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第二章
第一話
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お試しアルバイトは無事に三日目を迎えた。
従業員の休憩用和室は、客室と違わぬ位に雰囲気があり、気分はほぼほぼ旅行である。
その場所で立派な焼き魚を食べながら、おひつから出す美味しいご飯を頬張る。
温泉入り放題であるだけでも、大分贅沢でしかなかったのに、夕食は板前さんの作った賄い付きだ。
ご飯も豪華で美味しいなんて、何か知らないうちに俺は徳を積んでいたのだろうか。
住み家だって社員寮と言いつつも、場所的には旅館の離れの位置にある。まるで旅館に住んでいるみたいだ。
更には雇い主が、俺好みの美人のΩとまできた。
「………こんな都合の良い仕事あっていいのか………??」
思わず本音が漏れた俺に対して、操さんが鈴を転がしたような声で笑う。
「大丈夫ー♡あっていい♡あっていい♡あとご飯はおかわりあるよぉー♡
ってか虎ちゃんお風呂掃除きつくなかったぁ??体力ないとあれが辛いって皆言うんだよねぇ……」
「きつくないですよ。俺体力は割と自信ありますから………」
嘉生館の温泉はちゃんと温泉法に則り、毎日のお湯の入れ替えと、清掃の義務を守っている。
温泉の広さと源泉の濃さ。全てを考えると、確かに掃除にとても体力を使うものだ。
掃除は本当に大変だった。俺も体力がなかったら、音を上げていたかもしれない。
けれどこの仕事の福利厚生が、それ以上に遥かに大きかったのだ。
「わぁー!!本当に頼もしいー!!マジでさ、皆続かない理由体力なんだよねぇ……。
虎ちゃんが良かったらだけど………ウチで長期で働いてくれませんか?虎ちゃんいてくれると頼もしいなーなんて……」
こんな都合のいい職場に、長期で勤めて良いんですか………!!!
そう言いながら上目遣いで、俺を見上げる操さんは、最早神としか思えない。
今の今まで俺が体力を蓄えてきたものは、気にいらない連中相手の喧嘩だ。先日まで不良をしてきた自分を恥に恥じていた筈だ。
それなのに今日の思考では、お陰で体力を蓄えられて、本当に良かったとさえ思っていた。
人間は単純だ。と、いうか俺が単純である。
「……喜んで!!」
俺がそう返事を返せば、操さんは嬉しそうに目を細める。
そして悪戯っぽい笑みを溢して、俺の目の前で食事を進めていく。白魚の様な手で箸を持ち、魚を丁寧に解す。
食事の際の一口一口で、操さんの表情がコロコロと変わる。そんな様子を見ながら心から思う。
何この人、滅茶苦茶可愛すぎてしんどいんだけど…………!!!
心の中ではのたうち回っているけれど、それを噯にも出さない様に細心の注意を払う。
操さんは美しい。それに魅力的だし、更にはとても可愛らしい。こんな素敵なΩに、番が居ない筈がないと思う。
まず、番がいるのではないかと思った理由は、操さんから一切Ωのフェロモンの香りがしたことが無いからだ。
ラットになる程ではないけれど、Ωの人からは通常でも微量のフェロモンを感じる事がある。
それは主に体臭に現れ、仄かな甘い匂いが一瞬香る程度は、普段からよくある事なのだ。
けれど最近の抑制剤はとても有能で、普段から分泌されるフェロモンの匂いさえ遮断する。
昼間の仕事に就いているΩの殆どは、規則を守った抑制剤の使用をしているか、既に番がいるかだ。
番契約を結んだΩは、フェロモンの香りが番のαにだけしかしなくなる。
Ωの就労に対して気を付けて国が重視している事といえば、ヒート時にαを混乱させない事だと思う。
ヒートになってしまったΩが、その発情フェロモンでαを惑わし、ラットにさせて混乱に導く。
確かにヒートのΩに中てられると大変ではあるけれど、Ωを襲うかどうかに関しては、最早人格の問題な気がする。
