スイート・パルファム

天汐香弓

文字の大きさ
5 / 7

提案

しおりを挟む
ポケットに入れていたスマートフォン手に洗面所から出ると、廊下で待っていた和真が顔をあげた。
「大丈夫か?」
「はい。お腹、空きましたよね……部屋に戻って出汁を取ってきたらなにか作りましょうか?」
「いや、取りに行くのは明日の朝でいい。夕食はデリバリーを頼もう」
「すみません」
俯いた優に和真の大きな手が頭を撫でた。
「さあ、こっちに」
手を引かれリビングに行くとソファーに座らされた。
「食べたいものは?」
「なんでも大丈夫です」
優の言葉にデリバリーのアプリを開くと隣に腰をおろし、生パスタの店の画面を見せた。
「どれにする」
ジッと見ていた優が指でさしたものを見て選ぶと和真もひとつチョイスし送信した。
「一応、今回のこと、弁護士に頼んでいる。これで優は直接犯人と関わることはない」
「ありがとうございます」
ホッとした優の表情に守ってやりたい、と思った。
「明日荷物を運び出したら、生活をするうえでの取り決めをしよう」
「はい」
丁度インターホンが鳴った。立ち上がった和真が玄関に向かう。
そして戻ってくるとビニールの中から容器とフォークを出した。
「水でいいか?」
「はい」
冷蔵庫からペットボトルを一本と飲みかけのワインボトルを出すとグラスを二個持って戻った。
「食べよう」
「いただきます」
手を合わせ優がパスタを食べ始める。和真が頼んだのはフレッシュトマトのソースにモッツァレラチーズとバジルの乗ったパスタで、それを食べながらワインで流し込む。
「ワインですか?いい匂いですね」
「ああ、そうだな。バーボンも好きだがワインの香りも悪くない。だがアルコールは舌を麻痺させる。だから土曜だけ嗜むんだ」
「お仕事、大事にされているんですね」
「まあな。やりたくてしている仕事だから。そうだ」
あの時のクッキーを思い出して優の方を見た。
「あのクッキーもいい匂いだった。バニラだが、バニラをベースにしても再現出来ない」
「タヒチ産のバニラビーンズを使ったからだと思います。生クリームの中でゆっくり加熱して香りを出したんです」
「タヒチ産は香りが違うのか」
「そう言われてます。まだ余っているので、荷物を持ってきたら作ってみましょうか」
「ああ、ぜひ頼む」
あの香りをもう一度嗅げる。そう思うと楽しみだった。
優を客間に案内し、寝かせてから寝室に入ると村上に電話をかけた。
「どうした?」
「実はこの間話した子がストーカーに遭っていて、ウチで預かることにした」
「大丈夫なのか?」
村上の心配はもっともだろう。部屋には金目のものも多くある。
「大丈夫だ。それより、明日その子の荷物をウチに運びたいんだ。そっちの車で手伝いに来てくれないか?」
「構わないが」
「礼はムートシルトでどうだ?」
高級ワインの名前を出すと村上が喜んだ。
「任せておけ」
「じゃあ、九時にウチに来てくれ」
通話を切りベッドの脇にスマートフォンを置くとベッドに転がった。
思わぬ形で優と同居ということになってしまったが、案外悪くないことかもしれないなと思ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

処理中です...