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第四章 選んだ先の未来へ向かいます!
弱い攻撃魔法も数打ちゃ当たる?
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暖の言葉を耳にしたダンケルは、情けなさそうに眉を下げる。
「ソンナウッカリデ、魔界滅亡シタラ、ドウスルツモリ?」
全くもって、その通りである。
さすがに正妃も庇いきれないのか、気まずそうに黙り込んだ。
そんな中、どうにか気を取り直したモノアが声を上げる。
「……と、とりあえず、状況を整理してよろしいですか? ――――ウララは、ダンケルさまが人間界から連れて来た人間で、その目的は私たちの病を治すため。そして、それは陛下のご意向である――――と?」
ダンケルは、助かったとばかりにモノアの話にとびついた。
「そうそう! その通りだ!」
正妃は、大きなため息をついて額に手を当てる。
「……陛下も、最初からきちんと説明してくだされば良かったのに」
「先ほど言ったとおりです。それでは、あなたや他の妃は素直に治療を受けてくださらなかったでしょう」
暖のもつ癒しの力は、はっきりと目に見えるものではない。
彼女の側近くで長く過ごしマッサージを受けたり触れ合ったりすることで、じわじわと効いてくる温泉のような効果のある治癒魔法なのだ。
それは、実際に経験しなければとうてい信じられるものではなく、現に本人である暖でさえいまだに自分にそんな力があるとは信じていない。
そんな不確かな力を、ダンケルを憎む正妃が受け入れるはずもなかった。
指摘されれば反論の余地もないのだろう、正妃は再び黙り込む。
そこに助け舟を出したのは、再びモノアだった。
「では、これで全て“めでたしめでたし”ですね。暖の素性の誤解も解け、私たちは率先して彼女の治療を受け入れている。……多少の危険はありましたが、陛下のご意向通りになったということですもの」
「多少?」と暖は首を捻った。
その点については大いに異論のあるところだが、話をまとめようとするモノアの言動には賛成したい。
(これ以上、ゴタゴタするのはごめんだわ)
まかり間違って魔界を滅亡させるのはいやなのだ。
「結果オーライ、ネ? ダンケル……正妃サマ」
おそらく二人とも暖と同じ考えだったのだろう。
ダンケルは「もちろんだ」と即座に同意して、正妃も不満そうではあるものの「そうね」と頷いた。
暖は、ホッと息を吐く。
――――そこに、
「なんだと!? 冗談じゃない! どうしてそんな結論になるんだ!? それじゃ、結局今回のことはダンケルの手柄になるんじゃないか! そんなこと絶対許せるもんか! ダンケルの企みなんて俺がぶち壊してやる!!」
大声で怒鳴ったのは、魔界のおバカ王子ブラットだった。
「くらえ!」
大声で叫ぶなり、彼はダンケルと暖に向かい無茶苦茶な攻撃魔法を放ってくる。
ダンケルは……
「ホントに救いようのないバカだな」
そう呟いて、自分と暖の周囲に防御魔法を展開した。
――――ブラットは成人前のお子さま魔族。
同じ王子でも、既に成人してなおかつ魔王の嗣子であるダンケルに比べれば、その攻撃はお粗末の一言につきる。
結果、ダンケルの行動には、余裕が見えた。
しかし悲しいかな、ここは後宮だ。
以前も言った通り、後宮の機能は魔王の妃を守ることを優先としている。
そしてそれと同時に、その子供も守る仕様になっていた。
いやむしろ魔王の血を継ぐ子供に対しては、これでもかというほど過保護な機能になっているのだ。
ブラットの攻撃力は平時の十倍くらいに跳ね上がり、対するダンケルの力は十分の一に抑えられていた。
まあ、それでもブラットの方がずっと劣っているのだが。
しつこく打ち続けたブラットの攻撃魔法は、わずかではあるがダンケルの防御障壁にヒビを入れることに成功した。
そのかすかなヒビから入り込んだヒョロヒョロの攻撃魔法が、どうにかこうにか暖の元まで届く。
フワッと、ほんの微かに暖の髪が揺れた。
攻撃魔法の余波が暖の頬をかすめる。
「え?」
何か当たったかな? と、暖は思った。
もちろん痛くもかゆくもない。
