オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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『一章:ビースト・フロンティア』 探索者

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 ルナが棺から出ようと立ち上がる。

 「あれ。これなんだろう」

 ルナが棺の中に何か落ちているのを見つける。
 埃が溜まっており取り出したそれはどうやら古びた肩掛けの鞄のようだ。

「うわぁ。ぼろぼろ。ってか普通に触れる!」

「一緒に入ってたのならおそらくルナの鞄じゃないか?」

 記憶のない彼女は首を傾げるが「レームも見る?」と渡してきた。
 「あれ?」 受け取ろうとしたが鞄は彼女同様にレームの手は擦り抜けた。

「やはり君の固有アイテムっぽいね。中には何か入ってない?」

 レームの質問に少女は中をごそごそと探る。
 なんと小さめの鞄だが少女の肘くらいまでスポっと入ってしまった。
 明らかに外観からは想像できない容量だ。

「レーム! この鞄中がすっごい広い!」

 ほぉっと驚き広げた鞄の口からレームも覗き込む。
 中はなんと迷宮の入口のような靄っとした空間が広がっていた。

「これは魔法鞄マジックバックだね。他の探索者が使っているのを見た事があるよ」

 レームの言葉に少女が「すごーい!」と歓声を上げる。

「ん? 何か入ってる」

 少女は腕を肩まで鞄の中に入れ探す。
「よっ」っと言って取り出したのは古びた巻物と意匠な竜が掘られたガラスの小瓶に入った真紅の液体だった。
レームは少女の持つ小瓶を爪先で軽く突くとコツコツと音が鳴る。

「おっ! 触れる!」
「わぁ! 触れたね」

 思わず二人の声が重なりレームは少し恥ずかしそうにしながら小瓶を受け取る。

「何かの魔法薬だと思うんだけど分からないなぁ」

 小瓶をルナに返し次は巻物を預かろうとしたが、風化が激しくルナの手の中で結んでいた紐が切れて巻物はレームに向けて解かれてしまう。
 巻物に書かれた複雑な文字列が淡く光りレームは驚いてその光景をみていた。
 光を放つ文字は巻物から飛び上がりレームに向かって飛び額の中へと吸い込まれていった。
 レームは一瞬の出来事だったが特に変化がない。
 ルナも慌てて「大丈夫!?」と心配してくれた。
 その時だ。

「おわっ! なんだこれ」

 ただジッと文字列を見ていただけだが脳裏に文字が浮かんだ。

~~~
スキル『鑑定』の巻物(使用済)
 使用した者はスキル『鑑定』を覚える事が出来る。
~~~
 
それはレームにとって衝撃的な文面だった。
珍しいなんてレベルではない超希少アイテムであるスキル巻物スクロール
歴史上では迷宮でのドロップは確認されているがいずれも天文学的な金額でやり取りされていた筈だ。 

「すまない。故意ではないが君のアイテムを勝手に使用してしまったみたいだ」

 レームは素直にルナに詳細を伝える。

「んー私は別に気にしないんだけど...それじゃあレームが私を助けてくれたお礼って事で! どうかな?」

 ルナはレームに微笑みを返したのだった。
 一度気を取り直し、折角なので手に入れたスキルの使用を試みたいが。

「レーム。早くここから出たいんだけど」

 と言うルナの一言で一旦街に戻る事となった。
 地下の階段を上がり見慣れたフィールドへと戻って来た。

「わぁ。綺麗な場所。凄い凄い!」

 新緑の隙間から降り注ぐ木漏れ日に照らされたルナは神秘的な様を奏でる。
 彼女はまるで木々を初めて見るように全てを珍しがった。
 帰る途中数匹の牙鼠と遭遇したが、いずれもルナには目をくれずレームだけを狙い襲ってきた。

「これでこっちから触れると私も役に立てるんだけど」

「それなら戦闘も楽なんだがなぁ。でも何かいる事は感じているみたいだね。途中ルナの方を見る個体がいたように感じたけど?」

「私も思った! 何度か目が合ったし。魔物にも霊感があるのかもねぇ」

 迷宮内はどこも広大なフィールドだが『レアールの森』は二日で全てを見て回れる程度の広さしかない。噂では大陸丸ごと入る程のフィールドを保つ迷宮もあるらしいのでいかに小さな迷宮かが分かる。

 二人はレアールの街に戻ってきたが入口に立っていた街の警備隊も誰もルナの事が見えていなかった。

「私こんな賑やかな場所に来たの初めて! レーム見て! あれ可愛くない!?」

 声の方を見ると路面に若い女性向けの服が飾ってある。
 服の周りにはルナと同世代らしき少女達で賑わっていた。
 正直おっさんであるレームには十代の服の良さは分からないがルナに似合いそうなのは解る。

「ルナにも似合いそうだね。しかし流石にあの子達の間に割って入るのは勘弁してくれ」

 ルナは困った表情のレームを見て声高らかに笑った。

「取り敢えずギルドに寄ってもいいか?」

 レームの言葉にルナも頷き二人は歩いて行く。

「足...大丈夫?」

 ルナは隣を歩くレームが右足を少し引きづっているのに気が付いた。

「あぁなんでもないさ。昔の傷が痛むだけだ」

 肩を貸してたくともすり抜けてしまう自身の身体にルナはやきもきする。
 ギルドに到着し二人は中に入っていた。
 ギルドに入ると銀級の受付でなにやら年配の女性が声を荒げ周りの目を引いている。
 気にはなったものの取り敢えず白級の受付に並ぶといつもの受付嬢ミナが座っていた。

