【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
48 / 129
第三章 社畜と昔の彼女と素直になるということ

7.社畜昔ばなし ⑥二人の変化

しおりを挟む


 クリスマスのライブから三月まで、俺たちのバンドは一時休止となった。

 ギターとキーボードの代わりが見つからなかったこともある。だが一番の理由は、俺が三月にある合唱部の定期演奏会に集中したい、と申し出たことだった。

 徳島市にある普通科高校は毎年三月末に定期演奏会を開催していた。受験勉強が終わった三年生も合流し、一年の集大成として演奏会をする。

 合唱部だけではなく、同じ高校のオーケストラ部と一緒に開催する。オーケストラ部と合唱部の合同で行うミュージカル・ステージもあり、合唱だけでなく演劇の練習や衣装づくりなど、一年で一番忙しい時期となる。

 ただ単に忙しいから、という理由でバンドを休止した訳ではない。俺は赤坂さんの姿勢から、結局のところストイックに集中しなければ音楽は上手くならない、ということを学んだ。それは大本命である合唱部の活動にも言えて、バンド活動と並行するのは無理だと考えた。

 照子は「どっちでもいい」と言ったが、赤坂さんは「宮本くんがそう考えてるなら仕方ない」と受け入れた。ただし、条件をつけられた。


「次のはななるフェスタのバンドコンテストに、オリジナル曲で出たい」


 今はもう行われていないようだが、『はなはるフェスタ』というGW前に行われる徳島市のお祭りでは、毎年レコード会社の審査員を招いてバンドコンテストが行われていた。正直レベルは低かったのだが、あのチャットモンチーも通った道で、俺たち三人はみんな知っていた。


「オリジナルって、曲はどうするん?」

「照子が書いてくれる」


 赤坂さんが言うと、照子が「へへ」とはにかんだ。


「薬王寺さん、作曲やできるん?」

「ちょっとだけな。恥ずかしいけん、まだ聞かせれんけど」


 俺も赤坂さんに言われて、照子が作曲をしていることは知っていた。でも本人がオープンにしなかったので知らないふりをしていた。

 この時、照子も作曲ができる、と認めた。おそらく俺の知らないところで赤坂さんの猛アプローチがあったのだろう。目標を実現するため、自分にできないところは他人の力を借りる、というところまで真摯に取り組んでいた赤坂さんは本当にすごい。


「三月に定演に終わった後、一ヶ月後にバンドコンテストって、練習間に合うか?」

「宮本くんも照子も、どうせ定演に集中してバンドや頭に入らんだろ。その間にうちが新しいメンバー探して、すぐにでも二人が入れるようなレベルに合わせとく」

「すまん。そうしてくれたら、ほんまに助かる」


 再会を約束して、俺と照子は赤坂さんから離れた。そして定演の練習が始まった。


** *


 先輩たちから聞いていた通り、定演の練習は猛烈に忙しかった。

 テスト前以外、放課後は基本六時まで練習。そのあとにミュージカルの脚本や舞台演出の打ち合わせ。俺はミュージカルに詳しくなかったが、大道具の制作のように男手が必要なところでいつも駆り出された。夜遅くまで友人たちと作業するのは楽しかったので、よかったのだが。

 休日も、朝から夕方まで練習。今思えば社畜もびっくりなハードスケジュールだ。あの頃はとにかく練習すれば上手くなれると思っていた。今は『ブラック部活動』という言葉が取り上げられたこともあり、だいぶ緩くなったらしいが。

 それでも練習が足りない、と思っていた俺のような部員は、休日も夜遅くまで残っていた。

 遅くまで残るメンバーはだいたい固定されていた。主に男子ばかりだが、女子の姿もあった。照子もその一人だった。

 木暮先輩は、合唱部からますます足が遠のいていた。運動部ならともかく、やったところで大した実績にならない合唱部を続けることは、名家である木暮先輩の親が許さなかったらしい。