しかし、次の瞬間――――
『ガァォォォオォォォッ――――!!』
大地を揺るがす咆哮が、魔界に響き渡った。
「ソンナウッカリデ、魔界滅亡シタラ、ドウスルツモリ?」
全くもって、その通りである。
さすがに正妃も庇いきれないのか、気まずそうに黙り込んだ。
そんな中、どうにか気を取り直したモノアが声を上げる。
「……と、とりあえず、状況を整理してよろしいですか? ――――ウララは、ダンケルさまが人間界から連れて来た人間で、その目的は私たちの病を治すため。そして、それは陛下のご意向である――――と?」
ダンケルは、助かったとばかりにモノアの話にとびついた。
「そうそう! その通りだ!」
正妃は、大きなため息をついて額に手を当てる。
「……陛下も、最初からきちんと説明してくだされば良かったのに」
「先ほど言ったとおりです。それでは、あなたや他の妃は素直に治療を受けてくださらなかったでしょう」
暖のもつ癒しの力は、はっきりと目に見えるものではない。
彼女の側近くで長く過ごしマッサージを受けたり触れ合ったりすることで、じわじわと効いてくる温泉のような効果のある治癒魔法なのだ。
それは、実際に経験しなければとうてい信じられるものではなく、現に本人である暖でさえいまだに自分にそんな力があるとは信じていない。
そんな不確かな力を、ダンケルを憎む正妃が受け入れるはずもなかった。
指摘されれば反論の余地もないのだろう、正妃は再び黙り込む。
そこに助け舟を出したのは、再びモノアだった。
「では、これで全て“めでたしめでたし”ですね。暖の素性の誤解も解け、私たちは率先して彼女の治療を受け入れている。……多少の危険はありましたが、陛下のご意向通りになったということですもの」
「多少?」と暖は首を捻った。
その点については大いに異論のあるところだが、話をまとめようとするモノアの言動には賛成したい。
(これ以上、ゴタゴタするのはごめんだわ)
まかり間違って魔界を滅亡させるのはいやなのだ。
「結果オーライ、ネ? ダンケル……正妃サマ」
おそらく二人とも暖と同じ考えだったのだろう。
ダンケルは「もちろんだ」と即座に同意して、正妃も不満そうではあるものの「そうね」と頷いた。
暖は、ホッと息を吐く。
――――そこに、
「なんだと!? 冗談じゃない! どうしてそんな結論になるんだ!? それじゃ、結局今回のことはダンケルの手柄になるんじゃないか! そんなこと絶対許せるもんか! ダンケルの企みなんて俺がぶち壊してやる!!」
大声で怒鳴ったのは、魔界のおバカ王子ブラットだった。
「くらえ!」
大声で叫ぶなり、彼はダンケルと暖に向かい無茶苦茶な攻撃魔法を放ってくる。
ダンケルは……
「ホントに救いようのないバカだな」
そう呟いて、自分と暖の周囲に防御魔法を展開した。
――――ブラットは成人前のお子さま魔族。
同じ王子でも、既に成人してなおかつ魔王の嗣子であるダンケルに比べれば、その攻撃はお粗末の一言につきる。
結果、ダンケルの行動には、余裕が見えた。
しかし悲しいかな、ここは後宮だ。
以前も言った通り、後宮の機能は魔王の妃を守ることを優先としている。
そしてそれと同時に、その子供も守る仕様になっていた。
いやむしろ魔王の血を継ぐ子供に対しては、これでもかというほど過保護な機能になっているのだ。
ブラットの攻撃力は平時の十倍くらいに跳ね上がり、対するダンケルの力は十分の一に抑えられていた。
まあ、それでもブラットの方がずっと劣っているのだが。
しつこく打ち続けたブラットの攻撃魔法は、わずかではあるがダンケルの防御障壁にヒビを入れることに成功した。
そのかすかなヒビから入り込んだヒョロヒョロの攻撃魔法が、どうにかこうにか暖の元まで届く。
フワッと、ほんの微かに暖の髪が揺れた。
攻撃魔法の余波が暖の頬をかすめる。
「え?」
何か当たったかな? と、暖は思った。
もちろん痛くもかゆくもない。
しかし、次の瞬間――――
『ガァォォォオォォォッ――――!!』
大地を揺るがす咆哮が、魔界に響き渡った。
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