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『一章:ビースト・フロンティア』 探索者
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支度が整い先ずレームがルナを連れて来たのは探索者ギルドだ。
建物に入りレームはいつも通りに左端の受付に並ぶ。
若い男の探索者の視線をいくつか感じるのはルナの美貌のせいだろうか。
「お早う御座いますレームさん。今日ご案内できるクエストですが...レームさん何かありましたか? すみませんいつもと様子が違う感じがして、では依頼ですが」
ミナはレームの顔や姿を見て違和感を感じたのか困惑した表情を浮かべたが直ぐに気を取り直し説明に戻る。
「おはようミナ。すまないがクエストよりも先にこの子の登録をしたいのだがいいか?」
紙の束から何枚か選ぶミナに物珍しそうに室内を眺めていたルナを呼び紹介する。
「ルナです! 初めまして! 宜しくお願いします!」
「初めましてルナさん。白級受付担当のミナです。宜しくお願いします。では一度此方に来て頂けますか?」
「すみません受付変わって下さい」 と他の職員に言付け皆ミナは席を立った。
「なにが始まるの?」
興味津々のルナにレームは(懐かしいな)と思い浮かべながらルナに説明する。
「簡単な審査を受けるんだ。まぁ行ってみればわかるさ」
ミナの後をついて行き部屋に通される。
部屋に入ると綺麗な薄緑の水晶が真ん中に置かれていた。
「ルナさん。これは魂の水晶と呼ばれる魔道具です。水晶に触れた方のスキルや特定の様々な情報を知る事が出来ます。ここでは所持しているスキルと犯罪歴、後は精神の歪みを写し出す設定にしておりますが、この情報をギルドに開示しても問題なければ水晶に一度触れてもらってもいいですか?」
ルナはミナに言われた通りに水晶に触れると水晶は淡い光を放ち文字が浮かんだ。
ミナが持っていたバインダーに水晶に浮かんだ文字を書き写していくが、その顔は徐々に険しい表情に変わる。
「レームさん。少しルナさんとお待ちください。少し席を外します」
ミナを見送りルナが心配そうにレームを見てくる。
「私何かしちゃったのかな?」
「やっぱりこうなったかぁ。まあ心配する事はないさ」
レームの鑑定で「???」の時点でうっすらこうなる気がしていたが、この審査を通らなければ探索者になる事が出来ないので仕方がない。
レームに詳細を聞きたいが彼は妙に落ち着かない様子だった。
ノック音がしてミナが入って来る。
「レームさん、ルナさん。ギルドマスターが呼んでますので来て頂けますか」
三人は二階に上がった後一つの扉の前で止まり皆がノックをする。
中から女性の声で「入れ」と聞こえ三人は中に入った。
「久しぶりだなレーム」
「久しぶりだねセシリア」
紅く長い髪を後ろでまとめ職員の制服に身を包んだ女性が執務室の机に座っていた。
挨拶を交わす二人はどこかぎこちなく空気が重い。
ルナは綺麗な人だなと見惚れてしまい呼ばれているのに気付かなかった。
「ルナ。どうかしたのか? この人がレアールの探索者ギルドマスターのセシリアだ」
ルナは「なんでもない」と取り繕い名を名乗った。
「初めまして! ルナと申します!」
セシリアは微笑みながら手を差し出し握手を求める。
「そう固くなる必要はないさ。初めまして、ギルドマスターのセシリアだ」
ルナがセシリアの手を両手でしっかりと握るがセシリアの体温のない手に驚く。
「義手なんだ。驚かせてしまったかな。それではそこに掛けてくれ」
二人は促されるままにソファーに座り、対面にセシリアが座る。
ミナは三人の前に茶を出して退出した。
「さて、わざわざ来てもらったのは君の水晶の結果について聞きたい事があったからだ。心当たりはあるんだろう? レーム」
セシリアは確信があるようにレームの瞳を覗き込んだ。
「やはり君には隠し事は出来ないね。少し長くなるけどいいかい?」
「時間ならあるさ」
一通りの説明を終えレームは喉を潤した後一息つく。
セシリアは険しい顔をしながらなにやら考え込み、ルナは心配そうに二人の顔を交互に見ていた
「まさかあの迷宮にそんな場所があるとはな。確認だがルナ自身は何も記憶はないのだな?」
神妙に頷くルナにまたもやセシリアは考え込む。
「話は分かった。つまりルナ君は水晶では魂を写す事ができない存在というわけだ。その場所は調査が必要だな。レーム、私をそこに案内出来るか?」
レームは少し驚いたように、
