もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来

雨の夜の尋ね人

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 ザアアアア、と激しい雨が窓を打ち付けていた。
 ときどき雷が鳴って、遠い場所でピカッと光っている。


 夜の九時。
 晩ご飯を食べ終わって、各々のんびりした時間を過ごしていた頃。
 ショコラは楽しみにしていたテレビ番組を見るため、ミルとメルと一緒にソファにすわっていた。ラグナルはもう寝るらしいので、夜のお勉強もない。
 リリィやシュロ、ヤマトもテーブルについて談笑している。
 
 テレビから、独特な不協和音を奏でる音楽が流れてきた。
 画面には、「世にも奇妙な気がする物語~梅雨の特別篇~」という文字が出ている。

「ねえちょっと、あたしこんなの見たくないわ! 別のがいい!」

 テレビを見ていたショコラの隣にドスン! と座ったのはルーチェだ。
 彼女は自分の仕事がない日はよくこの館へ来るのだが、またしばらく滞在することになったらしい。
 ルーチェはショコラからリモコンを取り上げて、別の番組にかえた。

「あー! ルーチェやめて!」

「ルーチェのあほー!」

 ミルとメルが怒って、ルーチェからリモコンを取り返した。

「ミルたちこれ見るもんねー!」

「ねー!」
 
「あ、あたし嫌よ! 変えてよ!」

「「いやー!!」」

 リモコンを持っていたメルがふわりと飛び上がって、部屋の隅にあった背の高い家具の上へと隠してしまった。

「もー!! 何するのよ!」

 怒るルーチェに、ショコラは首をかしげた。

「なんでですか? これ、とっても面白そうです」

 ショコラはテレビ番組を見るのが好きだ。
 ニュースなんかは難しくてあまりよく理解できないが、子ども向けの番組や、夕方のアニメなんかは良く見る。リリィとヤマトの好きな昼ドラマはあまり興味がなかったけれど、夜のドラマは割と面白いものが多い。
 ルーチェは腕をさすって言った。

「だってこれ、けっこう怖い話もやるのよ!」

 ショコラはぽかんとルーチェを見た。

「何がダメなんですか?」

「何がダメって……こ、怖い話なのよ」
 
 ショコラは瞬きした。

「ルーチェさんって、怖い話が苦手なんですか?」

「べ、別に、苦手とかじゃないわよ!」

 後ろでお茶を飲んでいたリリィが笑った。

「ルーチェさんって、昔から怖がりですものねぇ」

「誰が怖がりなのよ!」

「なんだよ、お前怖がりだったのか?」

 ヤマトがほーん、と馬鹿にしたように言った。
 ルーチェとヤマトは犬猿の仲である。
 そんな風に馬鹿にされて、ルーチェが黙っているわけがない。

「違うわよ! いい大人なんだからそんなわけないでしょ!」

「じゃあそのままのチャンネルでいいだろ。大人気ない」

 ヤマトにそう言われて、う、とルーチェは詰まった。
 ショコラたちはもう、テレビに夢中になっている。
 ルーチェはソファから立ち上がって部屋を出ようとしたのだが、真っ暗な廊下を見て、なぜか戻ってきた。
 ヤマトが意地悪そうにニヤニヤ笑っていたので、ふんと鼻を鳴らしてソファへ腰をかけた。
 こうして、一同の視線はテレビへと釘付けになった。

 ◆

 テレビが始まってしばらくした頃。
 ショコラの服をついついと何者かが引っ張った。
 ルーチェだ。

「ちょ、ちょっとアホ犬」

「?」

 ルーチェは小声でショコラに言った。

「ト、トイレにいきたいんだけど」

「? どうぞ行ってください」

「……」

 黙ってショコラの服の端を握るルーチェ。

「トイレの場所、忘れちゃったんですか? 玄関ホールの右手が一番近いですよ」

「だから、その……」

 何かを言い淀むルーチェに、ショコラは首をかしげる。

「これ、録画じゃないから止められないですよ」

「違うわよ。そうじゃなくて」

 う~、とルーチェはもぞもぞし始めた。
 扉の方を見ては、暗い廊下に怯えるように視線をショコラにうつす。
 窓にはざあざあと雨が打ち付けられ、雷が光っていた。

「う……もういいわよ!」

 ルーチェはふん! とそっぽを向いた。
 けれどそれから何回か、

「はぁ~トイレにいこうかしら~?」

 というような、大きな独り言をつぶやいていた。
 しかし誰一人として、ルーチェの方を見ない。
 テレビと雨音、そしてリリィがお茶をすする音がリビングに響く。
 みんなじーっとテレビに視線を向けている。
 ミルとメルでさえ、黙っててテレビを見ていた。

