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第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道

3.社畜と陰謀

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「じゃあ、時間がないので簡単に伝えますよ。YAKUOHJIが逮捕されたのは、古川さんが知り合いの警察関連の人に頼んだからです」


 突然、伏見は俺たちが断定できなかったことを明かして、俺と篠田は息を飲んだ。


「間違いないのか?」

「はい。直接古川さん本人から聞きました。あの男は理瀬を陥れようとしている最低の男だから、二度と会うなとも言われました」

「……だったら、何故俺のところに来た?」

「許せなかったからです。宮本さんを攻撃するためにYAKUOHJIに手を出したことが」

「ああ……」


 伏見はレズビアンで、俺が紹介した照子といい仲になっていた。上司である古川を尊敬していたようだが、愛する人に手を出されたら、いくら上司といえども手のひらを返すかもしれない。


「あ、言っときますけど、私が古川さんに大麻のことをたれこんだ訳じゃないですよ。私、大麻のことなんか考えてもいませんでしたし、私とYAKUOHJIが会っている時は、大麻なんか使ってなかったです。たぶん、本当に好奇心で数回手を出しただけだと思います」

「じゃあ、どうやって知ったんだ」

「大麻のことは言いませんでしたが、宮本さんとYAKUOHJIの仲がいいことは、私の最近の交友関係から知ったみたいです。私は自分から古川さんにYAKUOHJIのことなんか言ってないので、たぶん誰かに尾行されてたんだと思います。そこは私のせいだと言われても仕方ないです」

「いや、そもそもは紹介した俺のせいだ。伏見が気にする必要はない。しかし、それで大麻のことなんて、わかるものなのか」

「さあ? そこはわからないですけど、政治の悪いニュースを隠すために、芸能人を都合のいいタイミングで逮捕させて、ニュースにしてるっていう噂もありますし、古川さんクラスなら普段からネタをストックしているかもしれませんね」


 古川ならあり得る。俺や理瀬をことごとく尾行させていた男だ。陰湿なやり方も厭わないタイプだろう。


「でも、とにかく、YAKUOHJIに手を出したことは許しません。大麻の使用自体は許されるものではないですけど、数回の使用だけで逮捕されるってあまり聞かないですし、どう考えても宮本さんに精神的ダメージを与えるためのスラップです。宮本さんが理瀬ちゃんに言い寄っていたのは確かに面倒だったと思いますけど、そこまでする必要ないです」

「いや、そこまでする必要はあったんだよな」


 俺は、伏見にはこれまで言っていなかった、古川の援交疑惑や自宅のペン型盗撮器具のことを説明した。ついでに前田さんの存在も明かした。


「本当ですか、それ……ちょっと、私、真剣に古川さんの事が嫌いになりました」


 ロリコンが好きな女はいない。伏見は、完全に引いていた。

 照子の一件があって、これまで古川寄りだった伏見は、完全にこちらの仲間になった、と見ていいようだ。もっとも、伏見だけで古川に何か仕掛けるのは難しいのだが。


「もうすぐ、前田さんが古川の援交疑惑や自宅の盗撮器具のことを調べて、古川のスキャンダルを出すはずだ。今のところ、俺達はそれを待つしかない。まあ、前田さんと連絡がつかなくなったし、どうなるか全くわからないんだが」

「……あの、宮本さん、一ついいですか」


 俺が言うと、伏見がとても不安そうな顔で聞いてきた。


「何だ?」

「その前田さんっていう人……古川さんのスパイじゃないんですか?」

「えっ?」

「このタイミングで連絡とれなくなったんですよね? もしかしたら、前田さんが宮本さんの動きを逐次古川さんに報告して、陥れるタイミングを見計らってたんじゃないですか」


 その発想はなかった。

 前田さんは、和枝さんの死と残された理瀬のことを思って、俺達に協力していくれているだけだと思っていたが。

 確かに、連絡がつかなくなったタイミングを考えたら、それもあり得る。


「でも、それだと援交疑惑を暴いた理由がわからないですよ」


 篠田が反論した。確かに、古川がわざわざ自分が不利になる事実を差し出すとは思えない。


「援交なんて嘘なんじゃないですか。宮本さんを怒らせるためにちょうどいい証拠をでっち上げたとか。もしくは、理瀬ちゃんのお母さんが押さえていた事実だから、いずれバレると思ってこのタイミングで出したとか」

「うーん、私ならどうにかして援交の証拠を隠し通すようにしますけど」


 伏見と篠田が論戦をするも、結論は出ない。俺自身、前田さんが敵か味方か、よくわからなくなってきた。


「まあでも、理瀬ちゃんが盗撮器具の存在に気づいた時点で前田さんが姿を消したの、怪しすぎですね」


 篠田は伏見の意見に懐疑的だったが、最終的に怪しいと認めたようだ。


「連絡がとれない以上、前田さんは敵かもしれない、と考えて動くしかないな」


 俺も、とりあえず伏見の説には一理ある、と考え、否定はしなかった。


「で、これから宮本さんはどうするんですか」


 伏見が問いかける。前田さんが敵だという説が出て、俺はさらに不利となった。理瀬が俺のところへ人目をかいくぐって会いに来たりしなければ、俺にできる事はない。


「うーむ……」

「ああ、ごめんなさい。脳梗塞で倒れた後なんですよね。今はちょっと休んだ方がいいと思います。この先のことはゆっくり考えてください。ただ、私のやりたい事は決まっています」

「何だ?」

「古川さんに、YAKUOHJIを陥れた罰を受けさせたいです」


 伏見からは、強い意思が感じられた。自分はどうなってもいいから古川に復讐したい。かつて俺が理瀬に対して抱いていた気持ちを、伏見は照子に感じているのだ。


「……わかった。協力できるかはわからないが、俺も何か考えておくよ」
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