「ギルドマスターの君が直接行くのか?」
「百年以上も誰にも発見されなかった迷宮の隠し通路だぞ? 探索者としてはこれ程までに心躍る言葉はあるかい? それとも私とはもう迷宮には入りたくないのかな?」
揶揄うように笑いながら話すセシリアの顔はルナには何処か寂しそうに見えた。
「そんなわけないだろう。でもギルドは大丈夫なのか?」
「なに調査だって立派な仕事だろう。数時間席を外してたところでどうこうなる訳でもあるまい。ルナ君、水晶や君自身の事、迷宮の隠し部屋に関しては他言無用で頼む。その代わりではあるが君の登録を認めよう」
ルナの目が大きく見開き
「有難う御座います!」
と嬉しそうに礼を言った。
セシリアが呼び鈴を鳴らすと少しして扉がノックされ職員が入って来た。
「君、すまないがこの子を教習に連れていってくれるかい? ルナ、我々は君のような若く有望な新人を心から歓迎する。ようこそ、探索者の世界へ」
「宜しくお願いします!」と元気よく頭を下げルナは職員と一緒に部屋を出て行った。
二人きりとなった部屋に沈黙が訪れる。
「さてレーム。私に何か言う事があるんじゃないのかい? 君は確か私より三つ程歳が上だったと記憶しているが、随分と若返ったように見える。例の隠し通路で見つけた物は彼女だけではあるまい」
「相変わらず君には隠しごとは出来ないな。とは言え隠すつもりもないしセシリアには全て話すつもりだったさ」
レームはスキル【鑑定】の事からエリクサーの事も全て話した。
「聞いておいてなんだが...この事はもう他言するなよ。迷宮の未踏破区域の発見もそうだがこれは命を狙われかねないぞ」
少し呆れたような顔をしたセシリアにレームは頭を下げた。
「すまなかったセシリア」
セシリアの茶を啜る音だけが部屋に残りセシリアは溜息を吐いた。
「レーム。それは何に対する謝罪だ? 過去に君や私が負った傷は誰の所為でもない。それとももう十年近く私を避けてきた事かな? これに関しては謝る必要はないよ。もう十年も経ったんだ、、、何も気にする事はない、、、寂しくなかったと言えば嘘になるがな」
頭を下げ続けるレームの頭上にセシリアの乾いた笑い声が響いた。
レームの肩にそっと柔らかいセシリアの温もりが伝わる。
「おかえり。レーム」
セシリアはレームの肩を抱き一言だけ告げた。
「...ただいま」
セシリアの胸でレームは静かに涙を流した。
建物に入りレームはいつも通りに左端の受付に並ぶ。
若い男の探索者の視線をいくつか感じるのはルナの美貌のせいだろうか。
「お早う御座いますレームさん。今日ご案内できるクエストですが...レームさん何かありましたか? すみませんいつもと様子が違う感じがして、では依頼ですが」
ミナはレームの顔や姿を見て違和感を感じたのか困惑した表情を浮かべたが直ぐに気を取り直し説明に戻る。
「おはようミナ。すまないがクエストよりも先にこの子の登録をしたいのだがいいか?」
紙の束から何枚か選ぶミナに物珍しそうに室内を眺めていたルナを呼び紹介する。
「ルナです! 初めまして! 宜しくお願いします!」
「初めましてルナさん。白級受付担当のミナです。宜しくお願いします。では一度此方に来て頂けますか?」
「すみません受付変わって下さい」 と他の職員に言付け皆ミナは席を立った。
「なにが始まるの?」
興味津々のルナにレームは(懐かしいな)と思い浮かべながらルナに説明する。
「簡単な審査を受けるんだ。まぁ行ってみればわかるさ」
ミナの後をついて行き部屋に通される。
部屋に入ると綺麗な薄緑の水晶が真ん中に置かれていた。
「ルナさん。これは魂の水晶と呼ばれる魔道具です。水晶に触れた方のスキルや特定の様々な情報を知る事が出来ます。ここでは所持しているスキルと犯罪歴、後は精神の歪みを写し出す設定にしておりますが、この情報をギルドに開示しても問題なければ水晶に一度触れてもらってもいいですか?」
ルナはミナに言われた通りに水晶に触れると水晶は淡い光を放ち文字が浮かんだ。
ミナが持っていたバインダーに水晶に浮かんだ文字を書き写していくが、その顔は徐々に険しい表情に変わる。
「レームさん。少しルナさんとお待ちください。少し席を外します」
ミナを見送りルナが心配そうにレームを見てくる。
「私何かしちゃったのかな?」
「やっぱりこうなったかぁ。まあ心配する事はないさ」
レームの鑑定で「???」の時点でうっすらこうなる気がしていたが、この審査を通らなければ探索者になる事が出来ないので仕方がない。
レームに詳細を聞きたいが彼は妙に落ち着かない様子だった。
