オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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招かれざる者達

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 その後、レームは近くの巣穴を調査し、いくつかは兎達が襲って来た。
 証拠もそうだが幾つかの怪しい痕跡を見つけ一度ギルドに帰還する事に決める。
 調査に関しては確証がない為セシリアの判断を仰ぐ必要があるが、戦闘に関してはもっと苦戦すると思われていた兎戦をソロで対処出来たのは大きな自信へと繋げる事が出来た。

「これで丈夫なだけの成れの果てって、どんだけだよ」

 鍛冶神ヘパイストスの名剣は十数体の白兎の首の骨を切り落として刃こぼれも曲がりもない。丈夫の一言で片づけていいのか怪しい程の性能はレームにとって心強い。
 月詠を鞘に納めて今度はドロリスダガーを綺麗に拭き取ると妖艶な赤の刃が笑うように光った。
 流石に余裕でとはいかずに下級傷薬を使用する場面があったが、黒級の探索者としては及第点ではないだろうか。

 帰りの馬車に乗りこんだレームはポーチからコミュを取り出した。

〖調査はどうだ? 怪我はしていないか? あまり危険な真似をするなよ〗セシリアtoレーム

〖トライデントの皆と支援依頼だぜぃ! ついに私の冒険が幕を開ける! 乞うご期待!〗ルナtoレーム

 繰り返される戦闘でコミュを見ている暇がなくメッセージに気付いていなかった。
 すぐに返信をして逸る心を抑えつつ帰路を進むのだった。

---------

 ギルドの会議室でレームはホワイトボードの前に立つ。
 目前に座るのはギルドマスターのセシリアと黒鋼の面々、後はソロで活動する黒級探索者や一部の職員達だ。

「どうも、あまりこういう場は得意じゃないから何か意見があればその都度お願いします。知ってる方もいるかもしれませんがレームです。宜しく」

 緊張しながらレームは一応は丁寧に挨拶して一礼した。

「ははは。そう緊張する事はないさ。それでは調査の結果を共有してくれ」

 セシリアは笑うが他の探索者の視線は厳しい。

「なんやギルマス。ワイらの他にレームはんにも依頼しとったんか? まあそれはええねんけど時間の無駄ちゃいますか? はっきり言うて【鼠】の初回突破なんて運でっしゃろ? ライゼルはんならまだしももう引退間際のあんさんに何が出来るっちゅうねん」

 【黒鋼】のリーダーで狼人のリガルドの当て擦りな言葉に「リガルド、口を慎め」とセシリアも声を荒げた。

「黙って聞けよ。うるせぇな」

 意外にも反論したのはアランドロだ。
 「あぁ?」そう広くもない会議室に殺気が満ちていく。

そこに ”ぱんっ“ と前方で手の平を合わせる音が響き皆の視線を集めると、

「皆さんその都度とは言いましたが俺の話を先ずは聞いてくれますか?」

 レームの願い出にリガルドは後方でそっぽ向き一応場が静まった。

「えーっと先ずは整理をしますが、フリューゲルが依頼を受けた翌日の報告期日が過ぎても帰還しなかったために【黒鋼】が捜索依頼を受けたのが十日前、その後の捜索は持ち物や遺体がほとんど迷宮に取り込まれていて捜索が難航、三日前に最後の一人がようやく見つかった。で合ってますか?」

 皆が無言で頷き、レームは続けた。

「遺体は全身に切り傷があったんですよね? 犯人は灰兎の風の刃ウィンドカッター、もしくは群れに襲われた可能性がある、と」

「せや」

 レームの言葉にヤナが苦しそうに答える。

「巣穴で見つかった遺体から獲物を巣穴に持ち込む習性がある白兎の仕業とするのも道理は合います。迷宮の周辺の調査はどうでしたか?」

 これには【黒鋼】のメンバーであるエルフのリリアナが答えた。

「我々も野盗の可能性を視野に入れて迷宮近隣の調査もリスティアナ方面からサザナミ領まで調査しましたが何も見付けられませんでした。当然過去の資料から根城にする盗賊とラムド王国内の指名手配犯まで調べましたけど該当しそうなのは特になにも」

