48 / 53
八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」
夏休み後半⑧
しおりを挟む
ノビルの散歩を終え、家に上がったら、おばあちゃんが誰かと電話をしているところだった。
電話を終えたおばあちゃんが、深刻な顔をしている。
私をチラリと確認し、少しだけ目が泳いだおばあちゃんに胸がザワザワし始めた。
「おばあちゃん?」
「キラリ、明日、希帆のお見舞いに行こうか?」
「なにが、あったの?」
重苦しい雰囲気に、心臓が早鳴る。
「病院から電話があったの。希帆の熱が下がらないって。もう四日も高熱でうなされてるみたいで、ね」
背筋にゾクリと寒気が走る。
だから、ずっとメッセージが来なかった、ううん、そんな元気がなかったからだ……。
『ちゃんと仲直りしろよ、キラリ』
さっきのキラの言葉を思い出したら、とっさに体が動いて玄関に走る。
「おばあちゃん、私、今から東京に戻る」
「戻るって? 面会時間は二十一時までだよ、間に合わない」
おばあちゃんも、慌てて私の後を追いかけてきた。
面会時間のこと、わかってた。
わかってるけどね?
「会いたいの、ママに。私、応援してるって伝えたいの。がんばって、って、ママ大好きだからね、って言いたいの」
仲直りしたいの。一目でいいから、ママに会いたいの。
今、言わないと、その想いに突き動かされてもう止まれない。
「だけど、ここからだと海でも渡らなきゃ間に合わないし。せめて、キラリがホウキを操れたなら良かったんだけど」
おばあちゃんの言葉に唇を噛みしめた。
まだまだ私は新米魔女だ。
飛べない魔女だ。
今すぐ飛んで、行きたいのに。
悔しい、悔しい、悔しい。
開け放った玄関の向こう、夕焼け空を見上げたら、カモメが一羽飛んでいた。
……、ああ、そうだ。
「ソレージュ・パラモール……、えっと」
「キラリ? あんた、なにを」
「ソレージュ・パラモール・エサレイ・カッカ・ド・パーニャ……、違う、そうじゃなくて」
「ダメだよ、使ったことない魔法じゃないか! もしも戻れなくなったら」
おばあちゃんが止めたい理由がそれなのはわかってる。
だけど、私にはこれしか、これでしか!!
「ソレージュ・パラモール・エサレイ・ハネルーン・カッカ・ド・パーニャ!!」
飛んでいるカモメに人さし指を向け、祈るように呪文を呟いた。
う、うえええええ!?
目の前の風景が変わった瞬間に、体がガクンと傾いた。
見えたのはいつも泳いでた海。
一気に落ちる、落ちる、落ちる。
落ちちゃうー!!
「羽をうまく使いなよ、そんなんじゃすぐに落ちちゃうじゃないか」
隣をみたら、ホウキに乗ったおばあちゃんがいた。
「鳥はいつもどんな風に飛んでた? 想像してみてごらん? あまりに不格好な飛び方してたら、東京に着く前にバテてしまうから上手に飛びな?」
「う、うん」
前をみたら、カモメが飛んでいた。
私もその真似をして、羽を動かしてみた。
上手とまではいかなくても、ようやく浮上する、なんとか飛べそうだ。
「いきなり上級魔法使うんじゃないよ。意識の抜けたあんたの体はソファーに寝かせておいたけど、全くビックリするったら!!」
「ごめんなさい、おばあちゃん」
「いつの間にこんな魔法覚えてたのさ。さすがは希帆の子だ、大魔女になるね」
クスッと笑ったおばあちゃんが私にウィンクする。
「疲れたら、おばあちゃんの肩に乗りな?」
「おばあちゃんも一緒に行ってくれるの?」
「仕方ないだろ? 孫を一人で行かせられるかね! それに」
「それに?」
「希帆に会いたいのは私も同じだよ」
おばあちゃんの想いに感動して、一瞬羽ばたきを休んだらまた落下しそうになって怒られる。
だから私は、そりゃもう必死で羽を動かした。
カモメさん、本当にごめんなさい。
明日はきっとものすごい筋肉痛かもしれない。
私の中で眠っているカモメに謝った。
私はあの時飛んでいたカモメに意識を飛ばしたのだ。
そうしてカモメさんの体をのっとってしまった。
だけどこの魔法、失敗したら二度と人間の自分の体には戻れないのだ。
飛んでしまった意識はどこにも入ることができなく、一生彷徨うとも。
だから、おばあちゃんは心配したのだ。
「無謀なとこは希帆そっくりかもしれないね」
「そうかな? でも、ママには負けるかも」
時々、おばあちゃんの肩で休ませてもらいながら、海ほたるを眼下に東京湾を渡る。
電話を終えたおばあちゃんが、深刻な顔をしている。
私をチラリと確認し、少しだけ目が泳いだおばあちゃんに胸がザワザワし始めた。
「おばあちゃん?」
「キラリ、明日、希帆のお見舞いに行こうか?」
「なにが、あったの?」
重苦しい雰囲気に、心臓が早鳴る。
「病院から電話があったの。希帆の熱が下がらないって。もう四日も高熱でうなされてるみたいで、ね」
背筋にゾクリと寒気が走る。
だから、ずっとメッセージが来なかった、ううん、そんな元気がなかったからだ……。
『ちゃんと仲直りしろよ、キラリ』
さっきのキラの言葉を思い出したら、とっさに体が動いて玄関に走る。
「おばあちゃん、私、今から東京に戻る」
「戻るって? 面会時間は二十一時までだよ、間に合わない」
おばあちゃんも、慌てて私の後を追いかけてきた。
面会時間のこと、わかってた。
わかってるけどね?