俺はヒートのΩに中てられた事はあるけれど、それでΩを犯した事は無い。
というか俺は、Ωの人と恋愛をしたこと自体が無いのだ。基本的に付き合ってきた人たちはβだ。
それ位にΩの絶対数は少ないものだと思う。
操さんは男性という性別ではあるものの、それが全く気にならない程に美しい。
仕事と関係のないところで出会っていたら、すぐアタックしていたと心から思う。
流石にこの人は俺の雇い主であり、上司である。番の有無に関してなんて、普段から聞きづらい事だ。更に上司になってしまえば、早々聞ける筈がない。同級生だったとしても、細心の注意を払うだろう。
でも操さんに番のαがいて、フェロモンの香りを独り占めしているとしたら、もの凄く羨ましいなと心から思う。
食事を食べる操さんを見つめながら、フェロモンの香りはどんなだろうと思いを馳せる。
花の様な香りがするのか、砂糖菓子の様な甘い匂いなのか、想像ばかりが膨れ上がった。
こんな事を想像する段階で、失礼な事は解っているけれど、想像せずにはいられない。俺はこの時に、自らの思春期を噛み締めていた。
操さんは自分の指についたご飯粒を、唇で噛む様に取り、俺の方を見て首を傾げる。
そして俺に、不思議そうな表情を浮かべ問いかけた。
「ねぇねぇ虎ちゃん、随分静かだけどどうしたのぉ??なんか滅茶苦茶複雑な顔してない??
もしかしてホームシック??」
「え!?!?いや!?!?違います!!!全然!!!俺みたいな人間で良いのかなって!!!光栄すぎて!!!
俺、柄も悪いですし、口もぶっきらぼうだし、足手纏いにならないと良いなって……!!!」
操さんの声に我に返り、慌てて振る舞いを取り繕う。
操さんは焦って言った俺の言葉を、鈴を転がした様な何時もの笑い声で吹き飛ばした。
「あっは……!!全然邪魔になんてならないからぁ!!まぁヤンチャしてた頃あるんだろうなー位は想像してますけどぉー??………結構喧嘩の怪我あるよねぇ??虎ちゃん」
ぎくり。
思わず図星を突かれて固まれば、操さんは意味深な笑みを浮かべる。
操さんは思っていたよりずっとずっと目敏かった事を、この時に気が付いた。
確かに俺の身体には喧嘩で付いた傷痕があるし、別に隠しているつもりはない。
けれど、喧嘩の傷痕と断定迄されて、言葉に出されたのは初めてだ。
口元から八重歯を覗かせて、操さんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。すると操さんは意外な言葉を口にした。
「まー、俺だってチョットだけヤンチャとかしてた事あるから、気持ちわかるなぁなんて………!!!」
「えっ!?!?操さんがヤンチャ!?!?」
操さんがヤンチャをしている所の想像を、俺は一切出来ない。
そんな抱きしめたら折れそうな腕や身体で、喧嘩なんてしたりするんだろうか。
妄想が頭の中をグルグル駆け巡る俺を横目に、操さんは含みのある笑みを浮かべて口元を押さえる。
「そー……ヤンチャ。たっくさん悪い事したし、親だって泣かせたと思うもん……」
操さんの口ぶりから、確かに悪い事をしていたであろうことが伺える。
けれど操さんがヤンチャするイメージが、俺には一切出来ないでいた。
「………意外です。想像つかないですね………」
「だよねぇー♡まあ、ヤンチャにだっていろんな形がありますしぃ??」
操さんはそう言いながら、食べ終えた食器を片付ける。
使っていた御膳台ごと持ち上げて立つと、俺の方に振り返り微笑んだ。
「まぁ、俺には虎ちゃんのヤンチャ位、ぜーんぜん許容範囲ってコト♡だからこれから宜しくねぇ??」
操さんがそう言いながら和室から出て、優しく襖を閉める。
この瞬間に俺は神様に、人生全てを許された様な気持ちになっていた。
だだっ広い和室に一人残された俺は、誰も居ないのを良いことに呟く。