ノック音がしてミナが入って来る。
「レームさん、ルナさん。ギルドマスターが呼んでますので来て頂けますか」
三人は二階に上がった後一つの扉の前で止まり皆がノックをする。
中から女性の声で「入れ」と聞こえ三人は中に入った。
「久しぶりだなレーム」
「久しぶりだねセシリア」
紅く長い髪を後ろでまとめ職員の制服に身を包んだ女性が執務室の机に座っていた。
挨拶を交わす二人はどこかぎこちなく空気が重い。
ルナは綺麗な人だなと見惚れてしまい呼ばれているのに気付かなかった。
「ルナ。どうかしたのか? この人がレアールの探索者ギルドマスターのセシリアだ」
ルナは「なんでもない」と取り繕い名を名乗った。
「初めまして! ルナと申します!」
セシリアは微笑みながら手を差し出し握手を求める。
「そう固くなる必要はないさ。初めまして、ギルドマスターのセシリアだ」
ルナがセシリアの手を両手でしっかりと握るがセシリアの体温のない手に驚く。
「義手なんだ。驚かせてしまったかな。それではそこに掛けてくれ」
二人は促されるままにソファーに座り、対面にセシリアが座る。
ミナは三人の前に茶を出して退出した。
「さて、わざわざ来てもらったのは君の水晶の結果について聞きたい事があったからだ。心当たりはあるんだろう? レーム」
セシリアは確信があるようにレームの瞳を覗き込んだ。
「やはり君には隠し事は出来ないね。少し長くなるけどいいかい?」
「時間ならあるさ」
一通りの説明を終えレームは喉を潤した後一息つく。
セシリアは険しい顔をしながらなにやら考え込み、ルナは心配そうに二人の顔を交互に見ていた
「まさかあの迷宮にそんな場所があるとはな。確認だがルナ自身は何も記憶はないのだな?」
神妙に頷くルナにまたもやセシリアは考え込む。
「話は分かった。つまりルナ君は水晶では魂を写す事ができない存在というわけだ。その場所は調査が必要だな。レーム、私をそこに案内出来るか?」
レームは少し驚いたように、
「ギルドマスターの君が直接行くのか?」
「百年以上も誰にも発見されなかった迷宮の隠し通路だぞ? 探索者としてはこれ程までに心躍る言葉はあるかい? それとも私とはもう迷宮には入りたくないのかな?」
揶揄うように笑いながら話すセシリアの顔はルナには何処か寂しそうに見えた。
「そんなわけないだろう。でもギルドは大丈夫なのか?」
「なに調査だって立派な仕事だろう。数時間席を外してたところでどうこうなる訳でもあるまい。ルナ君、水晶や君自身の事、迷宮の隠し部屋に関しては他言無用で頼む。その代わりではあるが君の登録を認めよう」
ルナの目が大きく見開き
「有難う御座います!」
と嬉しそうに礼を言った。
セシリアが呼び鈴を鳴らすと少しして扉がノックされ職員が入って来た。
「君、すまないがこの子を教習に連れていってくれるかい? ルナ、我々は君のような若く有望な新人を心から歓迎する。ようこそ、探索者の世界へ」
「宜しくお願いします!」と元気よく頭を下げルナは職員と一緒に部屋を出て行った。
二人きりとなった部屋に沈黙が訪れる。
「さてレーム。私に何か言う事があるんじゃないのかい? 君は確か私より三つ程歳が上だったと記憶しているが、随分と若返ったように見える。例の隠し通路で見つけた物は彼女だけではあるまい」
「相変わらず君には隠しごとは出来ないな。とは言え隠すつもりもないしセシリアには全て話すつもりだったさ」
レームはスキル【鑑定】の事からエリクサーの事も全て話した。
「聞いておいてなんだが...この事はもう他言するなよ。迷宮の未踏破区域の発見もそうだがこれは命を狙われかねないぞ」
少し呆れたような顔をしたセシリアにレームは頭を下げた。
「すまなかったセシリア」
セシリアの茶を啜る音だけが部屋に残りセシリアは溜息を吐いた。
「レーム。それは何に対する謝罪だ? 過去に君や私が負った傷は誰の所為でもない。それとももう十年近く私を避けてきた事かな? これに関しては謝る必要はないよ。もう十年も経ったんだ、、、何も気にする事はない、、、寂しくなかったと言えば嘘になるがな」
頭を下げ続けるレームの頭上にセシリアの乾いた笑い声が響いた。
レームの肩にそっと柔らかいセシリアの温もりが伝わる。
「おかえり。レーム」
セシリアはレームの肩を抱き一言だけ告げた。
「...ただいま」
セシリアの胸でレームは静かに涙を流した。
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