魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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七月十七日日曜日 晴天、のち「久々の再会」

7/17①

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「おばあちゃん、見てて!!」

 畑仕事の合間に、私がおばあちゃんに披露したのは、つむじ風を作る魔法だった。
 指先でグルグルと小さな円を描きながら、覚えたての呪文を唱える。

「ラクール・エテワール・ソ・ラドーレ・風よ、回れ!」

 指先に風を纏わせることをイメージしながら、それを綿あめの機械のようにからめとり、クルクルと回す。
 少しずつ指先で描く円にスピードをのせると。

「でき、た」

 小さな小さなつむじ風が私の手の平で踊っているみたいだ。

「なかなかやるじゃないか、一か月もかからずに風を味方につけたようだね」
「え? じゃあ」
「ま、空を飛べるのはまだまだ先だけどね」

 ガッカリと項垂れたら、つむじ風もショボンと小さくなって消えて行った。

「まあ、応用したら色んな事ができるようになるからね? 夏休み中は風の魔法を他にも三つくらいは覚えるとして。平行して水の魔法も覚えてもらうかね」

 クスリと笑ったおばあちゃんは鉄砲を撃つ構えで人差指を私に向ける。

「えいっ」

 ニッと笑ったおばあちゃんの指先から、水鉄砲みたいな飛沫が飛んで私の顔にかかった。
 目をパチパチさせて驚いていたら。

「今のが初級編。水の書も読んでおきな? 明日も学校休みだろ? 鍛えてやろうじゃないか」
「うっ、ズルイ! 私が指から水鉄砲出せたら、おばあちゃん勝負だよ! 逃げないでね」
「いいよ、いっくらでもかかっておいで。まだまだあんたに負ける気はしないよ」

 そりゃ、そうだ。
 おばあちゃんに敵うわけはない。
 なんというか、こういう時のおばあちゃんは少し子供っぽい。
 そこはママとちょっと似てる気がする。
 最初は似てないって思ったけど、ママはやっぱりおばあちゃんに似てると思う。
 顔はおじいちゃん似だけれど、と仏壇の中のおじいちゃんの顔を思い出した。

「夏休みは二十日からかい?」
「そ、きっとアンやカノンが遊びに来ると思うけど」
「賑やかなのは大歓迎さ。泊まりたかったらいつでもおいで、と伝えておきな」
「ありがと! きっとあの子たち、すっごく喜ぶよ」
「喜んでるのは、キラリも同じだろ」

 いつものように虹色の雨を降らせながら、私のおしゃべりに付き合ってくれるおばあちゃんは背中を向け、足元の草をむしる。

「あと、二ヶ月くらいかねえ」

 独り言のようにそう呟いた。
 その言葉に、ズキッと胸が痛くなった。
 あと二ヶ月、それは私が東京に戻るまで、だ。

「希帆も治療の成果が出てきてるって言ってたしね? 案外、早く東京に戻れるかもしれないよ」

 昨日、久しぶりにママから電話がきた。
 しかも私のスマホじゃなくて、おばあちゃん家の電話にだ。
 元気そうな声に私もおばあちゃんもホッとした。
 まずは第一段階の苦しい時期を抜けて、第二段階のための体力を蓄えているところだという。
 ママが元気になって退院して、私を迎えに来る。
 それは、とっても嬉しいことなのだ。
 元の生活に戻ることが一番いいこともわかってる。
 努力して入った中学校も私が戻って来るのを待っててくれているのだし。
 でもさ?
 そうしたらおばあちゃんとの魔法の修行はどうなっちゃうの?
 キラやアンやカノンたちとはもう会えなくなっちゃうよね。
 ノビルの散歩もできなくなって。
 おばあちゃんは、またこの家に一人で暮らしていくの?
 寂しくないの?

「キラリ、そろそろ家に戻るよ。キラが来る頃だ」
「あ、はーい」

 おばあちゃんの籠を奪うようにして持ってあげたら、嬉しそうに目を細める。
 その優しい顔が大好きだ。
 おばあちゃんと一緒にいると楽しくて。
 いつもずっとママの帰りを待ってるのが私の役目だったけど、ここではおばあちゃんが待っててくれる。
 私が学校から帰って来るのを、「おかえり」と出迎えてくれる。
 嬉しかったんだ、とっても。
 いつか、この生活が終わってしまうって、わかってたことなのに。
 やっぱり離れたくない、おばあちゃんと。
 離れたくない、皆と。

「キラリ?」

 おばあちゃんの顔が見る見るぼやけちゃって。
 それに気づかれないように、慌てて目をこすって笑う。

「汗かいちゃった。魔法って体力消耗するし、いっぱい汗かくよね」
「汗かくのは夏だからだろ」

 クックックと楽しそうに笑うおばあちゃんと、皆と、この夏いっぱい思い出を作る。
 そう決めたんだ。
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