 ここまでがギルドの調査結果の全てだろうと推測する。

「それであんさんは何か分かったのかよ?」

 黙って聞いていたリガルドが言葉を発するが、レームが少し言いづらそうに言葉を紡ぐ。

「確認ですが......女性のメンバーの衣類や貞操はどうでしたか?」

 突如だぁぁんと大きな音をたて会議用テーブルが真っ二つになると怒声が響き渡る。

「なにが言いたいんや! 死者を愚弄するのかにゃ!」

 テーブルを半分に割ったヤナの額に血管が浮かぶ。
 
「遺体も大半は迷宮に取り込まれていたのでそこまでは」

 リリアナもレームにやや殺気の篭る視線を向けた。

「今日俺も白兎の巣穴に潜って来たんですがこれを見てください」

 レームが皆の前に魔法鞄から取り出した幾つかの割れた瓶を取り出しテーブルに置いた。

「これは偶然発見した迷宮に吸収されずに残っていた瓶の破片です」

 セシリアがラベルの付いた破片を手に取り目を見開く。

「これはラムドの酒じゃなくタクトの酒だな。なるほど…これは変だな」

「何がやねん」

 意図の見えないリガルドとヤナが首を捻るが、「確かに奇妙ですね」とパタスが口を挟んだ。

「迷宮に残された物、それこそ死体くらい大きければそれなりに時間も掛かりますが、小さなゴミ程度では一日二日で迷宮に取り込まれて無に帰すでしょう。果たして立ち入りを制限している筈の迷宮で誰がこれを飲んだかという事ですな」

 皆の視線が【黒鋼】に集まる。
 メンバー達は「違うで」と慌てて否定し当然レームでもない。
 結論は出た。

「迷宮に何者かがいるな」

 セシリアの言葉に会議室は騒つく。
 がたっと音を立てて立ち上がった二メートルの巨躯が吠えた。
 凄まじい叫びに全ての窓が振動し皆は耳を塞ぐ。

「ふぅ...ふぅ...」

 目を真っ赤に染め剥き出しの牙の間からは血が滲む。
 
「リガルド、落ち着け」

 沈黙が支配する会議室に場にどぐわないノック音が鳴り響く。

「失礼......します」

 扉を開けて入って来たのは目の周りを腫らしたミナが立っていた。

「あの...レームさんに頼まれていた資料です」

 レームが一時間程前に頼んだばかりの資料をミナは胸いっぱいに抱えてテーブルへと並べる。
 セシリアが紙面を目でなぞり眉間に皺を寄せる。

「貴様ら、今この場で此奴らの情報を叩き込め。タクト王国の元黒級探索者パーティー『ダウト』。
 リーダーは人間フュームジーニアス。スキルは『剛力』
 副リーダーの人間フュームダイラバ、スキルは『千里眼』
 人間フュームグラッド、スキルは『かまいたち』 
 獣人ビスティアブブ、スキルは『大地の加護(中)』」

 セシリアが淡々と読み上げ、レームが顔写真をボードに貼って行く。
 誰もかれもが瞳に闘志が宿り燃え上る。
 特に【黒鋼】にとっては同じビスティアとエルフの混合パーティーとして皆がフリューゲルのレーマー登録をしておりメンバーの一人一人が仲の良い家族のような師弟関係を築いていた事から憎悪は何倍にも膨れ上がった。
 しかしながら同時にヤナは自身の可愛がっていた子の最期が無惨な死を遂げていた事実を受け止めきれずその場で膝から崩れ落ち涙が止めどなく流れる。

 会議室は至急対策を練る為の意見が飛び交い、その中でも厄介なのはダイラバの『千里眼』だ。
 実際は言葉通りの千里ではないが一定の距離なら見通すことが出来る。
 おそらく【黒鋼】の調査の時も迷宮に入った時点で感知されていたのだろう。

「狩るぞ」

 底冷えのする低いセシリアの声がその場に響き消えていった。
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