あきらめきれない恋をした

東 里胡

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*気付かれないように*

バレちゃいました1

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 六月初め。
 梅雨の合間を縫って、赤点が無かった真宙くんのご褒美デイが決行された。
 メンバーは私と真宙くんだけ。

『ルカっちにも内緒ね』

 ペロリと舌を出して笑うその楽し気な顔に、約束だもんね、と頷いた。
 待ち合わせたのは海に続く路面電車の始発駅。

「おはよ、真宙くん」
「おはよー! ハナちゃん」

 友達とデートみたいで恥ずかしくなる今更感。
 四人で並んで歩く時は、私はルカか空人くんの隣ばかりで。
 こうして真宙くんと並んで歩くことがあまりないから照れくさい。

「ワンピース、可愛いね、ハナちゃん」

 何よ、自分がリクエストしてきたくせに。
 海に似合うワンピースなんて難しいリクエストまでされた。
 おかげで先週ママと買い物に行ったついでに、購入してしまったじゃないか。
 白地に小花模様がついた、シャツワンピだ。
 可愛いからいいけどさ。
 誰かに言われると恥ずかしくなる。
 真宙くんのご褒美というのは、海辺で私の写真を撮らせて、だった。
 即答で無理だと断る私と一歩も引かない真宙くん。
 しかも。

『お願い、お願い、今度はハナちゃんの言うこと何でも聞くから一回だけ付き合って! お願い』

 なんて手をスリスリして泣きそうな顔で。
 そんなんされたら、仕方がないと頷くしかなかった。
 いいもん、私が困った時は真宙くんに助けてもらうんだから。

 路面電車に乗って五つ目、高校前と書かれた停車場で降りると、目の前には海が広がっている。

「こっちに来たの久しぶり」
「私は三ヶ月ぶりかな」

 潮風が顔にあたる嬉しさに思わず顔を緩ませてしまってから。

「良かった、ハナちゃんも楽しそうで」

 なんて言うから、慌てて笑顔を引っ込めようとしたけれど。
 でも、いいか。
 海は好き、大好き。
 私はこの景色に何度も救われた気がするもん。
 今日はスマホじゃなく、一眼レフをぶら下げた真宙くん。
 無理にポーズはとらなくてもいいよと、言ってくれたので砂山を作りながら真宙くんとおしゃべりをした。

「あそこに、病院あるの見える? 真宙くん」

 ひと駅前の停車場、丘の上にそびえたつこの辺りでは一番大きな大学病院。
 私たちの町にもその分院があるけれど、本院はこっち。

「私さ、ちっちゃい頃半年くらいここに入院してたの」
「え? なんで?!」
「ちょっとね、生まれつきの病気。今はもう大丈夫なんだよ?」

 安心させるように笑ったら真宙くんも安心したようだ。

「空人もちっちゃい頃入院してたんだよな。確か分院の方に」
「残念、私も分院が良かったなあ。家からも近かったし、空人くんもいたなら」
「空人いたから、じゃないの?」
「……、真宙くん、イジワルすぎる」

 ベエっと舌を出した顔は、真宙くんのカメラに切り取られた。
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