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エピローグ
約束の花
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季節は巡り、雪はすっかり溶けて切って、新たな命が芽吹く頃になった。
春の訪れに、山々は生命の賛歌を歌うかのように、せいいっぱいみずみずしい葉を広げている。
そんな中、大きな桜の木が並ぶ川のほとりで、大勢の人々が食べたり飲んだり、どんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
春の恒例行事、お花見大会である。
「あーっ、メルずるーい! ミルもおいなりさん食べる!」
「メルが最初にとったもんねー!」
ミルとメルが重箱の中からいなり寿司の最後の一つを取り合っていた。
空中で取り合いっこをし、最終的にレジャーシートに座ってをお酒を飲んでいたルーチェの頭に取り落とす。
「もぉおおおおおおーっ!? いつもいつも、あにすんのよぉおおおおお!!」
米粒だらけになったルーチェは、例のごとくブチ切れる。
「今日こそ許さないわ、こんの馬鹿妖精ども! チビの餌にしてやるんだから!」
ルーチェは酔っ払っているのか、顔を真っ赤にして酒瓶を振り回しながら、妖精たちを追いかけた。
ミルとメルは、酔っ払って顔が赤いルーチェを面白がって、カメラでカシャカシャと撮っていた。
「本当うるせぇよなぁ。よくやるぜ」
シュロに酒を注いでもらいながら、ヤマトもほろ酔い気分で、呆れたように笑っていた。
「いやぁ、まったく。平和で何よりですよ」
シュロもやわらかく微笑みながら、ひらひらと舞い降りてくる桜の花びらを眺めた。
「それにしても、今日はいい天気ですね。お花見日和でよかったですわ」
リリィは空を見上げて、笑った。
ショコラはそんな平和な様子を、木にもたれかかって、眺めていた。
隣にはラグナルが座っていて、おにぎりを頬張っている。
「桜って、こんなに綺麗なんですねぇ」
満開の桜が咲く様子は、まるで夢の中にでもいるようだ。
それくらい幻想的で、綺麗だった。
孤児院にいたころ、だれがこんな幸福な景色を想像できただろうか。
「ご主人様、こんな景色を見せてくれてありがとうございます」
「別に、桜が勝手に咲いてるだけだよ」
相変わらずマイペースな返事だった。
ショコラが苦笑していると、ラグナルがつぶやくように言う。
「でも、よかった」
「え?」
「ほら、前に約束したじゃないか。お花見をしようって」
「あ……」
そういえば、ずっと前にそんな話をしていた。
「ショコラと一緒に、この景色が見られてよかった」
ラグナルはそう言って、笑う。
ショコラもつられて、笑顔になった。
「今度は夏が来る。かき氷に、花火に、水遊びに、ひまわり畑の鑑賞に……また、楽しみなことがいっぱいだ」
「かきごおり? はなび?」
聞いたことのない単語に、ショコラは耳をひょこひょこ動かす。
「知らないの? じゃあ、夏になってからのお楽しみだね」
「えー、気になります。今知りたいです」
そう言うと、ラグナルはふっと笑った。
「だってショコラは、これからもずっとここにいるんだから、焦らなくてもいいでしょう?」
「!」
ショコラはびっくりすると同時に、嬉しそうにこくこくと頷いた。
「君はもう、どこにもやらないから。僕のそばに、ずっといてもらう」
そう言って、ラグナルがショコラの頬に手を伸ばす。
その真剣な表情に、ショコラは釘付けになってしまった。
「……っ」
(あれ……?)
なんだろう。
すごく……すごく、ドキドキする。
「ごしゅじ……」
「黙って」
(え、な、何……?)
