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四章 王の影
四章十二話 『探し人おらず』
しおりを挟む独自に会議を済ませたルーク達は、一旦トワイルと合流して自分達は別で姫を探すと伝えた。特にダメだと言われる事はなかったが、姫が脱走した事は内密にとの事らしい。
まぁ、そちらに関しては他言するつもりもなかったので問題はない。
騎士団のメンバーと別れ、ティアニーズの案内の元に三人は一旦城下町へと下りていた。
外に出られたら捕まえるのはほぼ不可能。なので、勝負は王都内で決着をつけなければならない。のだが、
「路地裏って、沢山ありますよ?」
「しらみ潰しに行くしかねぇだろ。目撃者を探すって手段がとれねぇんだ、足使って探すしかねぇよ」
「先に東門へ回り込むのはどうですか?」
「普通に考えてみろ。城から脱走したあとは王都から抜け出す、そんなの誰だって思いつくだろ。門の方は今さら行ったっておせぇよ。どーせ騎士団が先に警備をつけてる」
「……そうですよね。仕方ありません、私達は地道に探しましょう」
「ルーク、おんぶ」
「黙ってついて来い。それが嫌なら城に戻ってろ」
中身は精霊だが、見た目は普通の少女だ。王都についてからずっと歩きっぱなしだったため、ソラの足腰は限界を迎えているのだろう。
しかし、この少女はそうでなくてもおんぶを要求する。
ここで甘やかす事は後々に響く事を意味する。
両手を伸ばして迫るソラの額に掌を押し付け、腕をつっかい棒にして阻止。
腕が短いソラではルークの体に届かず、断念したように舌を鳴らした。
「とりあえず適当な道に入りましょう。時間的にも、そこまで遠くへは行ってないでしょうし」
「そう願うしかねぇか。それか、チンピラに絡まれて足止めくらってるか」
「変な事言わないで下さい。もしもの事があったら、私達の首が飛びますよ」
「そんなの知らん。俺は一人で逃げるから」
いざという時のために、逃げる準備はいつでも出来ている。逃げに関しては、騎士団でもルークには敵わないだろう。
そんなのは争う事ではないし、そもそも自慢にすらならないのだが。
とりあえず適当な路地に入り込み、三人は姫を探しを本格的に開始。
一本道をズレただけなのに、先ほどまで喧騒が嘘のように静まり返っていた。これならば、姫は一人でもバレずに門へとたどり着く事も出来るだろう。
「んで、見つけたとして連れ戻す事出来んのか? 抜け出すような奴だぞ、潔くついて来るとは思えねぇんだけど」
「強引な手段も多少なら仕方ありません。いざとなれば、信号弾を打ち上げて応援を呼びますから」
「ま、最悪ぶん殴って気絶させてからでも良いって事だよな」
「そこまでやるとは言ってません。引きずって帰るくらいです」
「姫さん引きずるってどういう状況なのよそれ」
「無駄口を叩いている暇があるなら、辺りをちゃんと見渡せ。確か、黄色のドレスだったか?」
探すと言っても、歩いて回るくらいの事しか出来ない。目立つドレスを着ているので一目見れば分かる筈なのだが、そう簡単に見つかるほど甘くはないだろう。
根気と粘り強さ、その両方を持ち合わせていなければ人探しなど出来はしない。
当然、この男は自分のためにしかそれを発揮しないので、
「……腹減ったな、ちょっと通りに出てなんか食べねぇ?」
「飽きるのが早いですよ、食べるにしても姫様を見つけてからです」
「ティアニーズ、私も腹が減ったぞ。先ほどから空腹を告げる腹の音が止まらない」
「……あの、知ってはいましたけど、もう少しだけやる気を出してもらえませんか?」
ティアニーズの言う事はもっともだが、これに関しては飽きてしまうのも仕方ない。
これまでにも人を探すという事はあったが、それはあくまでも対象がどこへ行っているのか知っている状態での人探しだ。
今回はそれもなく、王都という広大な土地での行動なのだ。
ルークとソラが飽き性で面倒くさがりというのもあるけれど、あてのない人探しほど苦痛なものはないだろう。
やさぐれている二人に呆れた目を向け、
「なにか食べたらやる気を出してくれるんですね?」
「おう」
「当然だ」
「本当の本当に本当ですね?」
「しつけーな、やるって言ってんだろ。腹が減ってはなんとやらって言うだろ」
