魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」

夏休み後半⑧

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 ノビルの散歩を終え、家に上がったら、おばあちゃんが誰かと電話をしているところだった。
 電話を終えたおばあちゃんが、深刻な顔をしている。
 私をチラリと確認し、少しだけ目が泳いだおばあちゃんに胸がザワザワし始めた。

「おばあちゃん?」
「キラリ、明日、希帆のお見舞いに行こうか?」
「なにが、あったの?」

 重苦しい雰囲気に、心臓が早鳴る。

「病院から電話があったの。希帆の熱が下がらないって。もう四日も高熱でうなされてるみたいで、ね」

 背筋にゾクリと寒気が走る。
 だから、ずっとメッセージが来なかった、ううん、そんな元気がなかったからだ……。

『ちゃんと仲直りしろよ、キラリ』

 さっきのキラの言葉を思い出したら、とっさに体が動いて玄関に走る。

「おばあちゃん、私、今から東京に戻る」
「戻るって? 面会時間は二十一時までだよ、間に合わない」

 おばあちゃんも、慌てて私の後を追いかけてきた。
 面会時間のこと、わかってた。
 わかってるけどね?

「会いたいの、ママに。私、応援してるって伝えたいの。がんばって、って、ママ大好きだからね、って言いたいの」

 仲直りしたいの。一目でいいから、ママに会いたいの。
 今、言わないと、その想いに突き動かされてもう止まれない。
 
「だけど、ここからだと海でも渡らなきゃ間に合わないし。せめて、キラリがホウキを操れたなら良かったんだけど」

 おばあちゃんの言葉に唇を噛みしめた。
 まだまだ私は新米魔女だ。
 飛べない魔女だ。
 今すぐ飛んで、行きたいのに。
 悔しい、悔しい、悔しい。
 開け放った玄関の向こう、夕焼け空を見上げたら、カモメが一羽飛んでいた。
 ……、ああ、そうだ。

「ソレージュ・パラモール……、えっと」
「キラリ? あんた、なにを」
「ソレージュ・パラモール・エサレイ・カッカ・ド・パーニャ……、違う、そうじゃなくて」
「ダメだよ、使ったことない魔法じゃないか! もしも戻れなくなったら」

 おばあちゃんが止めたい理由がそれなのはわかってる。
 だけど、私にはこれしか、これでしか!!

「ソレージュ・パラモール・エサレイ・ハネルーン・カッカ・ド・パーニャ!!」

 飛んでいるカモメに人さし指を向け、祈るように呪文を呟いた。

 う、うえええええ!?
 目の前の風景が変わった瞬間に、体がガクンと傾いた。
 見えたのはいつも泳いでた海。
 一気に落ちる、落ちる、落ちる。
 落ちちゃうー!!
 
「羽をうまく使いなよ、そんなんじゃすぐに落ちちゃうじゃないか」

 隣をみたら、ホウキに乗ったおばあちゃんがいた。

「鳥はいつもどんな風に飛んでた? 想像してみてごらん? あまりに不格好な飛び方してたら、東京に着く前にバテてしまうから上手に飛びな?」
「う、うん」

 前をみたら、カモメが飛んでいた。
 私もその真似をして、羽を動かしてみた。
 上手とまではいかなくても、ようやく浮上する、なんとか飛べそうだ。

「いきなり上級魔法使うんじゃないよ。意識の抜けたあんたの体はソファーに寝かせておいたけど、全くビックリするったら!!」
「ごめんなさい、おばあちゃん」
「いつの間にこんな魔法覚えてたのさ。さすがは希帆の子だ、大魔女になるね」

 クスッと笑ったおばあちゃんが私にウィンクする。

「疲れたら、おばあちゃんの肩に乗りな?」
「おばあちゃんも一緒に行ってくれるの?」
「仕方ないだろ? 孫を一人で行かせられるかね! それに」
「それに?」
「希帆に会いたいのは私も同じだよ」

 おばあちゃんの想いに感動して、一瞬羽ばたきを休んだらまた落下しそうになって怒られる。
 だから私は、そりゃもう必死で羽を動かした。
 カモメさん、本当にごめんなさい。
 明日はきっとものすごい筋肉痛かもしれない。
 私の中で眠っているカモメに謝った。
 私はあの時飛んでいたカモメに意識を飛ばしたのだ。
 そうしてカモメさんの体をのっとってしまった。
 だけどこの魔法、失敗したら二度と人間の自分の体には戻れないのだ。
 飛んでしまった意識はどこにも入ることができなく、一生彷徨うとも。
 だから、おばあちゃんは心配したのだ。

「無謀なとこは希帆そっくりかもしれないね」
「そうかな? でも、ママには負けるかも」

 時々、おばあちゃんの肩で休ませてもらいながら、海ほたるを眼下に東京湾を渡る。
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