ラグナルの顔が近づいてくる。
ショコラは思わず、目をぎゅうっとつぶった。
まさか。
けれど、しばらく経っても、何もない。
「とれた」
「へ?」
ラグナルの嬉しそうな声が聞こえてきて、ショコラは目を開けた。
「桜の花びら、ついてたよ」
「……」
「どうしたの?」
きょと、とラグナルは目を瞬かせる。
「君、顔が真っ赤だ」
「っ」
「熱があったら困るな」
「ち、違うと思います」
「じゃあ、何?」
「わ、わたし……」
ショコラはおろおろして、ラグナルが意地悪な笑みを浮かべていることに、気づいていなかった。
ラグナルは、脱力系に見せかけて、けっこうズルい。
そんな魔王だった。
ショコラは熱くなるほっぺに手を当てて、自分の変化に戸惑っていた。
(なんで、こんなにドキドキして……)
ショコラがその胸の高鳴りの意味を知るのには、もう少し、時間がかかりそうだ。
「うぎゃーっー!」
突然、川のほとりに、ルーチェの悲鳴が響いた。
ミルとメルの大爆笑する声も聞こえて来る。
「ルーチェ、川に落ちた!」
「ずぶ濡れー!」
水をかぶってぐしゃぐしゃになっているルーチェを見て、申し訳なさそうに、けれど我慢できなくなってしまったのか、みんな笑っていた。
「あに笑ってんのよー!!!」
ショコラとラグナルも、目を見合わせて、笑ってしまった。
騒がしくて、トラブルもいっぱいあって、大変なこともある。
でもそれらを含めて、ショコラはこの優しくてあたたかな日常が大好きだった。目の前に広がるこの光景を、大切にしたいと思う。
ラグナルが微笑んで、けれど真剣味を帯びた表情で言った。
「約束してよ、ショコラ」
「?」
「ずっと僕のそばにいるって」
ショコラは耳をぴん、と立てて、笑顔になった。
「はい。もちろんです。ショコラはずっとずっと、ご主人様と一緒です。ショコラはご主人様の、一番の召使いです!」
「……そっか」
……やっぱり、ラグナルの気持ちが届くのにも、もう少し時間がかかりそうだ。
けれどそんなことも許せてしまくらいに、今日は穏やかないい天気だった。
ふわりと優しい春風が吹く。
ラグナルが持っていた桜の花びらが、二人の恋路を暗示するかのように、のんびりと雲ひとつない青空に吸い込まれていった。
END.
最後でお読み頂きありがとうございました。
第1部はこれにて終了になります。
第2部は執筆中なので、しばらくお待ちくださいませ。
(もしかしたら婚約破棄系の新作を先に出すかもしれません)
それでは、引き続きよろしくお願いいたします。
春の訪れに、山々は生命の賛歌を歌うかのように、せいいっぱいみずみずしい葉を広げている。
そんな中、大きな桜の木が並ぶ川のほとりで、大勢の人々が食べたり飲んだり、どんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
春の恒例行事、お花見大会である。
「あーっ、メルずるーい! ミルもおいなりさん食べる!」
「メルが最初にとったもんねー!」
ミルとメルが重箱の中からいなり寿司の最後の一つを取り合っていた。
空中で取り合いっこをし、最終的にレジャーシートに座ってをお酒を飲んでいたルーチェの頭に取り落とす。
「もぉおおおおおおーっ!? いつもいつも、あにすんのよぉおおおおお!!」
米粒だらけになったルーチェは、例のごとくブチ切れる。
「今日こそ許さないわ、こんの馬鹿妖精ども! チビの餌にしてやるんだから!」
ルーチェは酔っ払っているのか、顔を真っ赤にして酒瓶を振り回しながら、妖精たちを追いかけた。
ミルとメルは、酔っ払って顔が赤いルーチェを面白がって、カメラでカシャカシャと撮っていた。
「本当うるせぇよなぁ。よくやるぜ」
シュロに酒を注いでもらいながら、ヤマトもほろ酔い気分で、呆れたように笑っていた。
「いやぁ、まったく。平和で何よりですよ」
シュロもやわらかく微笑みながら、ひらひらと舞い降りてくる桜の花びらを眺めた。
「それにしても、今日はいい天気ですね。お花見日和でよかったですわ」
リリィは空を見上げて、笑った。
ショコラはそんな平和な様子を、木にもたれかかって、眺めていた。
隣にはラグナルが座っていて、おにぎりを頬張っている。
「桜って、こんなに綺麗なんですねぇ」