 この時期になると、オーケストラ部と合唱部では、付き合い始める男女が急増する。

 どちらの部もパートごとに分けられていて、パート間の交流があまりない。しかし定演の時期になると、ミュージカルや演奏会の運営面ではパートの別け隔てなく一緒に行動するので、この時初めて会話する異性も多くいる。

 共同作業での連帯感なのか、あるいは冬の暗い夜に学校で残っている不思議な感触がそうさせるのか、カップルが自然発生するのだ。

 そうなると部活としては微妙な雰囲気になる。せっかく練習をしていたのに、最後はカップル二人が学校に残り、施錠をするという暗黙の了解があった。

 俺と照子は、合唱部の練習が終わった後、いつも二人で残っていた。

 照子が作った曲を、俺に聞かせるためだ。当時はパソコンでの楽曲制作がまだ珍しく(というか照子の家にはパソコンがなかった)、ピアノが必要だった。

 正直、他人が作った曲を評価するなんて、俺にはできないと思っていた。この頃の照子の曲には歌詞がなく、まずは詞をつけてほしい、というお願いだった。

 その気になって聞いてみると、ケチをつけたいところはいくらでも出てきた。

 俺が指摘すると、照子は真面目に聞いた。俺が間違っているところは遠慮なく反論してきた。

 そうして夜遅くに終わると、照子を一人で帰らせる訳にはいかず、家まで送る。

 当然、俺と照子が付き合っているのではないか、という噂が立つ。

 だが照子は木暮先輩と付き合っている。浮気ではないか、と皆疑う。

 俺は全くそう思ってなかった。照子の彼氏はあくまで木暮先輩。残っているのは、バンド活動のため。バンド活動をしていたのは合唱部のメンバーも知っているから、誤解されないはず。

 今から思えばそんな理屈は通らない。普通、気のない男子を相手に、夜遅くまで残ったりしない。もしバンド活動での話し合いが必要だったら、赤坂さんを呼ぶだろう。

 そんな当たり前のことが、当時の俺にはわからなかった。

 二人で遅くまで残っても、俺の照子に対する距離感は変わらなかった。

 だが一度だけ、俺から見て、照子にぐっと近づいた、と確信した瞬間がある。

 定演本番が近づいた頃、俺が当時の悩みを照子に話したのだ。


「俺、来年は部長やろうと思う」


 俺はいろいろ考えた結果、赤坂さんのようなストイックさで音楽に向き合わなければ上手くなれない、つまりコンクールに勝てないと思っていた。

 だから来年からは俺が部長になり、基礎トレを大幅に増やし、練習には絶対参加するよう強く意識づけさせる。そうやって部を改革しよう、という野望があった。

 社畜となり、目の前に流れてくる案件をただ通すだけの、主体性のない今の俺からは考えられないことだ。

 定演が終わった後に、部長を選ぶ選挙がある。俺が立候補することは、誰にも話していない。それを照子にだけ話したのだ。

 一言目を皮切りに、部の改革案をすべて照子に話した。

 照子はうんうん、と頷き、優しく俺の言葉を聞いてくれた。


「ほな、うちが副部長するわ」


 意外な提案だった。

 照子の実力なら、副部長でも申し分ない。ただ、他にも活発な女子がいて、部長候補はみんなそちらに譲るような雰囲気があった。


「味方がおった方がええやろ?」

「まあ、それはな」

「宮本くんのこと手伝いたいけん」


 その言葉だけ、はっきりと、ものすごく純真な目で見つめられたことを今でも覚えている。

 もしかしたらこの子、俺に気があるんじゃないか。

 初めてそんな考えが頭をよぎった。だが俺は、その気持を必死で頭から消そうとした。照子の彼氏は木暮先輩であり、俺ではない。俺が女の子に惚れられる訳がない。調子に乗ったら、痛い目にあうぞ。期待するな。この子は部活とバンドの仲間というだけだ。

 そうやって照子のことを頭から消そうとする時間は、日に日に長くなっていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...