あきらめきれない恋をした

東 里胡

文字の大きさ
上 下
2 / 72
*再会は突然に*

恋をしました1

しおりを挟む
花菜ハナ、どう? いる?」

 今年は暖かかったせいか、入学式よりも前に桜の花は散ってしまった。
 新しい始まりは新緑の匂いと、五月の空みたいな澄んだスカイブルー。
 丘の上にある市立春日丘高校一年D組、本日より私のクラス。
 教室の入り口から顔だけを覗かせて、キョロキョロとこれから三年間お世話になるクラスメートたちを見回した。
 
「う~ん……、いない気がする」

 ――あの日、優しい笑顔で私を助けてくれた人。

 探し人が見つからないことに、肩を落とす。
 もしかしたら、同じクラスだったりして。
 そうしたら、あの出会いは『運命』なんじゃないかって。

 わかってる、『運命』なんて、そんなお手軽で都合の良いものではないってこと。
 まして彼がこの高校に受かっているかどうかすら、わかってはいない。
 名前も知らない、一度しか会ったことのない、あの人――。

 一学年五クラスもある中で、幼馴染の琉伽ルカと同じクラスになったことだけでも奇跡だもの。
 ん? もしかしたら、そこでもう今年の運は使い果たしたのかもしれないけれどね。

 ……もう一度、彼に会いたいな。
 あの時のお礼を伝えたかった。
 あまりにもわかりやすく、私の心の声は、顔にれ出てしまっていたようだ。

「後で違うクラスも探してみようよ、ハナ」

 めげるなと言うように私の背中をポンポンと叩き、はげましてくれるルカに頷く。
 そうだね、諦めが悪いのが私だもの。
 もしかしたら他のクラスにいる可能性だってあるし、その確率の方がきっと高いもん。
 ポケットの中のお守りを握りしめて、もう一度気合を入れ直したその時だった。

「あのさ、そこ邪魔なんだけど?」

 背中からかかる声に、振り向く。
 声の主の顔を確認した瞬間に、時間が止まってしまったような気がした。

 癖のある毛先の跳ねた黒髪、少しつり上がった猫のような目、その右側にある小さな泣きぼくろ。
 あの時と同じように私を見下ろす、その視線。
 あの人だ――。

 感動のあまり彼の顔を食い入るように見上げていた私を、聞こえていないのか? と怪訝けげんな顔で見下ろしていることにハッとした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

宇佐美くんと辰巳さん〜人生で一番大変だったある年越しの話

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:653pt お気に入り:1

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:207,832pt お気に入り:12,351

ダイニングキッチン『最後に晩餐』

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,988pt お気に入り:1

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:809pt お気に入り:1

転生チートは家族のために~ ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:27,094pt お気に入り:503

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:153,808pt お気に入り:8,002

モグラのナターシャ

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:3

処理中です...