パーティー全員転生者!? 元オタクは黒い剣士の薬草になる

むらくも

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25_くじけぬ心

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 上半身が完全に動くようになって、少し体を起こしながら下半身へ視線を向けた。ちょっと怖いけど、瓦礫で潰れてるにしては痛みがないからセーフなんじゃないだろうか。圧迫感は少しずつ軽くなっていってるし。
 恐る恐る見た先は予想通り瓦礫が山型に折り重なってて、俺の足はその間に突っ込んでるみたいな感じになっている。
 だけど隙間があるのに妙な圧迫感で抜け出せない。何か柔らかいものが挟まってる。少しくすんだ金色っぽい――
「あ……っ!?」
 瓦礫が動いて見えてきたのは、もふもふとした毛玉。すぐ上に乗っていた最後の瓦礫にはべったりと赤黒い血がついている。
 全体が見えた毛玉には小さな手足がついていた。その手足が俺の足を覆うように包んでいて。瓦礫に当たって切れてしまったのか、背中も真っ赤に濡れている。
 もふもふした毛の中に軽く埋もれていた顔は、少し前に俺にじゃれついてた犬みたいな魔物の子供だった。
「これは……まさか魔物? どうしてこんな所に」
 レティが顔をしかめながらうつ伏せていた毛玉を横向きにすると、げぼっと赤い液体が小さな口からあふれ出した。弱々しく目が開いて、こっちを見て。
 口の端から血の糸を落としながら、きゅうんとか細く鳴いた。
「な、んで……? なんで……だって、さっき親と一緒に……」
 何で天使が俺の足の上に居んの。どうして俺の代わりに瓦礫に潰されてんの。
 
 上体を起こして恐る恐る小さな体に触れると、ぎこちない動きで指先にじゃれついてくる。声も小さくてほとんど聞こえない。上に見える体力ゲージには、もう見えるほどのバーは残ってない。
「かい、ふく……かいふく、しなきゃ」
 もう瀕死を通り越してる。このままだと死んでしまう。何も関係ない、小さな子が。
「まさか治癒魔法をかけるつもりですの? 神の奇跡が魔物に効くとは思えませんわ」
 痛いのか小刻みに震える天使の体に手を当てると、その手首をレティが掴んだ。首を横に振りながら真剣な表情で俺を見る。
「いいですか、コータの体力も精神力も今やギリギリですの。無駄打ちは避けるべきです」
「むだ……かも、しれない……でも」
 声が上手く出ない。
 ギリギリなのは分かってるんだ。吹き飛ばされて地面に倒れたせいか全身痛いし、精神力使いすぎて息をするのがちょっとしんどいくらいに体が重い。
 心配してくれてるのは、分かるんだ。
「でも、助けられるかも、しれない。なのにっ、なにも、しないなんて、嫌だ……ッ!」
 魔物には回復かけられないゲームも確かにある。だけど魔物に回復のタゲを向けられるシステムのゲームだったら回復できる事だってある。
 キミツナがどっちかは知らない。だけど今、天使の体の下には光るリングか見えてる。それも回復かける時の青色。回復魔法の対象にできてるんだ、できる可能性の方が高いと信じたい。
 会ったばっかの人間を助けてくれたのに、それが魔物だから助けられないなんて変だ。

「んー。下手したらダメージ与えちゃうかもしれないから、ちょっとだけかけて様子みようよ」
「サナ!」
「ちょっとだけなら負担も少ないじゃん」
 睨むレティに笑いかけるサナは俺の頭を撫でた。回復がダメージになる時もあるから慎重にね、という言葉が聞こえてハッとした。そういえば時々そんなゲームもある。
 恐る恐る小さな手に回復をかけた。じわじわと傷が小さくなっていって、何度か繰り返しかけると傷が何とか塞がって。弱々しく俺の手元を見つめる様子に、痛がったり苦しむような感じはない。
「……効くんだ……俺の回復魔法……」
 効きにくいのは僧侶の魔法が神様の奇跡とか呼ばれてるらしいからだろうか。とはいえ全然効かないとかダメージになるようなクソシステムじゃなくてよかった。
 希望が見えてほっとしてると、レティがはーっと細く息を吐いた。
「まったく……仕方ありませんわね。コータ、わたくしの力も使ってください」
「えっ……?」
 戸惑う俺の顔がよっぽど変な表情してたのか、ずっと怒ったような顔だったレティがくすっと笑った。
「魔物には治癒魔法が効きにくいようですから、これだけの傷を癒すには術を繰り返す必要があります。今の精神力で連発すれば貴方が命を落としかねない」
「でも、それってレティも危ないんじゃ」
 俺以上に魔法をバンバン使ってるレティだって精神力をかなり消費してるはずだ。俺より精神力の最大値が高いのに、回復薬飲むペースがめちゃくちゃ早かったんだから。
 
