魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月一日金曜日 晴天「優しさ日和」

7/1⑥

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「希帆姉ちゃん、大分調子いいんだって?」
「はい、次の治療までに体力戻さないとって張り切ってます」
「そっか、希帆姉ちゃんならきっと大丈夫だな」

 その大丈夫に根拠はなさそうだけど、希帆姉ちゃんと親しみを込めて呼ぶ人の言葉は信じたいって思った。
 キラのお父さんは、ママの幼馴染だそうだ。
 もっともママより三つ年下だったキラのお父さんを、弟分として連れまわしていたらしいママ。
 前にその話を聞いた時に、キラのお父さんは苦笑していて、後でおばあちゃんに尋ねたら。
『希帆は、ここいらのガキ大将だったからね。キラのお父さんも振り回されてたし、泣かされてたこともあったからねえ』
 と困った顔をしていた。
 ここに来て、私の知らなかったママの話を色々聞けるのは楽しい。

「父ちゃん、今日遅いんじゃなかったっけ?」
「そのはずだったんだけどよ、荷物の便が向こうの手違いで明日に回っちゃってな? だから明日は四時には家出ないと」
「は? 休みだったはずじゃん? 大丈夫なの?」
「なにが?」
「体だよ、体!! もう十日も連続だぞ、休みねえじゃんか」

 キラは少し怒った顔をして、お父さんを見つめていた。

「大丈夫だよ、父ちゃんは体だけは丈夫だし」
「でもっ、」
「キラ! キラリ! スイカ食べないかい? キラのお父さんが持ってきてくれたんだよ。今切ってくるから二人とも手を洗っておいで」
「いいっ、もうすぐ夕飯だし! じゃあな、キラ、また明日!」

 そういうなりキラはムスッとしたまま、垣根を飛び越えて自分家に帰ってしまう。
 ぶっきらぼうなその姿に唖然としていたら、キラのお父さんが口を開いた。

「ごめんな、キラリちゃん。アイツ、本当に愛想なくって」
「そうじゃないよ。キラは、あんたのことを心配してんだよ? たまには、のんびり休んで二人でどっか出掛けておいでよ。普段寂しい思いさせてんだし」

 おばあちゃんの言葉にキラのお父さんは、曖昧に笑って、それじゃあ、と帰って行った。


 キラのお父さんの姿が見えなくなってから、おばあちゃんがポツリと呟いた。

「キラのお母さんの話、前にしただろ?」
「うん」

 キラが小学校三年生になった時、突然倒れて亡くなってしまった。
 そうおばあちゃんから聞いた。
 それからキラは、お父さんが留守の時には、ここに来て夕飯を食べたり、夜に一人の時は泊まっていたりもしたそうだ。
 
「キラのお母さんも働き者でねえ。朝はキラが起きる前に駅前のパン屋で仕込みをして、帰ってきてからキラを学校に送り出して。それから、近くのクリーニング屋で夕方まで。将来、キラが東京の大学行っても応援してあげられるだけ貯めておきたいんだって。でも、過労が溜まってたんだろうさ。仕事場で倒れて……」
 
『母ちゃん、大丈夫なのか?』
『そっか、良かったな』

 私のママのこと、心配してくれてた。
 大丈夫だって伝えたら、心の底から良かったって言ってくれているような笑顔を浮かべてた。
 キラのことを考えたら胸が痛くなって、涙が落ちそうになるのをグッと堪えた。

「だからこそ、お父ちゃんのことが心配なのさ。だからキラは怒ってたんだよ、たった一人の肉親だもの」

 うん、と頷いたらいよいよ堪えていた涙が落ちてしまって。
 おばあちゃんはそれに気づき、私の頬を優しくエプロンの端っこで拭きとってくれる。

「まあ、私もキラの肉親のつもりだよ? キラもキラリも、おばあちゃんの大事なかわいい孫さ。あんたらを一人になんかするもんかね」
「おばあちゃんっ」

 ギュッと抱きついたら、私の頭を優しく撫でて。

「泣き顔は希帆にそっくりだね」

 なんて言われたら、ますます泣けてきた。
 


 その夜、なかなか眠れずに窓を開けて空をみあげた。
 星がいっぱい出ている。
 ――希星《キラリ》が生まれた日の星は本当に綺麗だったのよ、だから希望の星って名前に入れたかったの。
 そんなママの言葉を思い出した。
 キラは綺空って書く。
 きっとキラが生まれた日は、綺麗な空だったからそう名付けたのかな?
 もう電気の消えている隣の家のことを思った。
 キラは、あまり弱音なんか吐かないし、頑張り屋だし。
 それはきっとお父さんのことを思ってなんだろうな。
 キラの気持ちがお父さんに届いていますように、星に祈りを込めた。
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