魔法少女はまだ翔べない

東 里胡

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八月五日金曜日~長雨のち「夏休み後半」

夏休み後半⑨

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 ようやくママの病院に辿り着いたのは、深夜近く。
 おばあちゃんも私も潮風と埃でボロボロだった。

「おばあちゃん、ごめんね? 疲れたよね?」
「大丈夫! おばあちゃんには回復の魔法があるからね。でも、自分にしか使えないのがね……。キラリは若いから眠れば回復できるんだけど。今こそ、希帆に使うことができればいいのに」

 哀しそうなおばあちゃんの呟きは、ママには届かないだろう。
 二人で覗き込んだ窓の向こう、ママは額に汗をいっぱいかいて眠っていた。
 その横で心配そうにママの手を握るのは、沢田さんだった。
 沢田さんや、看護師さんや、普通の人たちには、私たちの姿は見えていないらしい。
 沢田さんはベッドサイドから何かを取り出した。
 写真立て? あ、私の写真!?
 それをママの手にそっと握らせる。
 がんばれって沢田さんの声が聞こえてきそうで、胸が詰まる。

 ママ、ごめんね? 
 大嫌いなんて、本当は全然思ってないんだよ? 
 大好きなんだよ?
 だから、元気になって?
 また私のこと叱っていいから、たまにならおばあちゃんとケンカしてもいいから。
 だって、ママはそういう人なんだから。
 いつだって明るくて豪快で、だけど寂しがり屋で意地っ張りで。
 一生懸命、私を育ててくれた。
 ママなりの愛をいっぱいいっぱい注いでくれた。
 だから、ねえ、頑張って!!
 病気になんか負けないで!!
 
「ママ、頑張って!!」

 聞こえるわけがないのに、気づけばそう叫んでいた。
 その時、だった。
 
「ママ……?」

 ママの目が開いた。
 まるで私の声が聞こえたみたいに、ゆっくりとこっちを見てそれから笑う。
 沢田さんはママの様子に驚いてナースコールを鳴らした。

「もう、大丈夫みたいだよ」

 おばあちゃんがその様子にホッとした顔を覗かせる。

「ママ、良かった。本当に、良かった」

 また私の声が聞こえたように、ママは微笑んで親指をそっと立てる。
 大丈夫、ママは大丈夫だよ、って私に伝えてくれるみたいに。

「うん、もう大丈夫だね」

 涙声のおばあちゃんに、抱きしめられて私も泣いた。





 ママの退院が決まったのは、その一週間後だった。
 あの翌日『おはよー! 昨日は、キラリとおばあちゃんの夢を見たよ』なんて、呑気なメッセージが届いて、おばあちゃんも私もどっと疲れながらも笑い合った。

「おばあちゃん」
「私、ママとちゃんと話して来ようと思うの」
「そうかい。うん、そうだね? 仲直りしないとね」
「うん、仲直りしたい」

 何度も何度も頷いたおばあちゃんは、そっと私の肩を抱いた。

「寂しくなるね、キラリがいないと」
「おばあちゃん、私は」
「また遊びにおいで? ちゃんと希帆の許可を貰ってね?」

 おばあちゃんの顔が歪んで見えた。
 寂しくなる、その言葉は全部私の方なのに。

「また来るから」

 おばあちゃんの胸の中で小さな子供みたいにわんわん泣いた。
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