「ですのでコータの回復薬を頂きますわよ。サナ、貴方の持っている分も全部出しなさいな」
「やば、全部飲む気だレティってばカッコいいー! あ、吐きたくなった時の穴もバッチリ準備しとくからね」
 つまりアレをひたすら飲むつもりって事なのか。一本でもキツいのに、俺達の分まで全部使うつもりで。
「コータが薬を飲みながら魔法を使うのは非効率的ですから、貴方は意識的にわたくしが流す力を使うようにして下さい。絶対に自分の精神力を使わないこと。せっかく助けてもらった命を失いますわよ」
「う、うん……ありがとう、レティ……」
 地味に脅しながらにこりと笑ったレティの手が俺の肩を掴む。そこからキラキラ光るあったかい空気みたいなのが溢れてきて、腕を伝って周りへ広がっていく。
 これがレティの精神力なんだろうか。試しにそのキラキラを手の平に集めるようなイメージで回復を使うと、その瞬間に周りのキラキラが少し減ってしまった。
「上手く使えていますわね。さぁ、命の恩人に御礼をいたしましょう」
「うん……!」
 俺の言い出した事なのに、レティまで巻き込む羽目になってしまった。申し訳ないと思いつつ正直ありがたい。
 必要そうな回復魔法の回数を計算すると、俺だけじゃきっと間に合わないから。

 レティの力を借りて、黙々と回復をかけ続ける。もう床に回復薬の瓶が何本転がってるかは考えない事にした。
 阿修羅像ロボの大爆発が物凄かったせいか、今のところ他の魔物は全然出てこなくて中断せずに進められてる。頼むからその調子で引っ込んでてくれ。
 天使の体力ゲージは半分ちょっとくらいまで戻ってきた。外見で傷がふさがったのは手足だけだけど、吐いてた血が収まってきたから内蔵とかが回復してるんだと解釈することにしている。
 そうじゃないと、気を失ってしまった天使に泣いてしまいそうだから。
「もうちょっと頑張れ……!」
 ぴくぴく震えてる小さな体をさすりながら声をかける。すると少し遠くから、地獄の底から上がってくるような唸り声が聞こえてきた。
「っ! あれは、まさか親……!?」
 そっとレティの視線を辿ると、金色の体毛に血走ったような目の大きなフェルドウルフがこっちを見ていた。俺の手元に居る血だらけの天使を見て、ギロリと俺を睨んで咆哮を上げる。
「    」
 エルが親ウルフに何か言うけれど、ひっきりなしに唸り声が上がる。きっと子供を探しに来たんだ。なのに血まみれで弱ってたら、そりゃきっとショックだと思う。
 もしかしたら俺が何かしたって思ったのかもしれない。
「         」
 早くこの子を返さなきゃいけない。このままだと戦闘になるかもしれない。子供を心配する親の怒りにビビって手を止めてる場合じゃない。戦いが始まってしまったら庇ってくれてるエルがまた怪我をする。早く治さないと。
 ……だけど焦る手は震えて、また上がった唸り声に体がすくんで魔法が途切れてしまった。
 ウルフが息を吸い込む。その頭の上には赤くて太い、攻撃のゲージが出てきた。
「    」
 焦った声音でエルが叫んで、俺達とウルフの間に立ちふさがる。
  
「あーもーッ! ガウガウガウガウうるっっっっさぁぁぁぁぁぁぁい!」

 突然の怒鳴り声が響いて一瞬フロアの時間が止まった。あんまり音量がデカイから、俺達はもちろんウルフの動きも止まっている。
「今回復してるでしょうが邪魔すんな空気読めクソ狼――ッッッ!!」
 声の主はずっと見守ってたサナだ。すくっと立ち上がって地団駄踏みながらウルフに怒鳴り散らしてガンを飛ばしている。
 マジで怖いものなしだなこの人。ホントに俺と同じ世界の出身なのか怪しいんだけど。
「ちょっと、魔物に言葉は通じませんわよ……待ちなさい、サナ!」
「言葉分かんなくたって雰囲気で分かるでしょ!? そんなデカイ目ついてんのに子供の傷ふさがってってるの見えないワケ!?」
 物凄い剣幕で詰め寄ろうとするサナをエルが慌てて止める。何か前世の嫌な事とでも重なったのかもしれない。推しに肩を捕まれてるのに全然オタ反応が起きなかった。
「エル様! ボーッと見てないでちゃんと魔物の言葉に通訳して下さい!!」
「貴様何故それを…………いや、愚問だな、分かった」
 むしろ推しを叱り飛ばしてるし。何故かエルも従ってるし。ウルフも面食らった顔で硬直してるし。
 やっぱりサナ無双主人公キャラ説が濃厚な気がしてきたぞ……。

 
 サナの怨念入りまくりな罵詈雑言大会とエルの翻訳説得のお陰か、ウルフはこっちにガンを飛ばすだけに落ち着いた。ちょっと唸ってるけど。
 ビビって固まってた俺もやっと体が動き出して、繰り返し回復魔法をかけ続ける。
 すると。
「っ……! き、気がついた……!」
 気を失ってしまっていた天使がぱちりと目を開けた。まだ弱々しいけど、きゃうきゃう鳴きながら俺の手に頭をすりつけてくる。そっと額を撫でてやるときゅうんと甘えるみたいに鳴いた。
 体力ゲージも満タンになってる。よかった、助けられた。
「み、みんな、もう大丈夫、治っ――」

 あれ、視界が揺れてる。
 くらくらくらくら、世界が揺れる。ぐるぐる回る。
 自分が座ってるのか、立ってるのか、寝転んでるのか分からない。段々前も後ろも上下左右も分からなくなってきて。

 
 ぶつんとテレビが切れるみたいに、一気に世界が暗転した。
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