「レームさんララキノコとピリカ草のクエストお疲れ様でした。牙鼠の駆除も感謝します。只今報酬をお持ちしますね」

 ピリカ草五つとララキノコが三つ、牙鼠の尾は六尾だ。
 ピリカ草は五百ダリー、ララキノコは四百五十ダリー、牙鼠の尾は三百ダリーで買い取ってもらえた為千二百五十ダリーを受け取る。
 千ダリーは大銀硬貨一枚、十ダリーは大銅貨一枚となる。
 レームは職員が集まっている受付を見てミナに小声で聞いた。

「ミナさん。あれどうしたの?」

 ミナはやや表情を曇らせる。

「昨日依頼を受けた白級のパーティーがまだ依頼から帰ってきていないのですよ。あの方はパーティーメンバーの一人の母親ですね。白級の迷宮『白兎キラーラビットの巣穴』のクエストに向かったのですが消息が途絶えてしまったのです」

 『白兎キラーラビットの巣穴』はレアールの街から馬車で二時間程の距離にある白級の迷宮の中では中級手前程の迷宮だ。
 かつて怪我を負う前に白兎の迷宮に潜った事もあるレームとしては少し違和感がある

「まさか新人パーティーを行かせたのか?」

 ミナは首を左右に振る。

「ちゃんと実績を積んだ今度黒級の試験を受ける予定だったパーティーです。それがどうやら進化個体が現れたそうなんですよ。定期的な討伐は実施していたのですが今は黒級のパーティー『黒鋼くろがね』が討伐依頼を受けている最中です」

 大方の事情は分かったが今のレームに出来る事は何もない。

「レーム。可哀想だよ。助けてあげられないの?」

 ミナに礼を言ってギルドを出る。
 ミナの前で誰も見えていないルナに返事を返すわけにもいかなかった為一度外に出た。

「うーん今の俺じゃぁ白兎キラーラビットの相手はちと厳しいな。牙鼠と同じで単体で襲ってくる魔物なんだけど個々が段違いに強いからこの脚じゃ連戦は難しいと思う。まあ仮に何とかなったとしてもギルドから討伐依頼を受けているパーティーがいる以上は勝手に手を出せない決まり事もあるし、進化個体ともなれば確実に黒級指定の魔物になるから、どの道俺一人では無理だよ」

「そうかぁ」

 残念そうなルナには悪いが出来る事は限られて来る。
 当然自分でも情けないとは思うが可能性どころか自殺行為にしかなり得ない為どうしようもない。

 二人はレームの借宿に戻ると背負っていた荷物をおろしようやく一息ついた。

「先に汚れを落としてくるよ」

 レームはシャワーを浴びて出てくるとルナの格好に驚いた。

「見てレーム! じゃぁーん」

 ルナの格好は街の通りで見た飾られた服装と同じだった。

「どうしたのそれ?」

「私も着替えたくてあの服をいいなぁって思ってたら念じた通りに服装が変わった!」

 良く見ればボロボロだった古びたマジックバックもお洒落な鞄に変わっている。

「幽霊って便利なんだなぁ。少し羨ましいかもしれん」

 自慢げにふふんと鼻で嗤い狭い部屋の中をクルリと一回転して見せる。
 ちょっとしたファッションショーが終わりレームは床に、ルナはベットの上に座った。

「少し試してみたい事があるんだけど、手伝ってもらっていいか?」

 元気よく返事を返したルナにレームは可愛らしくなったマジックバックを貸してもらう。
 とはいえレームは持つ事さえできない為ルナが持っているが。
 レームは鞄に意識を集中させる。

~~~
魔法鞄マジックバック
 容量:特大
 ???が作成したマジックバック。
 使用権限:ルナ
~~~

「ふむ」 と一人納得しているとルナが横から騒ぎ立てる。

「ごめんごめん。んー見えない部分があるけど容量は特大みたいだね。後使用者権限がルナだけっぽい」

「おー! ってそれは凄いの?」

 正直魔法具なんて扱った事がない為よく分からない。
 その後何度か【鑑定】を使用したが結果は同じだった。
 

「次はアイテムを入れてみるか」

 先ずは持っていた下級傷薬を入れようとしてみる。
 そもそも掴めないバックの口に傷薬を入れようとしても勝ってに吸い込まれるわけもなかった。
 次にルナに頼み入れてもらおうとしたが今度はルナが下級傷薬に触る事が出来なった。
 これには正直二人供がっかりして溜息を吐く。

「なんか期待外れ~」

 ルナが口を尖らせた。
「そうしたら今度は」とレームが呟きルナの事をじっと見つめる。

「ちょっ! なになに! ようやく私の魅力に気付いたのかしら」

 などと慌てるルナを無視して集中した。

~~~
???
???????
~~~

「ありゃ。ルナの事を鑑定してみたんだけど全く見えなかったよ。君が特別なのか俺のスキルの熟練度がたりないのかこれは検証が必要かもしれないね」

 と言った後ルナと視線が合うと少し怒った表情のルナがいた。

「デリカシー! 女の子を無断で鑑定するなんてどういう事ですか!」

 一旦中断して平謝りをした後ようやく機嫌が直る。
 今後は気を付けようとレームは心に決めた。

「それではようやくコレですな!」

 ルナが鞄から取り出したのは竜の模様のついたガラスの小瓶。
 中の真紅の液体が光に反射をして妖しく煌めいている。
 なぜかこの瓶と巻物はレームも触れる事が出来た為、受け取って自身で持つ。

「それでは早速」

 小瓶に意識を集中する。
 
~~~
ディアベルの涙
 神ディアベルの涙。
 迷宮から稀に産出される。
 別名「エリクサー」 飲んだ者の存在の格を上げる事が出来る。
~~~

 レームは愕然とした。
 隣りではまたもルナが騒ぎ立てたが今回は中々我に返る事が出来ずにいた。



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