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再出発
41.君の隣で
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陽光の中に出てきた人影は、空色の外套を風に揺らしていた。薄い茶色の髪に、光を反射して揺れている耳飾り。
ハーファが会いたくてたまらなかった人そのものの姿をしている。
「リレイ!!」
思わず張り上げた声に、人影がハーファの方を向いた。駆け寄って飛び付くと少しだけたたらを踏んで。
「ハー、ファ……!?」
名を呼ぶのは、ずっと聞きたかった声。すぐそこにある顔は最後に見た時とあまり変わっていない。
綺麗な顔は少し疲れた様子だ。少しだけ驚きを浮かべて丸くなった薄い茶色の瞳が、じっとハーファを見つめている。
「リレイ……本物のリレイだよな?」
うっかり泣いてしまいそうになるのを抑えながら、ようやく取り戻した相棒の頬に触れる。暖かい。柔らかい。
生きている。生きたまま、また相棒に会えた。
「ああ。すまなかった、お前にまで……」
眉をしかめた相棒の視線は、ハーファの首に刻まれた跡に向けられていた。
滅呪を刻む話に乗ったのはハーファ自身だ。
リレイは何も悪くない。むしろその魔術に守られて、受けるはずだった苦痛は半分で済んだのだ。
それでも優しい相棒は、何だか悲しそうな顔で見つめてくる。
「平気。置いてかれるよりずっといい」
そんなことよりも、大切な存在を取り戻せた事の方がハーファにとっては重要なこと。ずっと待っていた。この人間の温もりを取り戻す瞬間を、ずっと。
今度こそ逃がさないように、腕をリレイの背に回して抱きしめる。すると今度はゆっくりと相棒の腕がハーファをそっと抱き返してきた。
「リレイが居なくなるなんて嫌だ。ずっと一緒じゃないと嫌だ」
胸が一杯になって、自然と言葉が口からこぼれ落ちていく。すると抱き締めた体がひくりと僅かに揺れる。
そっと体を離すと、真ん丸になった相棒の瞳がじっとハーファを見つめていた。
ゆっくりと顔を近付ける。
戸惑った表情を浮かべる顔。それでも衝動は抑えられなくて。その唇に自分の唇を重ねて少しだけそのまま時間を過ごした。
「オレを置いてかないで……トルリレイエ」
沈黙が重い。緊張で顔が熱い。それでも何とか見つめていると、相棒の頬が少しだけ赤く色付いて。
言葉は何も返ってこない。
けれど今までよりもはるかに力強く抱きしめられて……まるでそれが返事のように思えたのだった。
「こーらー! 神殿の入り口で甘ったるい雰囲気垂れ流すな――!!」
いい雰囲気を聞き慣れた声がぶち壊していった。
ハーファだけを見つめていた視線が、事もあろうにその声の聞こえた方へ向いていく。
「イチェスト……礼もせずすまない。お前のお陰で被害がかなり軽減されたと聞いた」
すっかりいつもの様子に戻ってしまったリレイは、ハーファを置いてイチェストの方へ意識を向けてしまった。むくれる相棒に気付く様子もなく、すっかり会話に夢中だ。
もう少し引っ込んでてくれれば良かったのに。
そんな事を思いながらイチェストを睨むと、その顔がニンマリと笑う。
「二人の監督者たる上司はこの俺のなので! バリバリ任務手伝って恩返しして貰いますよ!」
ドヤ顔のイチェストに、げぇっと喉の奥から拒否の声が溢れ出した。
「神官がつくって言ってたけどお前なのかよ!」
「そーだよ! 遺跡の調査官に昇進したんで報告書作成もガッツリ手伝って貰うからな!!」
前の調査報告に味しめたっぽいな!なんて声を張り上げながら昔馴染みはうるさく笑う。
冗談じゃない。
せっかくリレイと旅ができるのに。イチェストなんかが同行してきたら遠慮も何もなく、神殿仕事を余計に手伝わされるに決まってる。
「嫌だ! チェンジ!」
「んなもん認められる訳ないだろ! 潔く諦めろ!」
「ぜっっったい嫌だ!」
思わず大声で言い合いを始めると、近くを見回っていたらしい守衛がすっ飛んできて。何よりも先に拳が脳天に直撃して、イチェストもろとも地面に座らされてしまった。