「………本当、好きだわ………」
気持ちが抑えきれない位に人を好きになった事なんて、今だ嘗てない。
今までの俺の恋は、好きをくれる人に好きを返してきただけだ。
自分から狂おしく人を好きになった事は無い。でも大切にしてきたし、浮気をしたことは勿論ない。
だけど別れる間際に言われる言葉は、何時も同じだ。
『真面目で優しすぎて、貴方との恋はつまらない』
何時だって真摯に向かい合ってきたけれど、どれもこれも上手く続かない。
恋に真面目になるのは良い事なのにおかしいなと、何時も思うのだ。
自分から求めた恋ではなかったからこそ、その言葉を躱してこれた。
自分から好きになった人には、この言葉を言われたくないと心から思う。
俺は嫌な事を思い出し、ほんの少しだけ暗くなっていた。
けれど今日は、仕事が決まっておめでたい夜の筈なのだ。
「………よし………風呂いこう………」
頭を切り替えた俺は、残りの食事を一気に掻っ込み食べ終える。
そして空の食器の乗った御膳台を手にして、操さんに続き立ち上がった。
社員寮に繋がる渡り廊下は、厨房のすぐ近くにある。食器を片付けて、そのまま湯浴みの荷物を取りに行こう。
この後は温泉に浸かってゆっくり休もう。きっと明日から更に忙しくなるに違いないと思うのだ。
この時の俺は、やる気と希望に満ち溢れてていた。
***
社員寮から湯浴みの道具を手にして、温泉に向かって歩いてゆく。
温泉と社員寮を繋げる渡り廊下には、一切灯りが灯ってない。
正直その真っ暗闇は、幽霊が出そうな雰囲気を醸し出している。
俺は不良として名を馳せてきたつもりだが、幽霊やお化けの類は怖い。得体の知れないものは苦手だ。
ぶっちゃけ、この渡り廊下を歩いている今、滅茶苦茶怖いと思ってる。
真っ暗な中を歩いていると、背後からパタパタと何か物音が聞こえた。
けれどその物音は、俺が足を止めると止まるのだ。そして歩き出すとまた響く。
えっ、待って?何?滅茶苦茶怖いんだけど!?!?!?雰囲気が幽霊出ますって感じじゃねえか!?!?!?
恐る恐る携帯電話のライトを付けて、背後にそれを向ける。
俺の真後ろには、全く同じ顔をした二人の子供が立っていた。
従業員の休憩用和室は、客室と違わぬ位に雰囲気があり、気分はほぼほぼ旅行である。
その場所で立派な焼き魚を食べながら、おひつから出す美味しいご飯を頬張る。
温泉入り放題であるだけでも、大分贅沢でしかなかったのに、夕食は板前さんの作った賄い付きだ。
ご飯も豪華で美味しいなんて、何か知らないうちに俺は徳を積んでいたのだろうか。
住み家だって社員寮と言いつつも、場所的には旅館の離れの位置にある。まるで旅館に住んでいるみたいだ。
更には雇い主が、俺好みの美人のΩとまできた。
「………こんな都合の良い仕事あっていいのか………??」
思わず本音が漏れた俺に対して、操さんが鈴を転がしたような声で笑う。
「大丈夫ー♡あっていい♡あっていい♡あとご飯はおかわりあるよぉー♡
ってか虎ちゃんお風呂掃除きつくなかったぁ??体力ないとあれが辛いって皆言うんだよねぇ……」
「きつくないですよ。俺体力は割と自信ありますから………」
嘉生館の温泉はちゃんと温泉法に則り、毎日のお湯の入れ替えと、清掃の義務を守っている。
温泉の広さと源泉の濃さ。全てを考えると、確かに掃除にとても体力を使うものだ。
掃除は本当に大変だった。俺も体力がなかったら、音を上げていたかもしれない。
けれどこの仕事の福利厚生が、それ以上に遥かに大きかったのだ。
「わぁー!!本当に頼もしいー!!マジでさ、皆続かない理由体力なんだよねぇ……。
虎ちゃんが良かったらだけど………ウチで長期で働いてくれませんか?虎ちゃんいてくれると頼もしいなーなんて……」
こんな都合のいい職場に、長期で勤めて良いんですか………!!!