満開の桜が咲く様子は、まるで夢の中にでもいるようだ。
それくらい幻想的で、綺麗だった。
孤児院にいたころ、だれがこんな幸福な景色を想像できただろうか。
「ご主人様、こんな景色を見せてくれてありがとうございます」
「別に、桜が勝手に咲いてるだけだよ」
相変わらずマイペースな返事だった。
ショコラが苦笑していると、ラグナルがつぶやくように言う。
「でも、よかった」
「え?」
「ほら、前に約束したじゃないか。お花見をしようって」
「あ……」
そういえば、ずっと前にそんな話をしていた。
「ショコラと一緒に、この景色が見られてよかった」
ラグナルはそう言って、笑う。
ショコラもつられて、笑顔になった。
「今度は夏が来る。かき氷に、花火に、水遊びに、ひまわり畑の鑑賞に……また、楽しみなことがいっぱいだ」
「かきごおり? はなび?」
聞いたことのない単語に、ショコラは耳をひょこひょこ動かす。
「知らないの? じゃあ、夏になってからのお楽しみだね」
「えー、気になります。今知りたいです」
そう言うと、ラグナルはふっと笑った。
「だってショコラは、これからもずっとここにいるんだから、焦らなくてもいいでしょう?」
「!」
ショコラはびっくりすると同時に、嬉しそうにこくこくと頷いた。
「君はもう、どこにもやらないから。僕のそばに、ずっといてもらう」
そう言って、ラグナルがショコラの頬に手を伸ばす。
その真剣な表情に、ショコラは釘付けになってしまった。
「……っ」
(あれ……?)
なんだろう。
すごく……すごく、ドキドキする。
「ごしゅじ……」
「黙って」
(え、な、何……?)
ラグナルの顔が近づいてくる。
ショコラは思わず、目をぎゅうっとつぶった。
まさか。
けれど、しばらく経っても、何もない。
「とれた」
「へ?」
ラグナルの嬉しそうな声が聞こえてきて、ショコラは目を開けた。
「桜の花びら、ついてたよ」
「……」
「どうしたの?」
きょと、とラグナルは目を瞬かせる。
「君、顔が真っ赤だ」
「っ」
「熱があったら困るな」
「ち、違うと思います」
「じゃあ、何?」
「わ、わたし……」
ショコラはおろおろして、ラグナルが意地悪な笑みを浮かべていることに、気づいていなかった。
ラグナルは、脱力系に見せかけて、けっこうズルい。
そんな魔王だった。
ショコラは熱くなるほっぺに手を当てて、自分の変化に戸惑っていた。
(なんで、こんなにドキドキして……)
ショコラがその胸の高鳴りの意味を知るのには、もう少し、時間がかかりそうだ。
「うぎゃーっー!」
突然、川のほとりに、ルーチェの悲鳴が響いた。
ミルとメルの大爆笑する声も聞こえて来る。
「ルーチェ、川に落ちた!」
「ずぶ濡れー!」
水をかぶってぐしゃぐしゃになっているルーチェを見て、申し訳なさそうに、けれど我慢できなくなってしまったのか、みんな笑っていた。
「あに笑ってんのよー!!!」
ショコラとラグナルも、目を見合わせて、笑ってしまった。
騒がしくて、トラブルもいっぱいあって、大変なこともある。
でもそれらを含めて、ショコラはこの優しくてあたたかな日常が大好きだった。目の前に広がるこの光景を、大切にしたいと思う。
ラグナルが微笑んで、けれど真剣味を帯びた表情で言った。
「約束してよ、ショコラ」
「?」
「ずっと僕のそばにいるって」
ショコラは耳をぴん、と立てて、笑顔になった。
「はい。もちろんです。ショコラはずっとずっと、ご主人様と一緒です。ショコラはご主人様の、一番の召使いです!」
「……そっか」
……やっぱり、ラグナルの気持ちが届くのにも、もう少し時間がかかりそうだ。
けれどそんなことも許せてしまくらいに、今日は穏やかないい天気だった。
ふわりと優しい春風が吹く。
ラグナルが持っていた桜の花びらが、二人の恋路を暗示するかのように、のんびりと雲ひとつない青空に吸い込まれていった。
END.
最後でお読み頂きありがとうございました。
第1部はこれにて終了になります。
第2部は執筆中なので、しばらくお待ちくださいませ。
(もしかしたら婚約破棄系の新作を先に出すかもしれません)
それでは、引き続きよろしくお願いいたします。
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