魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月九日土曜日 晴れ時々曇り「魔法見習いと恋バナ」

7/9①

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 魔法修業は学校のない、土日の朝早く、四時から五時半までの短い時間で行われる。
 場所はおばあちゃんの畑。
 今日はその第三回目。

「誰かに見られたらどうするの?」
「大丈夫さ、その時は記憶をかきかえておくから」
「そんなこともできるの!?」

 楽しそうにウィンクするおばあちゃんは、本当にプロの魔女のようだった。

「もうね、あまり高く飛ぶのは疲れちゃうからさ」

 そう謙遜しながらも今日ようやく見せてくれた、魔法使いといえばこれ! という空中を飛ぶ技。
 でも思ってたのと違った。
 だって、まさかのホウキじゃなくて、畑で使っているクワだったんだもの。
 呆然と見守っていた私の元に颯爽と降り立って。

「キラリもちょっと乗ってみるかい?」

 そう言われて跨いだものの、ウンともスンともせず。
 おばあちゃんは、そうなるのをわかっていたのかケラケラ笑って。

「まあ、最初はキラリもホウキくらい軽いものから始めた方がいいね。その内、モップでもクワでも乗りこなせるようになるさ。まあ、空飛べるまでにも五年はかかるだろうけどね」

 やっぱり! 絶対飛べないのわかってて、跨がせたんだ! 
 おばあちゃんのイジワルに気づいて口元を膨らませたら。

「だから風をつかむ感覚を鍛えなさいって言ってるだろ?」
「あ、このためだったの?」

 初回からずっと風をつかめ、友達になってみろと言われた。
 おばあちゃんが畑仕事をしている横で、空を仰ぎ目を瞑って風をつかむ練習をしてきた。
 だけど、未だにコツがよくわからない。
 魔法書にはそれらしく、心で感じること、なんて書いてたけども。

「まあ、風は気まぐれだからね? でも、友達になると色々便利なんだよ?」
「便利?」
「まあね、この辺りは台風が直撃しない地域だってこととか」
「え? それってもしかして、おばあちゃんが?」

 ふふふ、と笑っておばあちゃんは今日も虹の雨を降らす。
 いつか私にも空が飛べるのかな? 飛べたらいいな、と虹の橋を見上げた。





 キラとノビルの散歩は、土日だけ少し長い。
 学校がない分、ノンビリできるからだ。
 今朝は私がまだ行ったことのない河川敷のコースに連れて行ってくれた。
 夕方はいつもの海コースで、またノビルを走らせる予定。

「ねえ、ノビル?」

 キラが帰った後、いつものようにノビルに話しかけてみた。

【なんだよ】

 喉が渇いていたのか、勢いよく水を飲みながら返事をしてくれた。

「私さ、まだ生き物と話せる魔法しか使えないんだよね。しかも、魔法っていうか、これって意識せずに使えてるだけで」
【早く空が飛びたいってか?】
「そりゃ、そうだよ! だって魔法使いといえば、空を飛ぶことだよ? 絶対にそう!」
【変身、とかもあるんじゃないのか?】
「うん、あるらしい。でもそれももっと高等魔法みたいよ? 美人になれる魔法や、透明になって人から見えなくなる魔法とか。そしたら映画館も無料だし、見放題だよね? 私そういうの覚えたいな」
【魔法って】
「うん?」
【私利私欲のために使うもんじゃないだろ】

 ギクリとした。
 それから犬のノビルにそう言われてしまったことが恥ずかしくなってしまう。
 おばあちゃんは美味しいお野菜を、隣近所に分けてあげていた。
 台風をどうにか反らして、この町を守ろうとしてくれているのかもしれない。
 
「ノビル、私……、おばあちゃんみたいな優しい魔女になりたい」
【真希ちゃんみたいな? そりゃいいや】

 笑ってるみたいな顔をしたノビルに私も笑う。
 誰かのためになるような魔法を覚えよう。
 困ってる人を助けられるような、そんな魔法を。

「あ、そうか」
【なんだ?】
「動物や生き物から、何か情報を集めることもできるかも。ほら、天変地異とか天気が変わるとか」
【ほお】
「それで、予言してテレビに出て」
【おい、キラリ! また!】
「冗談だってば。でも、そういうのわかればさ、例えば洗濯物は今日は中干しにしようとか」
【今日は午後から一雨来るかもな】
「そうなの?」

 見上げた空には飛行機雲が一本筋を描いているだけの晴天。
 信じられない、と顔に出ていたのだろう私に。

【ほら、コイツが言ってる】

 コイツ!?
 ノビルの視線の先には、アイツ!!
 沼のヌシがいつの間にかうちの水道の受け口に溜まった水にチャプンと座っていて、私をじっと見つめていた。
 危うく悲鳴をあげかけたけれど、いつかのおばあちゃんの言葉を思い出してそれだけは耐えた。
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