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第8章 マッチングアプリ

うまくいくように

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*   *    *


 ケビンは一人、自分の部屋でベッドに仰向けで寝転がりながら、天井にマップの画面を開いていた。

 自分の婚活用のプロフィールと顔の画像の下に、「マップフレンドに登録しますか?」と書かれたボタンが表示されている。

 長い指で、そっとボタンが浮かんでいる空間を押す。

 するとキラキラと星が輝くモーションが流れ、マップ上に自分の緑のハートマークが浮かんだ。

 ふう、とケビンが息をつき、マップを消そうとしたら、


 ピピピピ、ピピピピ。


 マップ上で、早速ケビンにコールをする女性がいた。


『初めまして、レイラと言います』


 電話ではなく、メッセージが送られてきたようだ。

 見た目も可愛らしく、住んでいるところも近い女性なので、ケビンは勇気を出し、


『俺はケビンだ。コールしてくれてありがとう』


 とメッセージを返した。
 ぽんぽんと会話は続き、最後にはぜひ会いたいと相手から誘ってきてくれた。


『では明日12時、レストランにて』


 メッセージをレイラに送り、うまくいくか心配そうにケビンは前髪をかき上げた。



*   *   *


 
 夜が明け、次の朝。

「……よし」
 
 鏡の前で身支度をするケビン。髪を整え、シャツの襟を正す。

 眼帯をしている自分の左目を軽く撫で、コンプレックスを克服しなければ、と鏡の自分を見つめる。

『辛かったケビンさんの心に寄り添いたいのです。
 次素敵だと思う女性がいたら、伝えてあげてください』

 昨日のアリサの真剣な言葉が頭に浮かぶ。眼帯をした左目を押さえて、頷いた。



 今日はギルドは休みの日なので、ゆっくり寝たアリサがベッドから起き伸びをする。

 アンティーク家具の揃った、日当たりの良い広い部屋。

 可愛い部屋着のワンピースを着て、バゲットとハムエッグを作り、紅茶を優雅に飲む。


<アリサ所持金 100万フィル>


 結婚相談所の経営がうまくいっているため、少しずつ生活のグレードが上がっているのを感じている。

 夜帰りに半額の野菜を買い込むのではなく、少しおしゃれなベーカリーでパンとチーズを買えるほどになった。

(相談所の運営も順調。
 婚活アドバイザーとして、会員様達がどんどん幸せになり退会していくのは嬉しいな。
 あとはケビンさんとルビオ王子にいいお相手ができれば……)

 食事が終わり、紅茶のカップに口をつけながら考えるアリサ。

 そんな優雅なブランチ中に、ピピピピ、とコール音が響いた。


「あら噂をすれば……ケビンさんだわ」


 マップを表示すると、自宅にいるらしいケビンからコールがかかってきていた。


「おはようございますケビンさん。
 どうしました?」

『おはよう。休日にすまないな』


 いつもと変わらないケビンの低い声が頭の中に響く。


『……マップフレンドを始めて、今からデートに行ってくる。
 君に言われたことを、心に留めておくよ』


 おお、とアリサは驚く。


(初めてすぐにデートを取り付けることができたのね。さすがイケメンは早いわ。
 あとは、ケビンさんが自分のコンプレックスを払拭するだけよ……!)

 彼も少し不安な気持ちがあるからコールしてきたのだろう。
 そういう人の背中を押してあげるのも、婚活アドバイザーの仕事だ。


「ええ、素敵な相手に出会えるように、応援してますからね!」

『ああ、ありがとう。じゃあな』

 コールは切れ、ほっと息をつく。

 紅茶を飲みながら、ケビンがうまく行くようにアリサは願った。
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