そう言いながら上目遣いで、俺を見上げる操さんは、最早神としか思えない。
今の今まで俺が体力を蓄えてきたものは、気にいらない連中相手の喧嘩だ。先日まで不良をしてきた自分を恥に恥じていた筈だ。
それなのに今日の思考では、お陰で体力を蓄えられて、本当に良かったとさえ思っていた。
人間は単純だ。と、いうか俺が単純である。
「……喜んで!!」
俺がそう返事を返せば、操さんは嬉しそうに目を細める。
そして悪戯っぽい笑みを溢して、俺の目の前で食事を進めていく。白魚の様な手で箸を持ち、魚を丁寧に解す。
食事の際の一口一口で、操さんの表情がコロコロと変わる。そんな様子を見ながら心から思う。
何この人、滅茶苦茶可愛すぎてしんどいんだけど…………!!!
心の中ではのたうち回っているけれど、それを噯にも出さない様に細心の注意を払う。
操さんは美しい。それに魅力的だし、更にはとても可愛らしい。こんな素敵なΩに、番が居ない筈がないと思う。
まず、番がいるのではないかと思った理由は、操さんから一切Ωのフェロモンの香りがしたことが無いからだ。
ラットになる程ではないけれど、Ωの人からは通常でも微量のフェロモンを感じる事がある。
それは主に体臭に現れ、仄かな甘い匂いが一瞬香る程度は、普段からよくある事なのだ。
けれど最近の抑制剤はとても有能で、普段から分泌されるフェロモンの匂いさえ遮断する。
昼間の仕事に就いているΩの殆どは、規則を守った抑制剤の使用をしているか、既に番がいるかだ。
番契約を結んだΩは、フェロモンの香りが番のαにだけしかしなくなる。
Ωの就労に対して気を付けて国が重視している事といえば、ヒート時にαを混乱させない事だと思う。
ヒートになってしまったΩが、その発情フェロモンでαを惑わし、ラットにさせて混乱に導く。
確かにヒートのΩに中てられると大変ではあるけれど、Ωを襲うかどうかに関しては、最早人格の問題な気がする。
俺はヒートのΩに中てられた事はあるけれど、それでΩを犯した事は無い。
というか俺は、Ωの人と恋愛をしたこと自体が無いのだ。基本的に付き合ってきた人たちはβだ。
それ位にΩの絶対数は少ないものだと思う。
操さんは男性という性別ではあるものの、それが全く気にならない程に美しい。
仕事と関係のないところで出会っていたら、すぐアタックしていたと心から思う。
流石にこの人は俺の雇い主であり、上司である。番の有無に関してなんて、普段から聞きづらい事だ。更に上司になってしまえば、早々聞ける筈がない。同級生だったとしても、細心の注意を払うだろう。
でも操さんに番のαがいて、フェロモンの香りを独り占めしているとしたら、もの凄く羨ましいなと心から思う。
食事を食べる操さんを見つめながら、フェロモンの香りはどんなだろうと思いを馳せる。
花の様な香りがするのか、砂糖菓子の様な甘い匂いなのか、想像ばかりが膨れ上がった。
こんな事を想像する段階で、失礼な事は解っているけれど、想像せずにはいられない。俺はこの時に、自らの思春期を噛み締めていた。
操さんは自分の指についたご飯粒を、唇で噛む様に取り、俺の方を見て首を傾げる。
そして俺に、不思議そうな表情を浮かべ問いかけた。
「ねぇねぇ虎ちゃん、随分静かだけどどうしたのぉ??なんか滅茶苦茶複雑な顔してない??
もしかしてホームシック??」
「え!?!?いや!?!?違います!!!全然!!!俺みたいな人間で良いのかなって!!!光栄すぎて!!!