駆けつけてきた守衛は昔から小言の多いオッサンだ。見つかった相手が悪すぎた。
なかなか終わらない説教からようやく抜け出し、相棒の姿を探す。
すると今度はワースラウルの奴が話しかけていた。ハーファだってそんなに話せていないのに、どいつもこいつもすぐリレイに話しかける。
「俺もトール達に同行する事になった」
全力で割り込もうと駆け寄る途中で、そんな話が聞こえてきて。思わず速度を上げた。
まだ百歩譲ってもイチェストは分かる。でもワースラウルは神殿の関係者なんかじゃないのに。
「はぁ!? 何でお前まで!!」
冗談じゃない。ハーファは元通りに相棒と冒険がしたいのだ。どいつもこいつも連れ立ってついて来られては困る。
リレイに後ろから抱きついたまま、ワースラウルを睨みつける。
けれどその顔は相変わらず呆れ顔で……やけに元気そうだ。この間まですぐにでも泣きそうな顔してたくせに。
「暴走事故を誘発した一族の不始末に対する責任を取りに来た」
言ってる意味がさっぱり分からない。
「いらねぇ! さっさと家に帰れ!」
リレイとワースの間に割って入り込み、あっちへ行けと手を払う動作で訴える。けれどそれを見たワースは鼻先で笑い飛ばした。
「グランヴァイパー相手に攻撃が通らなかった奴がよく言う」
「うぐっ」
痛いところを突かれて思わず視線をそらす。
そりゃ、まあ、確かに戦力としてだけ考えればワースラウルは心強い。戦力だけで見ればそうなのだけれど。
反論に困るハーファを見ているリレイから微かに笑い声が聞こえた。思わず相棒をじとりと睨むと、笑いを含んだ声と表情が羽のように軽い謝罪を寄越してくる。
……複雑だけれど、笑顔がまた見れて嬉しい。
そっと相棒を抱きしめると、またワースラウルの鼻先笑いが聞こえてきた。
「そもそも神殿の指示への拒否権など俺達にはない。一族から出てきたのが、俺以外の朴念仁ではなかったことに感謝しろ」
「意味わかんねぇし! さっさと帰れ!!」
わざとらしく分かりにくい言い方をするワースラウルを睨むけれど、やっぱり態度は変わらない。むしろ呆れの表情を深くして、長い溜息をつきながらリレイの方を見る。
「……この阿呆の何処がいいんだ?」
「このっ……!」
急に分かりやすく馬鹿にしやがったな、この野郎。
ハーファが会いたくてたまらなかった人そのものの姿をしている。
「リレイ!!」
思わず張り上げた声に、人影がハーファの方を向いた。駆け寄って飛び付くと少しだけたたらを踏んで。
「ハー、ファ……!?」
名を呼ぶのは、ずっと聞きたかった声。すぐそこにある顔は最後に見た時とあまり変わっていない。
綺麗な顔は少し疲れた様子だ。少しだけ驚きを浮かべて丸くなった薄い茶色の瞳が、じっとハーファを見つめている。
「リレイ……本物のリレイだよな?」
うっかり泣いてしまいそうになるのを抑えながら、ようやく取り戻した相棒の頬に触れる。暖かい。柔らかい。
生きている。生きたまま、また相棒に会えた。
「ああ。すまなかった、お前にまで……」
眉をしかめた相棒の視線は、ハーファの首に刻まれた跡に向けられていた。
滅呪を刻む話に乗ったのはハーファ自身だ。
リレイは何も悪くない。むしろその魔術に守られて、受けるはずだった苦痛は半分で済んだのだ。
それでも優しい相棒は、何だか悲しそうな顔で見つめてくる。
「平気。置いてかれるよりずっといい」
そんなことよりも、大切な存在を取り戻せた事の方がハーファにとっては重要なこと。ずっと待っていた。この人間の温もりを取り戻す瞬間を、ずっと。
今度こそ逃がさないように、腕をリレイの背に回して抱きしめる。すると今度はゆっくりと相棒の腕がハーファをそっと抱き返してきた。
「リレイが居なくなるなんて嫌だ。ずっと一緒じゃないと嫌だ」
胸が一杯になって、自然と言葉が口からこぼれ落ちていく。すると抱き締めた体がひくりと僅かに揺れる。
そっと体を離すと、真ん丸になった相棒の瞳がじっとハーファを見つめていた。
ゆっくりと顔を近付ける。
戸惑った表情を浮かべる顔。それでも衝動は抑えられなくて。その唇に自分の唇を重ねて少しだけそのまま時間を過ごした。
