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再出発
42.もう一度
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ワースラウルと睨み合っていると、リレイがまたくすくすと笑い始めた。ムッとして相棒を睨んでみても、向けられた笑顔に思わず顔が緩む。
「こういう所がいいんだ。可愛いだろ?」
可愛いは少し癪だけれど、頬に触れたリレイの唇の感触で文句が全部喉の奥へ引っ込んでいった。固まるハーファを見る瞳は穏やかで、優しくて。微笑む顔から視線が逸らせない。
だけど。
「理解が出来ない」
そんなワースラウルの声に反応して、相棒の視線はあっさりと目の前の剣士へ向けられてしまった。
「それは何より。お前と取り合いになりたくないからな」
「要らぬ心配だ」
ふんと鼻で笑うワースラウルに応えるように、リレイも笑いを含んだ声をこぼす。
……本当にこの剣士は邪魔ばかりしてくる。わざとか。わざとなのか。
「なぁなぁ、リレイ!」
逸れてしまった視線を取り戻そうと声をかける。
どうしたと向けられた瞳に、勢いだけの呼びかけをどう続けたものか一瞬たじろいでしまった。けれどすぐに握りしめていた腕輪の存在を思い出して、勢いよく差し出す。
「腕輪! 今度こそ外れないようにしてくれよ」
「……そうだったな」
ハーファから腕輪を受け取ったリレイは、少し苦笑しながら手の平の上に銀色の輪っかを転がした。
腕輪の裏側を相棒の指がなぞると、こびりついた血が文字みたいな形に剥がれていく。赤の中に浮かんできたそれは、貰った時の様にうっすらと銀色に光っていた。
返却された腕輪が左手に通されて、最初に貰った時みたいに相棒の唇が腕輪に触れる。そのまま手の甲、指先と移動していって。
一瞬だけその経路が強く輝いた。
「ひとまずこれで外れないはずだ。まだ完全じゃないから残りは少しずつ溜めていこう」
出来心で腕輪を引っ張ってみても外れない。何度見ても不思議だ。
「へへ……ありがとな」
ようやく元通りになった。腕輪も、相棒も、すぐそこにある。
すっかり浮かれてしまっているハーファに気付いたのか、胡散臭い笑みを浮かべた相棒の顔が近付いてくる。
「じゃあ、礼はその体でしてもらおうか」
「ん、前衛は任せろ!」
遠回しな物言いが若干引っかかったけれど、頬を撫でる相棒の指先に舞い上がった頭はその言葉を素直に受け取る事にした。
勢いよく頷いて見せたものの、返ってきたのは微妙な空気と沈黙で。
「…………。……うん、頼もしい、な……」
相棒の何とも言えない表情に首を傾げていると、後ろからノリューアの声が聞こえた。何だか渋い顔をして、こっちへ来いと言いたげに手招きをしている。
相棒の様子が気になりつつも、あの顔の育ての親を放置するとろくなことにならない。
そう思い直して、声のする方へ一旦向かう事にした。
さっさと終わらせようと走って辿り着くと、今度は走るなと渋い声音の注意が飛んでくる。急いで来たというのに理不尽だ。
「今日は部屋から出るなと言っていたはずだけれどね」
「いいだろちょっとくらい。良い天気なのに」
今まで自由にできたのだ。今日に限って急に出るなと言われても、意味が分からない。
「全く……お前に施した滅呪の経過観察日だというのに」
滅呪。
審判長はぐたぐだ難しい事言ってたけど、要するにリレイが暴走した時に発動して殺す呪術らしい。
一人分より二人分の術が発動すると強い効果を発揮するとかで。ハーファも同じ呪いを受ける条件つきで相棒の極刑が回避された、それ。
「もしかして、さっき首絞まったのってそれか。だったら言っといてくれよ」
施術をした神官は何の説明もしてくれなかったし、ノリューアからもそんな予告はなかった。それを知ってれば、少なくとも急に首が絞まって焦る事はなかったのに。
文句を込めて言うと、呆れた表情を浮かべていた顔からすっと表情がなくなった。
「……首が絞まった? 誰かお前の様子を診に来たかい」
「来た。首にコレ刻んだ時にいた神官だと思う。なんか一人で頷いて帰ってった」
はっきり顔を覚えてる訳じゃないけれど、あの朗らかな笑い方とのんびりした声は忘れようもない。首の跡に関連するなら、ほぼ確実なはずだ。
「全く……予定を変えるなら一言あって然るべきだろうに」
顔をしかめて何やらブツブツ呟き始めたけれど、置いてけぼりになっているハーファにようやく気付いたらしい。少し表情を緩めながら頭を撫でてくる。
そんなのしたことないくせに。いつもと違いすぎて不気味だ。
「終わったのなら、まあいい。もう行きなさい」
歩いてくるイチェストを見たノリューアは、何かを勝手に納得して大神殿の中へ消えていった。
……何なんだ、一体。
イチェストと合流して相棒の方を振り返ると、何だか楽しそうにワースラウルと話している。さっきからアイツと話してばっかりだ。
「リレイ! 早く来いよー!!」
もやもやしたものを吐き出すように声を出すと、先にワースラウルがこっちへ振り返った。何でだよ。お前じゃない。名前なんて呼んでないだろうが。