「会いたいの、ママに。私、応援してるって伝えたいの。がんばって、って、ママ大好きだからね、って言いたいの」
仲直りしたいの。一目でいいから、ママに会いたいの。
今、言わないと、その想いに突き動かされてもう止まれない。
「だけど、ここからだと海でも渡らなきゃ間に合わないし。せめて、キラリがホウキを操れたなら良かったんだけど」
おばあちゃんの言葉に唇を噛みしめた。
まだまだ私は新米魔女だ。
飛べない魔女だ。
今すぐ飛んで、行きたいのに。
悔しい、悔しい、悔しい。
開け放った玄関の向こう、夕焼け空を見上げたら、カモメが一羽飛んでいた。
……、ああ、そうだ。
「ソレージュ・パラモール……、えっと」
「キラリ? あんた、なにを」
「ソレージュ・パラモール・エサレイ・カッカ・ド・パーニャ……、違う、そうじゃなくて」
「ダメだよ、使ったことない魔法じゃないか! もしも戻れなくなったら」
おばあちゃんが止めたい理由がそれなのはわかってる。
だけど、私にはこれしか、これでしか!!
「ソレージュ・パラモール・エサレイ・ハネルーン・カッカ・ド・パーニャ!!」
飛んでいるカモメに人さし指を向け、祈るように呪文を呟いた。
う、うえええええ!?
目の前の風景が変わった瞬間に、体がガクンと傾いた。
見えたのはいつも泳いでた海。
一気に落ちる、落ちる、落ちる。
落ちちゃうー!!
「羽をうまく使いなよ、そんなんじゃすぐに落ちちゃうじゃないか」
隣をみたら、ホウキに乗ったおばあちゃんがいた。
「鳥はいつもどんな風に飛んでた? 想像してみてごらん? あまりに不格好な飛び方してたら、東京に着く前にバテてしまうから上手に飛びな?」
「う、うん」
前をみたら、カモメが飛んでいた。
私もその真似をして、羽を動かしてみた。
上手とまではいかなくても、ようやく浮上する、なんとか飛べそうだ。
「いきなり上級魔法使うんじゃないよ。意識の抜けたあんたの体はソファーに寝かせておいたけど、全くビックリするったら!!」
「ごめんなさい、おばあちゃん」
「いつの間にこんな魔法覚えてたのさ。さすがは希帆の子だ、大魔女になるね」
クスッと笑ったおばあちゃんが私にウィンクする。
「疲れたら、おばあちゃんの肩に乗りな?」
「おばあちゃんも一緒に行ってくれるの?」
「仕方ないだろ? 孫を一人で行かせられるかね! それに」
「それに?」
「希帆に会いたいのは私も同じだよ」
おばあちゃんの想いに感動して、一瞬羽ばたきを休んだらまた落下しそうになって怒られる。
だから私は、そりゃもう必死で羽を動かした。
カモメさん、本当にごめんなさい。
明日はきっとものすごい筋肉痛かもしれない。
私の中で眠っているカモメに謝った。
私はあの時飛んでいたカモメに意識を飛ばしたのだ。
そうしてカモメさんの体をのっとってしまった。
だけどこの魔法、失敗したら二度と人間の自分の体には戻れないのだ。
飛んでしまった意識はどこにも入ることができなく、一生彷徨うとも。
だから、おばあちゃんは心配したのだ。
「無謀なとこは希帆そっくりかもしれないね」
「そうかな? でも、ママには負けるかも」
時々、おばあちゃんの肩で休ませてもらいながら、海ほたるを眼下に東京湾を渡る。
1
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
今、この瞬間を走りゆく
佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】
皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!
小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。
「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」
合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──
ひと夏の冒険ファンタジー
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
【運命】と言われて困っています
桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。
遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。
男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。
あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。
そんな彼が彩花にささやいた。
「やっと会えたね」
初めましてだと思うんだけど?
戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。
彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。
しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。
どういうこと⁉
突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~
ミズメ
児童書・童話
動画配信を視聴するのが大好きな市山ひなは、みんなより背が高すぎることがコンプレックスの小学生。
周りの目を気にしていたひなは、ある日突然お隣さんに預けられることになってしまった。
そこは幼なじみでもある志水蒼太(しみずそうた)くんのおうちだった。
どうやら蒼太くんには秘密があって……!?
身長コンプレックスもちの優しい女の子✖️好きな子の前では背伸びをしたい男の子…を見守る愉快なメンバーで繰り広げるドタバタラブコメ!
あいつは悪魔王子!~悪魔王子召喚!?追いかけ鬼をやっつけろ!~
とらんぽりんまる
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞、奨励賞受賞】ありがとうございました!
主人公の光は、小学校五年生の女の子。
光は魔術や不思議な事が大好きで友達と魔術クラブを作って活動していたが、ある日メンバーの三人がクラブをやめると言い出した。
その日はちょうど、召喚魔法をするのに一番の日だったのに!
一人で裏山に登り、光は召喚魔法を発動!
でも、なんにも出て来ない……その時、子ども達の間で噂になってる『追いかけ鬼』に襲われた!
それを助けてくれたのは、まさかの悪魔王子!?
人間界へ遊びに来たという悪魔王子は、人間のフリをして光の家から小学校へ!?
追いかけ鬼に命を狙われた光はどうなる!?
※稚拙ながら挿絵あり〼
転んでもタダでは起きないシンデレラ
夕景あき
児童書・童話
ネズミから人の姿に戻る為には、シンデレラに惚れてもらうしかないらしい!?
果たして、シンデレラはイケメン王子ではなくネズミに惚れてくれるのだろうか?·····いや、どう考えても無理だよ!というお話。
限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです
釈 余白(しやく)
児童書・童話
現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。
妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。
この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。
※外伝
・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298
※当作品は完全なフィクションです。
登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。
事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。
当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる