
ペコリと頭を下げて、タタタッと暖は走り去った。
◇◇◇
暖の後姿をギオルは心配そうに見送る。
長い首が彼女の帰った方に精一杯伸ばされている。
「……本当に、あの人間に入れ込んでいるんだな」
スウェンが複雑そうに呟く。
自分の竜玉を預けるくらいなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、若かりし頃のギオルを知るスウェンには、とうてい信じられない姿だ。
スウェン、ヒーラといった並び称される存在はいたが、基本ギオルは一匹狼ならぬ一匹竜だった。
誰も側に寄せず力のみを求め、ただ高みへと飛翔していたかつての雄竜。
「……孤高の竜なんて呼ばれて、俺たち以外の話し相手もいなかったからボケたんだ」
ボソリ呟かれたスウェンの言葉に、ギオルはこける。
「貴様!」
「でも、安心した。ギオル、お前はもう大丈夫だろ」
本当に嬉しそうなスゥェンの様子に、ギオルは毒気を抜かれた。
「ああ。ウララさえ側に居てくれればな」
「あの脆そうな人間が、ギオルのたった一つの命綱か」
不安そうにスゥェンは呟く。
「そうだ。だからウララを守る手伝いをしてくれ」
「俺がか?」
スゥェンは不服そうに唸った。
「別に嫌なら無理にとは言わない。ただウララがその命を理不尽に奪われるような事になれば、わしは自分が抑えられるかどうか保証できないぞ」
「お前! それは脅しだぞ」
「ああ。その通りだ」
悪びれもせず頷くギオル。
スゥェンは、ものすごく嫌そうな顔をした。
「わしは、制約により、今はこの場所から離れることができない。竜玉の力が発揮されれば違うが、それはすなわちウララが危険な目に遭うということだ。できればそんな事態になって欲しくない。だから彼女が万が一にでもこの村から出た場合は、お前に守ってもらいたいのだ。……頼む」
長い首を折り曲げギオルが頭を下げる。
誇り高いこの竜が頭を下げるなど、数百年の付き合いのスゥェンでも、数えるほどしか見たことがなかった。
「ああ! もう、止めろ! お前が頭を下げるだなんて天変地異が起こるぞ!」
スゥェンは怒鳴る。
「わかったよ! 守ればいいんだろ!」
やけくそのような言葉を聞いて、嬉しそうにギオルは笑った。
「流石、我が友だ」
スゥェンは、たちまち顔をしかめる。
「こういう時だけ! だからお前は嫌いなんだ!」
「嫌い嫌いも好きの内ってな」
「絶対、違う!」
竜二頭が、楽しそうに怒鳴り合う。
彼らの遥か頭上、晴れ渡った空には雲ひとつない。
この時、風雲はまだこの場所に至っていなかった。
「まあ良い。それは後々考えることにして …… それより、スゥェン、お前の用だ。お前がわしの元に来たのは、何か用があったのだろう? ……竜の里では、既に死んだも同然に扱われているわしにまで報せが必要な用とは何だ?」
後々とはどういう事だろうか? と思いながらも暖は驚く。
スゥェンは、ただ単にギオルに会いに来たのではないのだろうか?
問われたスゥェンは、急に真面目な顔になった。
「残念ながらその通りだ。だが、俺がお前の元に来たのは俺の独断だ。竜の里はお前には報せる必要はないと思っている」
さもありなんと、ギオルは頷く。
スゥェンは重い口を開いた。
「魔族が、動いた」
ギオルが息を呑む!
「奴らが!? どういう事だ!」
「わからん。わからんが事実だ」
そう言って、スゥェンは詳しい情勢を話し出した。
この国の隣国トクシャが、国境付近で小競り合いを起こした事。
事件自体は小さかったが、トクシャの兵の中に明らかに魔族と思われる特徴を備えたものがいた事。
「直ぐにこの国の王はトクシャに抗議と同時に状況の説明を求める使者を出した。その悉くが物言わぬ骸となって帰って来たそうだ。……公式なルートはモチロン、非公式な裏ルートでも」
聞いたギオルは表情を消して黙りこむ。
直ちにこの件は、竜族やエルフ、他の人間と友好関係にある全ての種族に知らされたのだという。
「……魔の者が動くのは、何年ぶりだ?」
「おそらく前回から百年は経っているだろう。標的はやはり人間か」
「魔の恐ろしさを人は直ぐに忘れてしまうからな」
竜二頭が頭を寄せ合い話し合う。
一方、暖はポカンとしてそれを見ていた。
(スゴイ、本当にファンタジーだわ)
今更ながらそう思う。
いや、既にギオルを見た時点で、この世界がファンタジーな世界だとは十分わかっていたのだが、二頭となるとその迫力は十倍くらいにはね上がる。
(しかも魔族だなんて!)
