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第4章 今夜処刑台にて
牢獄の中で
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* * *
三年前、元ハーディス王国護衛隊長兼騎士団団長であったリーフェンシュタールが作ったこの軍事国家は、急ごしらえで兵を集めたせいで、国家としては酷くいびつだった。
商店街や娯楽の場所などはほとんどなく、剣を鍛える鍛冶場や、鍛錬をする闘技場、あとは酒場ばかりが軒を連ねている。
元々所帯を持っていて移住してきた騎士の家族ならいるが、女子供の姿が極端に少ない。
岩場の多い大陸南部は、作物が生えにくく、天候も変わりやすい。
人が住みにくいその場所は、よっぽど変わり者ではないと暮らす場所に選びはしないと言われている。
軍事国家なため城などは無く、白い壁で囲まれた、軍議所と呼ばれる建物が町の中心に建っている。
まさに、兵を集め敵国を攻め入る訓練をさせるためだけに作られた、特殊な国である。
軍議所の横に併設されている、鉄格子の牢屋の前で、若い騎士二人が見張りをしながら話していた。
「―――結局、将軍は今回の奇襲を見送ったらしいぞ」
片方の騎士が、忌々しそうにもう一人に話しかけた。
「あの五連大砲使われたらひとたまりもないからな」
「くそ、将軍の完璧な計画だったというのに、こいつのせいでまた振り出しだ」
見張りの男達は、鉄格子の中に入れられた男を振り返る。
本当にこんな男が、あれほどの数の騎馬隊を倒したというのかいささか疑問だが。
生き残った者達は口々に言っていた。
「あれは化け物だ―――」、と。
騎士達はうなだれている牢の中の男に向かって唾を吐きかけた。
しかし、男は何も反応せず、まるでそのまま死んでいるかのように座り込んでいる。
気味が悪くなったのか、騎士達は鼻を鳴らすと、また各々不平を口にしだす。
黒髪は泥に汚れていて、そのこめかみからは血が流れ、乾いた塊が頬に張り付いている。
両腕には鉄の手錠がはめられており、自由に動くことさえできない。
どこからかやってきた鼠が、力無く投げ出された足の近くを走りまわる。
牢の中は陰惨な腐臭で満ちていて、端の方には人骨と思わしきものが転がっていた。
青銅の蝋燭立ては思った。
これで良かったのだと。
目を閉じると、瞼の裏には丘の上にそびえ立つ宮廷。
その玉座に座る銀の瞳の王。周りを取り囲むカティ達。
その表情は生き生きとしている。
浅い眠りでは未来を見る事は困難だったが、それでも、リーフェンシュタールは軍を引いたと言っていた。これで良かったのだ。
自分は使命を全うした。その事に、誇らしささえ感じていた。
絶えず雪が降り注ぎ、白く冷たく悲しい山奥で、意味も無く生を受けた自分。
来る日も来る日も空を見上げていた。
厚い雲で覆われた中白い息を吐き、剣を手に漠然と生きていた自分が、初めて意味があることが出来たのだ。
何よりも眩しくて、輝く存在を守ることが出来たのだ。
三年前、元ハーディス王国護衛隊長兼騎士団団長であったリーフェンシュタールが作ったこの軍事国家は、急ごしらえで兵を集めたせいで、国家としては酷くいびつだった。
商店街や娯楽の場所などはほとんどなく、剣を鍛える鍛冶場や、鍛錬をする闘技場、あとは酒場ばかりが軒を連ねている。
元々所帯を持っていて移住してきた騎士の家族ならいるが、女子供の姿が極端に少ない。
岩場の多い大陸南部は、作物が生えにくく、天候も変わりやすい。
人が住みにくいその場所は、よっぽど変わり者ではないと暮らす場所に選びはしないと言われている。
軍事国家なため城などは無く、白い壁で囲まれた、軍議所と呼ばれる建物が町の中心に建っている。
まさに、兵を集め敵国を攻め入る訓練をさせるためだけに作られた、特殊な国である。
軍議所の横に併設されている、鉄格子の牢屋の前で、若い騎士二人が見張りをしながら話していた。
「―――結局、将軍は今回の奇襲を見送ったらしいぞ」
片方の騎士が、忌々しそうにもう一人に話しかけた。
「あの五連大砲使われたらひとたまりもないからな」
「くそ、将軍の完璧な計画だったというのに、こいつのせいでまた振り出しだ」
見張りの男達は、鉄格子の中に入れられた男を振り返る。
本当にこんな男が、あれほどの数の騎馬隊を倒したというのかいささか疑問だが。
生き残った者達は口々に言っていた。
「あれは化け物だ―――」、と。
騎士達はうなだれている牢の中の男に向かって唾を吐きかけた。
しかし、男は何も反応せず、まるでそのまま死んでいるかのように座り込んでいる。
気味が悪くなったのか、騎士達は鼻を鳴らすと、また各々不平を口にしだす。
黒髪は泥に汚れていて、そのこめかみからは血が流れ、乾いた塊が頬に張り付いている。
両腕には鉄の手錠がはめられており、自由に動くことさえできない。
どこからかやってきた鼠が、力無く投げ出された足の近くを走りまわる。
牢の中は陰惨な腐臭で満ちていて、端の方には人骨と思わしきものが転がっていた。
青銅の蝋燭立ては思った。
これで良かったのだと。
目を閉じると、瞼の裏には丘の上にそびえ立つ宮廷。
その玉座に座る銀の瞳の王。周りを取り囲むカティ達。
その表情は生き生きとしている。
浅い眠りでは未来を見る事は困難だったが、それでも、リーフェンシュタールは軍を引いたと言っていた。これで良かったのだ。
自分は使命を全うした。その事に、誇らしささえ感じていた。
絶えず雪が降り注ぎ、白く冷たく悲しい山奥で、意味も無く生を受けた自分。
来る日も来る日も空を見上げていた。
厚い雲で覆われた中白い息を吐き、剣を手に漠然と生きていた自分が、初めて意味があることが出来たのだ。
何よりも眩しくて、輝く存在を守ることが出来たのだ。
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