【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
31 / 129
第二章 社畜と新しい彼女と親子仲のかたち

11.社畜と旅は道連れ

しおりを挟む


 和枝さんが沖縄へ来れなくなったことを、俺はすぐ篠田に話した。というか、途中でソーキそばをすする速度が遅くなり、篠田に「何かあったんですか?」と気づかれてしまった。


「……理瀬のお母さん、沖縄に来れなくなったらしい」

「ええっ?」


 篠田も驚いていた。俺ほどではないが、『子供を一人で遠くに行かせてはいけない』という共通感覚はあるらしい。


「そんなに忙しいんですか、理瀬ちゃんのお母さんって」

「それもあるが……」


 せっかくの夏休み、娘との旅行をキャンセルするなんて。いくら忙しい外資系のエースでも、度が過ぎている。

 この時から、俺は和枝さんの行動を疑い始めていた。

 会えないのではなく、会いたくないのではないか、と。

 保護者になってほしい、という話をこのタイミングでしたのも理由があるはずだ。

『理瀬と和枝さんは会いたくない』と『俺が理瀬の保護者になる』という条件を重ねると、『和枝さんと理瀬はしばらく会わない』という条件が成り立ってしまう。

 和枝さんは、理瀬ともう会わないつもりなのかもしれない。

 だが、その理由はなんだ?

 ずいぶん特殊な性格の二人とはいえ、親子仲は悪くない。和枝さんの真意はもはやわからないが、理瀬のほうは和枝さんと仲良くしたいと思っている。

 理由は和枝さんの方にありそうだが――思い当たるところがない。


「理瀬ちゃん、一人でどうするんですかね~」


 篠田に言われて、俺は我に返った。和枝さんの真意は気になるが、まずは理瀬のことを考えないと。初めての旅行なんて、思わぬトラブルのオンパレードに違いない。


「まあ、あのホテルなら空港から送迎とかありそうですし、お金もいっぱい持ってますし、一人でもなんとかなりそうな気はしますけど」


 篠田はよそよそしい口ぶりで言った。

 その気持ちはわかる。同棲中ではあるが、お泊りつきのデートはこれが初めて。そのうえ今日の夜には、二人で約束した大イベントが待ち構えている。

 理瀬は、あくまでシェアハウスの同居人だ。仲が良いに越したことはないが、一緒に旅行する必要はない。今回の沖縄旅行(出張)も、日程こそ会っているもののホテルや飛行機は全く別で、一緒に行動する予定ではない。

 篠田からすれば、理瀬にせっかくの初デートに邪魔をされているようなもの。

 だが――

 理瀬を一人にしておいていいのか?

 和枝さんと会う予定がなくなり、一人で寂しがっているあの子を放っておくのか?


『沖縄のことはよくわからないので、三日間ホテルで本でも読もうと思ってます』

『私のことは気にしないで、篠田さんと一緒に楽しんでください』


 ふと通知があったスマホを見ると、既読スルーしていた俺の気持ちを察したらしく、理瀬からのメッセージが届いていた。


「理瀬ちゃんからですか?」

「ああ。私のことは気にするなって」

「でも気になるんでしょ」


 篠田もまた、俺の考えを察しているらしい。


「とりあえず、空港へ行って理瀬ちゃんと合流しましょうか?」

「……いいのか?」

「私も、普通に心配してます。あの子、お母さんと仲良しなのに急に行けなくなったって、絶対寂しがってるでしょ。普通の子なら旅行自体辞めちゃいますよ。私達でその穴を埋めるのは無理ですけど、一人でホテルに引きこもるよりはマシでしょ」


 そこまで行って、篠田はふっとため息をついた。


「宮本さん、理瀬ちゃんを迎えに行きたくてうずうずしてますもん」

「そ、そうか?」

「まあ、宮本さんが理瀬ちゃんを心配してるのはいつもの事なんで、別にいいですけど」

「すまん……せっかく、二人でゆっくりできると思ったのにな」


 俺が言うと、篠田は意外そうな顔をしていた。


「でも夜はぜったい二人ですよ!」

「わ、わかってるよ」


 篠田がデリカシーのない言葉を大声で言い、周りの客たちがどこかにやついた顔になる。その雰囲気に恥ずかしくなった俺たちは、早々にソーキそばの店を出て、那覇空港へ向かった。