「オレを置いてかないで……トルリレイエ」
沈黙が重い。緊張で顔が熱い。それでも何とか見つめていると、相棒の頬が少しだけ赤く色付いて。
言葉は何も返ってこない。
けれど今までよりもはるかに力強く抱きしめられて……まるでそれが返事のように思えたのだった。
「こーらー! 神殿の入り口で甘ったるい雰囲気垂れ流すな――!!」
いい雰囲気を聞き慣れた声がぶち壊していった。
ハーファだけを見つめていた視線が、事もあろうにその声の聞こえた方へ向いていく。
「イチェスト……礼もせずすまない。お前のお陰で被害がかなり軽減されたと聞いた」
すっかりいつもの様子に戻ってしまったリレイは、ハーファを置いてイチェストの方へ意識を向けてしまった。むくれる相棒に気付く様子もなく、すっかり会話に夢中だ。
もう少し引っ込んでてくれれば良かったのに。
そんな事を思いながらイチェストを睨むと、その顔がニンマリと笑う。
「二人の監督者たる上司はこの俺のなので! バリバリ任務手伝って恩返しして貰いますよ!」
ドヤ顔のイチェストに、げぇっと喉の奥から拒否の声が溢れ出した。
「神官がつくって言ってたけどお前なのかよ!」
「そーだよ! 遺跡の調査官に昇進したんで報告書作成もガッツリ手伝って貰うからな!!」
前の調査報告に味しめたっぽいな!なんて声を張り上げながら昔馴染みはうるさく笑う。
冗談じゃない。
せっかくリレイと旅ができるのに。イチェストなんかが同行してきたら遠慮も何もなく、神殿仕事を余計に手伝わされるに決まってる。
「嫌だ! チェンジ!」
「んなもん認められる訳ないだろ! 潔く諦めろ!」
「ぜっっったい嫌だ!」
思わず大声で言い合いを始めると、近くを見回っていたらしい守衛がすっ飛んできて。何よりも先に拳が脳天に直撃して、イチェストもろとも地面に座らされてしまった。
駆けつけてきた守衛は昔から小言の多いオッサンだ。見つかった相手が悪すぎた。
なかなか終わらない説教からようやく抜け出し、相棒の姿を探す。
すると今度はワースラウルの奴が話しかけていた。ハーファだってそんなに話せていないのに、どいつもこいつもすぐリレイに話しかける。
「俺もトール達に同行する事になった」
全力で割り込もうと駆け寄る途中で、そんな話が聞こえてきて。思わず速度を上げた。
まだ百歩譲ってもイチェストは分かる。でもワースラウルは神殿の関係者なんかじゃないのに。
「はぁ!? 何でお前まで!!」
冗談じゃない。ハーファは元通りに相棒と冒険がしたいのだ。どいつもこいつも連れ立ってついて来られては困る。
リレイに後ろから抱きついたまま、ワースラウルを睨みつける。
けれどその顔は相変わらず呆れ顔で……やけに元気そうだ。この間まですぐにでも泣きそうな顔してたくせに。
「暴走事故を誘発した一族の不始末に対する責任を取りに来た」
言ってる意味がさっぱり分からない。
「いらねぇ! さっさと家に帰れ!」
リレイとワースの間に割って入り込み、あっちへ行けと手を払う動作で訴える。けれどそれを見たワースは鼻先で笑い飛ばした。
「グランヴァイパー相手に攻撃が通らなかった奴がよく言う」
「うぐっ」
痛いところを突かれて思わず視線をそらす。
そりゃ、まあ、確かに戦力としてだけ考えればワースラウルは心強い。戦力だけで見ればそうなのだけれど。
反論に困るハーファを見ているリレイから微かに笑い声が聞こえた。思わず相棒をじとりと睨むと、笑いを含んだ声と表情が羽のように軽い謝罪を寄越してくる。
……複雑だけれど、笑顔がまた見れて嬉しい。
そっと相棒を抱きしめると、またワースラウルの鼻先笑いが聞こえてきた。
「そもそも神殿の指示への拒否権など俺達にはない。一族から出てきたのが、俺以外の朴念仁ではなかったことに感謝しろ」
「意味わかんねぇし! さっさと帰れ!!」
わざとらしく分かりにくい言い方をするワースラウルを睨むけれど、やっぱり態度は変わらない。むしろ呆れの表情を深くして、長い溜息をつきながらリレイの方を見る。
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