「ルークさんのこれまでの行動を考えると、食べた程度ではやる気がわかない事くらい目に見えてます」
軽く失礼な発言をしているけれど、全て事実である。
とはいえ、食べ物を与えなければやる気以前の問題なので、ティアニーズは肩を落として息をこぼし、ポケットから財布を取り出して中身を確認。
「分かりました、一旦食事にしましょう」
「よーし、んじゃ肉食おーぜ」
「それは良い考えだ。ティアニーズのアップルパイも良かったが、やはり空腹を満たすには重い物を食べなければな」
「私の話を聞いて下さい!」
ティアニーズが受け入れるのを見るなり、二人は早速通りへ出ようと歩き出す。が、ティアニーズは二人の肩を掴んで阻止し、元の場所に引き戻す。そして逃げられないようにしっかりと掴み、
「買い出しには私一人で行きます、店は直ぐそこなので。あと、お肉ではなくパンを買って来ます」
「えー、肉が食いてぇよ」
「にくーにくー」
「パンを買って来ます!」
子供のように駄々をこねる二人を一喝し、強制的に食事をパンに決めるティアニーズ。店でゆっくり休みながら食べるなんてこんたんは通用しないようだ。
ただ、なにも食べられないよりはマシなので、不満を混じらせながら、
「わーったよ、パンで良いから」
「最初からそう言って下さい。それと、お二人はここで待っていて下さいね。離れている間に、姫様がここを通らないとも限らないので」
「私は座りたいぞ」
「待って、いて、下さい、ね!」
鼻から息を噴射し、ヒラヒラと財布を見せびらかす。当然、ルークとソラは所持金ゼロなので、食事にありつけるかどうかはティアニーズの機嫌次第なのである。
財布を見せられればなにも言えず、ソラは唇を尖らせながら『分かった』と呟いた。
「良いですか、私が戻ってくるまで大人しく待っていて下さいね」
「へいへい、ちゃんとここで待たせて頂きますよ」
「絶対ですよ! ルークさんは前科があるんですからね」
「しつけーよ、分かったから。とっとと行ってパン買って来いや」
「……もう、本当に分かってるんですか」
今の発言だけ聞けばパシりを強要しているようだが、実際の立場はティアニーズの方が上である。
適当な相づちをうつルークが気に入らない様子だが、ティアニーズは諦めたように手を離した。
「そんじゃ行って来い、見張りやってっからよ」
「出来れば肉の入ったパンが食べたぞ」
「……行って来ます。買うパンは私の独断で決めるので、文句は一切受け付けませんからね」
最後まで不安しか残らなかったようだが、ティアニーズはとぼとぼと足取りのおぼつかない様子で、大通りの方へと歩いて行った。
その背中を見送り、ソラは顔だけルークに向けると、
「ルーク」
「おんぶっつったら全力で頭叩くからな」
「……ただ呼んでみただけだバカもの」
「当てられたからって悪口言うんじゃねぇよアホ」
バカという言葉に反応し、ルークもすかさず子供じみた反論を口にする。『ただ呼んでみただけ』という発言だけ聞けば恋人同士のようだが、この二人がそんな関係になる事は今現在絶対にありえないだろう。
「しゃーねぇ、アイツの言う通りにここで待つしかねぇか」
「まったく、勝手に逃げ出すなど面倒な事をしてくれる姫様だ」
「本当だよ。つか、お前って前の王に会った事ねぇの?」
「恐らくあるだろうな、だからこそ精霊の存在を知っていたのだろう。記憶にはないが、もしかしたら幼い頃の今の王にも会った事があるかもしれん」
適当に辺りを見渡し、無造作に置かれていた木箱を起こすと、その上に腰を下ろす。尻になにか刺さってチクチクするが、立っているよりかマシだろう。
ソラはルークの前に立ち、壁に背を預けてたたずむ。
「おい、もしかしてまだ話してねぇ事とかねぇよな? 魔元帥に関する事とか」
「ない、少なくとも今はな。これから思い出す事もあるかもしれんが、私の覚えている範疇ではこれが全てだ」
「なら、思い出したらその度に早く言え。聞かれてねぇからとかは無しだ」
「分かっている、私としても早く記憶を取り戻したいしな。貴様もその手助けをしてくれ」
「頭ぶん殴ったら思い出すんじゃね?」
「貴様の腕に噛みついて引き千切ってやる」
「冗談だっての…………ん?」
ルークにしてもソラにしても、今の発言はどちらも冗談ではないだろう。
