もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第4章 魔王様は脱力系?

風邪

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「りんこうか?」

 ショコラは聞き慣れない単語に、首をかしげた。
 朝のダイニングルーム。
 リリィがあったかいお茶を飲みながら、手書きのチラシをショコラに渡していた。

「魔力を秘めた光り輝く花のつぼみが、満月の光を浴びると開花するんです。その様子がとても綺麗なので、こうやって毎年お祭りをしているようですね」

「ほええ」

「明日が満月だから、一番の見頃なんですって。エルフの里の人たちもみんな行きますから、よかったらどうですかって」

 ショコラは目を輝かせた。
 もちろん光り輝く花も見てみたいのだが、みんなで出かけるというのも楽しそうだった。

「しょ、ショコラも行きたいです!」

「そうですか? じゃあ、行ってみましょうかね」

 ショコラはわーい、とチラシを持って喜んだ。
 けれど、息を吸うとけほけほと咳が出てしまう。

「ショコラさん、大丈夫ですか? なかなか止まらないですね」

 リリィが心配そうに、ショコラの額に手を当てる。

「熱はないし、薬も飲んでるんですけどね。できれば、一日中ベッドで休んでいたもらいたいところですけど」

「大丈夫です! 咳の風邪はしつこいって聞きますから」

 ショコラは首をぶんぶんとふった。
 こんなことくらいで、休んでいられない。

「そうですか? しんどくなったら、すぐに言ってくださいね」

「はい。大丈夫だと思います。明日、すごく楽しみですね!」

 ショコラはしっぽをぶんぶん振り回した。
 けれどそのほっぺたは、少し赤くなっていた。

 ◆

「……うう」

 ──最悪だ。
 次の日、目が覚めたショコラは、思わずうめき声を上げてしまった。
 楽しみにしているときほど、なぜか風邪をひいたり、熱が出たりする。
 ショコラは明らかに体調が悪いことに気づいた。
 頭が痛い。体が重い。そして、熱がある。

「……」

 ベッドでぼやっとしていたショコラだったが、首を緩く降って起き上がった。

(熱があるって思ったら、余計上がっちゃう)

 ショコラは風邪をひいても、休んだことはない。
 いつもなんてことないと自分に言い聞かせて、働いていたのだ。
 熱のことを意識しなければ、不思議となんとか働くことができた。
 だから今日も大丈夫だろうと、少ししてからいつものように朝の準備をし始めた。

 しんどいといえば、リリィのことだから、絶対安静だと言われるような気がしたのだ。足をくじいたときですら、あのように大事をとったのだから。
 それに今日は、みんなで山に燐光花を見に行くのだ。休むわけにはいかない。

「ほら、大丈夫」

 ショコラは若干ぼうっとしながらも、頷いた。

「熱なんてない。しんどくない、です」

 そう言い聞かせていると、本当になんでもないように感じた。
 ショコラは自分の痛みに見て見ぬ振りすることが、得意だった。

 ◆

 夕方になると、館の住人たちはぼちぼち準備をし始めた。
 ルーチェも行くと張り切っている。

「そんなロマンティックイベント、あたしがみすみす見逃すとでも思っているの!? あんたにだけいい思いはさせないわよ!」

 とショコラにはよく理解できないことを言っていた。
 とにかく燐光花が見たいらしい。
 ダイニングで一生懸命お化粧をしていた。

 ショコラはその間に、ラグナルの出かける準備をしていた。
 寒さに凍えて、風邪でも引いたら大変だ。
 あれもこれも、と防寒着を用意していると、ショコラは手を止められた。

「ねえ」

「?」

 ショコラがひょこ、と耳を動かすと、ラグナルのひんやりした手が、ショコラの額に触れた。
 ショコラはぎょっとして身を引く。

「君、熱があるんじゃないの」

 ショコラは慌ててしまった。
 実際、さっきから頭痛がひどくなっていたからだ。
 昼頃まではなんとかごまかせたのだが、疲れが出たのか、しんどくなってきた。

「しょ、ショコラは、いつもこんな温度ですよ」

「そうかな……」

「そうなんです。別にしんどくないです」

 ショコラがぶんぶん首を振っていると、ラグナルは眉を寄せた。

「しんどいなら、無理しなくてもいいんだよ」

 ショコラは首を降る。

「し、しんどくないです」

 せっかくみんなで見に行く約束をしたのに、行けないのは嫌だ。
 楽しみにしていたのに。
 それに自分が迷惑をかけているみたいだ。

「だって、今年見られなくても……」

「大丈夫ですっ!」

 ラグナルの言葉を遮って、ショコラは大きな声を出してしまった。
 自分でも驚いて、はっとラグナルを見る。
 ラグナルは静かにショコラを見つめているだけだった。

「あ、わ、わたし……」

(どうしよう、なんてことを……)

 頭が熱くなってきた。
 謝ろうとしたけれど、混乱して、なんだかうまく言葉が出てこない。
 ラグナルが何かを言おうとしたのを遮って、部屋にルーチェが飛び込んできた。

「見てラグ! 新しいコート買ったのぉ~」

 ショコラを押しのけて、上機嫌なルーチェがラグナルの腕を取る。

「さ、いきましょ!」

「……」

 あっという間に、ラグナルはルーチェに引きずられて行ってしまった。
 静かになる部屋。
 ショコラはしばらくそこでぼんやりしていた。
 ラグナルがいなくなって、少しほっとしている自分がいる。
 ショコラはなんだか立っていられなくなって、ふらふらと椅子に座った。

「けほっ……」

 咳が止まらない。
 外からはルーチェたちの元気な声が聞こえて来る。

「いかなきゃ……」

 しばらくしてから、ショコラはよろよろと立ち上がって、ラグナルたちの後をおいけた。
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