(ううう……トイレ漏れそう……)

 ルーチェは冷や汗をかいていた。
 あの真っ暗な廊下を一人で歩くなんてごめんだとルーチェは思った。
 テレビでは、とても怖い話をやっていて、怖くて外に出られそうもない。
 しかもタイムリーなことに、ちょうど雨の夜の話が放送されていた。

 ◆

『雨の夜の尋人』

 夜になると、いつも家のチャイムが鳴る。
 なんども、なんども。
 けれどインターフォンの映像で確認しても、外には誰もいないのだ。

 ある雨の日のこと。
 その日もまた、チャイムは鳴り止まなかった。

 家の主がとうとう扉を開けると──。 

 ◆

 ガッシャーン!!

「ぎゃあああああ!?!?!?」

 突如、轟音が響くと同時に、リビングの明かりが消えてしまった。
 テレビも消えてしまい、部屋は真っ暗になる。
 どうやら雷が落ちたらしい。
 ショコラは真っ暗になったことよりも、ルーチェの悲鳴に飛び上がってしまった。
 
「ブレーカー落ちたな」

「本当ですね」

 意外と館の住人たちは落ち着いていた。
 
「ああでもこの家、勝手に復旧しますから大丈夫ですよ。設備だけは最新ですから」

 そう言いつつも、ヤマトが手探りでキッチンの方から携帯灯火をいくつか持ってきた。
 細長い筒状のそれをみんなに配る。

「わたくしめが見てきましょうか?」

「俺もいくわ」

 しばらく暗い状態が続いたので、ヤマトとシュロがブレーカーを確認しにいくことになった。
 その間、ショコラたちはおとなしくソファに座って待っていた。
 しかし。

「う……う……」

「え?」

 ショコラにしがみついて、ルーチェがふるえていた。

「ど、どうしたんですか、ルーチェさん。怖いですか?」

「ち、が……おしっこ……」

 ショコラはぎょっとした。
 ルーチェはなぜか泣いていたからだ。

「漏れるうぅ……」

「と、トイレですか?」

 ずぴ、と鼻をすすってルーチェはこくこくと頷いた。
 よくわからないが、とにかくショコラに連れて行って欲しいようだった。
 仕方ないので、ショコラは灯火を持って、部屋を出た。リリィはミルとメルの面倒を見るので忙しそうだったので、すすんでその役を引き受けたのだ。

 ぶるぶると震えるルーチェを引きずるように、ショコラは暗い廊下を歩く。
 ピカピカ、ゴロゴロと雷が鳴り、窓からは時折眩しい光が入ってきた。
 この館はよくいえばレトロだが、悪く言えば非常に古く、影がある。
 こんな雨の夜は、まるでお化け屋敷のようだとショコラは思った。

 リンゴーン

「ひっ!?」

 玄関ホールを通り抜けようとすると突然、館のチャイムが鳴った。

「な、何!?」

 ルーチェが震えてショコラにしがみつく。
 もう夜の十時も過ぎた頃であるというのに、いったいこんな雨の日に誰が訪ねてくるというのか。
 二人の脳裏に、先ほどのドラマの内容が蘇った。
 雨の夜に何度も何度もチャイムを鳴らし、そして扉を開けると……。

 リンゴーン

 もう一度チャイムがなる。
 さすがのショコラも怖くなってふるえた。

 リンゴーン……

「ううう、いやよぉ」

 二人はひっついて、その場から動けなくなってしまった。

 ギギギ……

「!」

 ついに扉が一人でに開いた。
 というか、向こうが開けたのだろう。
 雨の音。
 激しい風。
 
 ピカッと雷が光った。

 その瞬間、暗闇の中に、幽霊のようなフォルムの人が二人、見えた。
 顔は影になって見えない。

 
「ひぎゃーッッッ!?!?!?」


 館にルーチェの悲鳴が響きわたった。










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