しかもアイツがリレイに話しかけると、相棒は満面の笑みを浮かべている。
それが何だか面白くなくて、二人から視線を外して歩き始めた。
「こういう所がいいんだ。可愛いだろ?」
可愛いは少し癪だけれど、頬に触れたリレイの唇の感触で文句が全部喉の奥へ引っ込んでいった。固まるハーファを見る瞳は穏やかで、優しくて。微笑む顔から視線が逸らせない。
だけど。
「理解が出来ない」
そんなワースラウルの声に反応して、相棒の視線はあっさりと目の前の剣士へ向けられてしまった。
「それは何より。お前と取り合いになりたくないからな」
「要らぬ心配だ」
ふんと鼻で笑うワースラウルに応えるように、リレイも笑いを含んだ声をこぼす。
……本当にこの剣士は邪魔ばかりしてくる。わざとか。わざとなのか。
「なぁなぁ、リレイ!」
逸れてしまった視線を取り戻そうと声をかける。
どうしたと向けられた瞳に、勢いだけの呼びかけをどう続けたものか一瞬たじろいでしまった。けれどすぐに握りしめていた腕輪の存在を思い出して、勢いよく差し出す。
「腕輪! 今度こそ外れないようにしてくれよ」
「……そうだったな」
ハーファから腕輪を受け取ったリレイは、少し苦笑しながら手の平の上に銀色の輪っかを転がした。
腕輪の裏側を相棒の指がなぞると、こびりついた血が文字みたいな形に剥がれていく。赤の中に浮かんできたそれは、貰った時の様にうっすらと銀色に光っていた。
返却された腕輪が左手に通されて、最初に貰った時みたいに相棒の唇が腕輪に触れる。そのまま手の甲、指先と移動していって。
一瞬だけその経路が強く輝いた。
「ひとまずこれで外れないはずだ。まだ完全じゃないから残りは少しずつ溜めていこう」
出来心で腕輪を引っ張ってみても外れない。何度見ても不思議だ。
「へへ……ありがとな」
ようやく元通りになった。腕輪も、相棒も、すぐそこにある。
すっかり浮かれてしまっているハーファに気付いたのか、胡散臭い笑みを浮かべた相棒の顔が近付いてくる。
「じゃあ、礼はその体でしてもらおうか」
「ん、前衛は任せろ!」
遠回しな物言いが若干引っかかったけれど、頬を撫でる相棒の指先に舞い上がった頭はその言葉を素直に受け取る事にした。
勢いよく頷いて見せたものの、返ってきたのは微妙な空気と沈黙で。
「…………。……うん、頼もしい、な……」
相棒の何とも言えない表情に首を傾げていると、後ろからノリューアの声が聞こえた。何だか渋い顔をして、こっちへ来いと言いたげに手招きをしている。
相棒の様子が気になりつつも、あの顔の育ての親を放置するとろくなことにならない。
そう思い直して、声のする方へ一旦向かう事にした。
さっさと終わらせようと走って辿り着くと、今度は走るなと渋い声音の注意が飛んでくる。急いで来たというのに理不尽だ。
「今日は部屋から出るなと言っていたはずだけれどね」
「いいだろちょっとくらい。良い天気なのに」
今まで自由にできたのだ。今日に限って急に出るなと言われても、意味が分からない。
「全く……お前に施した滅呪の経過観察日だというのに」
滅呪。
審判長はぐたぐだ難しい事言ってたけど、要するにリレイが暴走した時に発動して殺す呪術らしい。
一人分より二人分の術が発動すると強い効果を発揮するとかで。ハーファも同じ呪いを受ける条件つきで相棒の極刑が回避された、それ。
「もしかして、さっき首絞まったのってそれか。だったら言っといてくれよ」
施術をした神官は何の説明もしてくれなかったし、ノリューアからもそんな予告はなかった。それを知ってれば、少なくとも急に首が絞まって焦る事はなかったのに。
文句を込めて言うと、呆れた表情を浮かべていた顔からすっと表情がなくなった。
「……首が絞まった? 誰かお前の様子を診に来たかい」
「来た。首にコレ刻んだ時にいた神官だと思う。なんか一人で頷いて帰ってった」
はっきり顔を覚えてる訳じゃないけれど、あの朗らかな笑い方とのんびりした声は忘れようもない。首の跡に関連するなら、ほぼ確実なはずだ。
「全く……予定を変えるなら一言あって然るべきだろうに」
顔をしかめて何やらブツブツ呟き始めたけれど、置いてけぼりになっているハーファにようやく気付いたらしい。少し表情を緩めながら頭を撫でてくる。
そんなのしたことないくせに。いつもと違いすぎて不気味だ。
「終わったのなら、まあいい。もう行きなさい」
歩いてくるイチェストを見たノリューアは、何かを勝手に納得して大神殿の中へ消えていった。
……何なんだ、一体。
イチェストと合流して相棒の方を振り返ると、何だか楽しそうにワースラウルと話している。さっきからアイツと話してばっかりだ。
「リレイ! 早く来いよー!!」
もやもやしたものを吐き出すように声を出すと、先にワースラウルがこっちへ振り返った。何でだよ。お前じゃない。名前なんて呼んでないだろうが。
しかもアイツがリレイに話しかけると、相棒は満面の笑みを浮かべている。
それが何だか面白くなくて、二人から視線を外して歩き始めた。
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