俺、柄も悪いですし、口もぶっきらぼうだし、足手纏いにならないと良いなって……!!!」
操さんの声に我に返り、慌てて振る舞いを取り繕う。
操さんは焦って言った俺の言葉を、鈴を転がした様な何時もの笑い声で吹き飛ばした。
「あっは……!!全然邪魔になんてならないからぁ!!まぁヤンチャしてた頃あるんだろうなー位は想像してますけどぉー??………結構喧嘩の怪我あるよねぇ??虎ちゃん」
ぎくり。
思わず図星を突かれて固まれば、操さんは意味深な笑みを浮かべる。
操さんは思っていたよりずっとずっと目敏かった事を、この時に気が付いた。
確かに俺の身体には喧嘩で付いた傷痕があるし、別に隠しているつもりはない。
けれど、喧嘩の傷痕と断定迄されて、言葉に出されたのは初めてだ。
口元から八重歯を覗かせて、操さんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。すると操さんは意外な言葉を口にした。
「まー、俺だってチョットだけヤンチャとかしてた事あるから、気持ちわかるなぁなんて………!!!」
「えっ!?!?操さんがヤンチャ!?!?」
操さんがヤンチャをしている所の想像を、俺は一切出来ない。
そんな抱きしめたら折れそうな腕や身体で、喧嘩なんてしたりするんだろうか。
妄想が頭の中をグルグル駆け巡る俺を横目に、操さんは含みのある笑みを浮かべて口元を押さえる。
「そー……ヤンチャ。たっくさん悪い事したし、親だって泣かせたと思うもん……」
操さんの口ぶりから、確かに悪い事をしていたであろうことが伺える。
けれど操さんがヤンチャするイメージが、俺には一切出来ないでいた。
「………意外です。想像つかないですね………」
「だよねぇー♡まあ、ヤンチャにだっていろんな形がありますしぃ??」
操さんはそう言いながら、食べ終えた食器を片付ける。
使っていた御膳台ごと持ち上げて立つと、俺の方に振り返り微笑んだ。
「まぁ、俺には虎ちゃんのヤンチャ位、ぜーんぜん許容範囲ってコト♡だからこれから宜しくねぇ??」
操さんがそう言いながら和室から出て、優しく襖を閉める。
この瞬間に俺は神様に、人生全てを許された様な気持ちになっていた。
だだっ広い和室に一人残された俺は、誰も居ないのを良いことに呟く。
「………本当、好きだわ………」
気持ちが抑えきれない位に人を好きになった事なんて、今だ嘗てない。
今までの俺の恋は、好きをくれる人に好きを返してきただけだ。
自分から狂おしく人を好きになった事は無い。でも大切にしてきたし、浮気をしたことは勿論ない。
だけど別れる間際に言われる言葉は、何時も同じだ。
『真面目で優しすぎて、貴方との恋はつまらない』
何時だって真摯に向かい合ってきたけれど、どれもこれも上手く続かない。
恋に真面目になるのは良い事なのにおかしいなと、何時も思うのだ。
自分から求めた恋ではなかったからこそ、その言葉を躱してこれた。
自分から好きになった人には、この言葉を言われたくないと心から思う。
俺は嫌な事を思い出し、ほんの少しだけ暗くなっていた。
けれど今日は、仕事が決まっておめでたい夜の筈なのだ。
「………よし………風呂いこう………」
頭を切り替えた俺は、残りの食事を一気に掻っ込み食べ終える。
そして空の食器の乗った御膳台を手にして、操さんに続き立ち上がった。
社員寮に繋がる渡り廊下は、厨房のすぐ近くにある。食器を片付けて、そのまま湯浴みの荷物を取りに行こう。
この後は温泉に浸かってゆっくり休もう。きっと明日から更に忙しくなるに違いないと思うのだ。
この時の俺は、やる気と希望に満ち溢れてていた。
***
社員寮から湯浴みの道具を手にして、温泉に向かって歩いてゆく。
温泉と社員寮を繋げる渡り廊下には、一切灯りが灯ってない。
正直その真っ暗闇は、幽霊が出そうな雰囲気を醸し出している。
俺は不良として名を馳せてきたつもりだが、幽霊やお化けの類は怖い。得体の知れないものは苦手だ。
ぶっちゃけ、この渡り廊下を歩いている今、滅茶苦茶怖いと思ってる。
真っ暗な中を歩いていると、背後からパタパタと何か物音が聞こえた。
けれどその物音は、俺が足を止めると止まるのだ。そして歩き出すとまた響く。
えっ、待って?何?滅茶苦茶怖いんだけど!?!?!?雰囲気が幽霊出ますって感じじゃねえか!?!?!?
恐る恐る携帯電話のライトを付けて、背後にそれを向ける。
俺の真後ろには、全く同じ顔をした二人の子供が立っていた。
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