これに驚かずに何に驚けば良いのだろう。
(ひょっとして、魔王なんかもいたりして?)
のんきにもこの時の暖はそう思った。
よもや、この後、当の魔物に自分が深く関わるようになるなんて思いもよらなかったのだ仕方ない。
ギオルは突如グルンと暖に首を向けた。
「ウララ! 直ぐにディアナの元へ行け!」
そう言ってくる。
「エ?」
「ディアナの結界にこもり絶対外に出るな! 悔しいが今ここで一番安全なのはそこだ」
「……エット、国境デ、小競リ合イヨネ?」
別にここが狙われているわけでも何でもないだろうと暖は思う。
スゥェンも微妙な顔をした。
「おいおいギオル、契約者が心配なのはわかるが気を回し過ぎではないか? 魔族がここを襲う確率はほとんど無いぞ」
ここは他の者から忘れられた者が住まう場所だ。普通に考えてこんな所が狙われるはずがない。
「そうであって欲しいと思っているが……ウララの出現と魔族が動き出した時期が近いのが気にかかる。偶然であってくれれば良いのだが」
ギオルは難しそうな顔で考えこんだ。
偶然に決まっていると、暖もスゥェンも思う。
とはいえ、ディアナのところに行くのは別に何の不都合もないことだ。今日の暖の仕事は、ギオルの世話で終わりであり、あとはどのみち家に帰るだけ。
だから暖は素直にコクリと頷いた。
「ジャア、帰ルネ。スゥェン、サヨナラ。会エテ、嬉シ、デス」
ペコリと頭を下げて、タタタッと暖は走り去った。
◇◇◇
暖の後姿をギオルは心配そうに見送る。
長い首が彼女の帰った方に精一杯伸ばされている。
「……本当に、あの人間に入れ込んでいるんだな」
スウェンが複雑そうに呟く。
自分の竜玉を預けるくらいなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、若かりし頃のギオルを知るスウェンには、とうてい信じられない姿だ。
スウェン、ヒーラといった並び称される存在はいたが、基本ギオルは一匹狼ならぬ一匹竜だった。
誰も側に寄せず力のみを求め、ただ高みへと飛翔していたかつての雄竜。
「……孤高の竜なんて呼ばれて、俺たち以外の話し相手もいなかったからボケたんだ」
ボソリ呟かれたスウェンの言葉に、ギオルはこける。
「貴様!」
「でも、安心した。ギオル、お前はもう大丈夫だろ」
本当に嬉しそうなスゥェンの様子に、ギオルは毒気を抜かれた。
「ああ。ウララさえ側に居てくれればな」
「あの脆そうな人間が、ギオルのたった一つの命綱か」
不安そうにスゥェンは呟く。
「そうだ。だからウララを守る手伝いをしてくれ」
「俺がか?」
スゥェンは不服そうに唸った。
「別に嫌なら無理にとは言わない。ただウララがその命を理不尽に奪われるような事になれば、わしは自分が抑えられるかどうか保証できないぞ」
「お前! それは脅しだぞ」
「ああ。その通りだ」
悪びれもせず頷くギオル。
スゥェンは、ものすごく嫌そうな顔をした。
「わしは、制約により、今はこの場所から離れることができない。竜玉の力が発揮されれば違うが、それはすなわちウララが危険な目に遭うということだ。できればそんな事態になって欲しくない。だから彼女が万が一にでもこの村から出た場合は、お前に守ってもらいたいのだ。……頼む」
長い首を折り曲げギオルが頭を下げる。
誇り高いこの竜が頭を下げるなど、数百年の付き合いのスゥェンでも、数えるほどしか見たことがなかった。
「ああ! もう、止めろ! お前が頭を下げるだなんて天変地異が起こるぞ!」
スゥェンは怒鳴る。
「わかったよ! 守ればいいんだろ!」
やけくそのような言葉を聞いて、嬉しそうにギオルは笑った。
「流石、我が友だ」
スゥェンは、たちまち顔をしかめる。
「こういう時だけ! だからお前は嫌いなんだ!」
「嫌い嫌いも好きの内ってな」
「絶対、違う!」
竜二頭が、楽しそうに怒鳴り合う。
彼らの遥か頭上、晴れ渡った空には雲ひとつない。
この時、風雲はまだこの場所に至っていなかった。
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