苦笑いを浮かべながら、なんとなく顔を逸らした時、路地の先になにか黄色い影が走りに抜けて行った。
路地の先を凝視するルークに気付き、ソラもそちらへと目を向けて、
「どうした、なにかあったのか? 美女か? 私というものがありながら目移りとは」
「うるせぇよ、今なんか通らなかったか? 黄色いなんか」
「黄色い? 知らんな、私は見ていないぞ」
「うし、見に行くぞ。姫さんかもしれねぇし」
「良いのか? 居なくなっていたらティアニーズがなんと言うか分かったもんじゃないぞ」
立ち上がり、尻についたチクチクを払うルーク。
確かに、ティアニーズが戻った時に行方不明になっていた場合、間違いなく激怒して襲いかかって来るだろう。しかし、
「ちょっと見に行くだけだっての。なんならお前がここで待ってりゃ良い」
「貴様が行くなら私も行くぞ。こんなところに私を残してみろ、肉に餓えた男どもが寄って来るに違いない」
「へいへい、さっさと食われちまえ」
危機感のなさ、自分は迷子にならないとう自信、そして戻って来れるだろうという安易な考え。何一つ根拠などないけれど、こういう時の勘だけはいつだって冴えている。
なので、ティアニーズが戻ってくるまでに戻る、もしくは姫を捕まえれば問題ないと結論を下し、座っていた木箱を破壊してて二人は路地へと足を進めた。
一応、破壊した木箱の欠片をバラ巻きながら歩いてはいるが、正直効果はそれほど期待出来ないだろう。何故なら、元々ゴミが散乱しているのだから。
突き当たりを曲がり、真っ直ぐに進み、そしてまた曲がる。と、その時、
「キャッ」
「うおっ」
角を曲がった瞬間、ルークの胸になにが飛び込んで来た。驚いたように声を上げ、そのまま弾かれるようにして尻餅をつく。
人だという事は直ぐに分かり、文句を言おうと倒れた人を見下ろし、
「ッたく、ちゃんと前見て歩けよな……って、お前」
「す、すみません……あ、ルーク、さん?」
見覚えのある顔に、ルークは眉間にシワを寄せて少女の顔を見つめる。少女の方もルークの事を覚えていたらしく、睨みをきかせている顔を見て、ほんの少しだけ怯えたように声を漏らした。
そう、ぶつかった少女こそが姫様。
ルーク達が探していた、エリミアスその人なのであった。
ルークは手を差し出し、
「ようやっと見つけたぞ、勝手に城抜け出しやがって」
「え、何故それをルークさんがご存知なのですか?」
「お前のとーちゃんから聞いたんだよ。騎士団が今探し回ってる。んで、俺もそれを手伝わされてんの」
「そ、そうだったのですか……。すみません、ご迷惑をおかけしてしまい……」
ルークの手を握り、エリミアスはドレスについた汚れを払いながら立ち上がる。
ソラはルークの後ろから顔を覗かせ、王が言っていた特徴と、目の前の少女の特徴が合致している事に気付き、
「まさか、その女が姫なのか?」
「おう、エリミアスって名前だろ?」
「はい、エリミアス・レイ・アスト。この国の王である、バシレ・レイ・アストの娘です」
「らしいぞ、名前長くて覚えてらんねーけど」
「貴様の運は良く分からんな……まぁ、名前なんぞどうだって良い。見つかったのなら早く連れ帰るぞ」
ソラはルークの悪運に驚いたような表情をしたが、直ぐ様切り替えてエリミアスを連れて帰るよう提案。
ルークは握った手を離さず、そのまま引きずってでも城に連れ帰ろうとするが、
「ま、待って下さい! 今はダメなのです」
「往生際がわりぃぞ、見つかったんだから大人しくついて来い」
「城へは帰ります……ですが……」
言いかけて、路地に足音が響いた。その足音は段々とルーク達に近付いて来ている。
路地の先、音のなる方へと三人は目を向けた。
すると、一人の若者が曲がり角から姿を現す。
赤い髪に赤い瞳、ルークの見知った顔ーーウルスだった。
「ん? よォ、ルークじゃねぇか。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「おま、なんでここに居るんだよ」
ルークを見るなり、ウルスは目を見開いて駆け寄って来る。が、側に居たエリミアスを見てその足を止めた。
そこでルークは気付いた。
エリミアスの肩が、恐怖によって震えている事に。
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