* * *


「なんですかあれ! 超かっこいいですね!」


 理瀬が到着するまでの間、俺と篠田は那覇空港のデッキで飛行機を見ていた。

 那覇空港は自衛隊基地と共用で、旅客機の他にもさまざまな自衛隊機が飛来する。特にF-15戦闘機のタッチアンドゴーは迫力があった。一度滑走路にタッチすると轟音を上げながら急上昇し、あっという間に周辺を一周してまた戻ってくる。

 強い日差しも忘れて飛行機をずっと眺めていると、東京から来た大型の旅客機が着陸した。俺たちは到着ロビーへ向かう。

 夏休みでうかれたカップルや家族連れにまぎれて、一人スマホを触りながら大きなスーツケースを引っ張っている理瀬を見つけ、篠田が声をかけた。

 

「理瀬ちゃん!」

「えっ?」


 理瀬は驚いていた。俺は『空港まで迎えに行くよ』とLINEを送っていたが、そのあと既読はつかなかった。着陸態勢に入ってスマホを切っていたのだろう。


「宮本さんから聞いたよ。お母さん、来れなくなったんでしょ?」

「……はい、そうですけど」

「国際通り行って、水着買お!」

「私は別に一人でも……えっ、水着?」

「そだよ。今日はゆっくりだけど、明日は早起きしてビーチ行くの!」

「わ、私は一人でいいですから、宮本さんと行ってきてくださいよ」

「気にしないで。いつもあんないいマンションに住ませてもらってるんだし、理瀬ちゃんのことほっとけないよ。ホテルは今更変更できないけど、昼間は一緒にいようよ!」

「……」


 理瀬は黙って俺の目を覗き込む。俺は苦笑いしながらうなずいてやった。


「それとも理瀬ちゃん、宮本さんに水着見られるのが恥ずかしい?」

「……べ、別に気にしませんよ」

「じゃあ行こ! あ、その前にちょっとトイレ!」


 篠田が離れて行ったのを確認してから、俺は理瀬と小声で話す。


「お前、大丈夫なのか?」

「……ある程度、予想はしてましたから」


 大丈夫なのか? とだけ聞いて、和枝さんが来なかったことについての質問だと察している。やはり理瀬にとって今回のメインは、和枝さんとの旅行だったらしい。


「でも、本当にいいんですか。私、三日間ホテルでおとなしくしてもいいですよ。宮本さんは篠田さんを大切にしてくださいよ」

「あいつもお前のことはほっとけないってさ」

「そう、ですか……」


 理瀬はちょっと困ったような顔で返事の言葉を探していたが、結局何も言わなかった。この子は賢いから、今まで誰かに心配されたことがあまりなくて、それに対するお礼をうまく言えないのだろうか。俺はなんとなくそう考えた。

 その後はレンタカーに三人で乗り、国際通りへ向かった。沖縄で一番の繁華街である国際通りには、当然水着屋もあった。

 まさか俺が女物の水着屋に入る訳にはいかないので、沖縄名物ルートビアを飲みながら外で待っていた。飲む湿布みたいなジュースだが、なぜか癖になる。かつて千葉だけで売られていたマックスコーヒーみたいなものか。

 篠田がぎゃあぎゃあうるさいので聞こえてきた会話によると、理瀬はさすがにビキニは選ばず、パレオつきの露出度の低いものにしたようだ。俺はこれまでの生活から、引きこもりがちな理瀬が肌を出すところをあまり想像できない。今日もGパンと半袖のTシャツなのだ。

 これは明日の楽しみにしよう。俺が理瀬の水着姿を楽しみにしている、なんて知られたら篠田にぶち殺されそうなものだが。

 その後は国際通りを三人でぶらぶら歩いた。理瀬はクソTシャツがいっぱいある店にはまって、何着も買っていた。篠田といる時の理瀬は、独立心が強くて近寄りがたい普段の雰囲気と違い、普通の女の子に見えた。母親が来なかったというショックも、感じられない。

 夕食はホテルで出るというので、俺と篠田は理瀬をホテルまで送り、自分たちの宿へ向かった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...