もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第4章 魔王様は脱力系?

退院

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 ショコラはちゃんと、自分の体を大切にした。
 その甲斐あってか、入院十日目で、ようやく退院できることになった。

「お医者さま、ショコラの体を治してくれて、ありがとうございました」

「はいはい、これからは無理しないように、お大事にね」

 最後の診察を終えると、不思議なことに、ショコラは少し寂しくなった。
 この山羊のような医者とも、筋骨隆々の看護婦ともお別れか……と感慨にふけっていると、医者はリリィに何か書類のようなものを渡していた。

「それじゃあ次は落ち着いたら、まだ受けていないワクチンの接種に来てくださいね。獣人の場合、重症化したら大変なことになる病気がいくつかありますから」

「ありがとうございます、先生」

「え……? ワクチンってなんですか?」

 ショコラは不安になった。

「注射じゃないですよね?」

 そう言って、診察室にいた人たちの顔を見る。
 彼らはニコニコと笑っているだけだった。

(絶対注射するやつだこれ!!!!)

 ショコラはできればもう二度と病院に行きたくないと思い始めたのだった。

 ◆

「本当にいいんですか? にゃんにゃんカフェに寄らなくても」

 ショコラはこくんと頷いた。
 リリィは、ショコラが退院するとき、せっかくなので少しだけ王都を見せてくれるつもりだったらしい。
 けれどショコラは、一秒でもはやく、ラグナルに会いたかった。
 だからにゃんにゃんカフェがあると聞いても、頑張って堪えた。

「ショコラははやく帰りたいです」

「そうですか……。まあ、また今度来ましょうか。ショコラさんの体調のこともありますし」

 ショコラは少しも寒さを感じないように、もっこもこの服を着せられていた。
 移動に少し時間がかかるので、その間に体を冷やさないように、ということだった。

「あ、もしもし? ルーチェさん? あのですね、予定よりもはやく帰りますから、チビの準備をお願いしますね」

 リリィは病院から、ルーチェの携帯に電話をかけてから、ショコラを外へ連れ出した。

 ◆

 魔界には『駅』というものがあり、そこから各地の駅まで移動魔法で移動する。
 移動魔法には莫大な魔力が必要となり、値段も張るため、お金がないときは車などで移動することも多い。
 が、もちろんショコラは移動魔法で館の近くに有る駅まで帰った。
 そこからルーチェと待ち合わせし、チビに乗って、館に戻ったのである。

 今日は快晴だった。
 十日前の吹雪は嘘のように止んでいる。
 空は青く、雪が陽の光を浴びて、キラキラと輝いていた。

「ふわぁ……」

 一面真っ白だった。
 けれどほんのわずかに、陽の光から、春の気配が感じられる気がした。
 十日ぶりに、館の門をくぐる。
 たった十日のことなのに、なんだか懐かしい。
 白い雪をさくさくと踏んで、いつも通りの、古びた館の扉を開けた。

「ただいま戻りました」

 そう声をかけてエントランスに入ると、なぜかヤマトとシュロがモップを持って、床を磨いていた。
 二人は驚いたようにショコラたちをみる。

「あれっ? なんだ、帰るのは昼じゃなかったのか?」

「おやおや」

 どうやらミルとメルが何かいたずらしたらしく、二人は後始末をしているようだった。

「さっき、連絡したじゃないですか」

「もらってねぇけど」

 リリィはルーチェを見た。

「そんな、こっちだって急だったから、伝えてる暇なんてなかったの! 迎えに来てあげただけ感謝しなさいよねっ!」

 どうやらルーチェが言わなかったらしい。
 ルーチェはぷりぷりと怒ってしまった。

「まあ、無事に戻ってこられたならよかったです。おかえりなさい、ショコラさん」

「はい……ご迷惑をおかけしました」

 そう言ってショコラがぺこりと頭をさげる横で、リリィがパタパタと荷物の整理をし始めた。

「今ベッドの用意をしますから、ショコラさん、ちょっと待っていてくださいね」
 
 リリィは荷物を持って、階段を上っていく。
 ヤマトとルーチェはまたしょうもないことで喧嘩し始めた。
 そんな中、ショコラはそわそわと、館を見回していた。

「ショコラさん」

 落ち着きがないショコラを見て、シュロが微笑む。

「は、はい」

「ラグナル様なら、庭にいらっしゃいますよ」

「えっ?」

 ショコラは目を丸くしてしまった。
 こんな時間にラグナルが目を覚ましているなんて、珍しい。

「行ってみてはいかがでしょう?」

「は、はいっ!」

 シュロに返事をしたときには、もうすでにショコラの体は動いていた。
 
 ご主人様に会いたい。

 その一心で、ショコラは館を飛び出した。

 
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