あきらめきれない恋をした

東 里胡

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*気付かれないように*

敵いませんでした4

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 気付かず皆は先に進んで行ったけれど、今はそれがありがたかったりする。

「ちっちゃい頃から遊んでた友達が、女の子と手を繋いで歩く姿を見るのは何だか気持ち悪い」

 冗談めかした真宙くんにき出す。

「じゃあ、これはなに?」

 私の右手を握る真宙くんの手を持ち上げたら。

「……、これは、迷子防止です」
「なりません~、なったとしても一人で帰れます!」
「ハナちゃん、冷たい。いいじゃん、こういう時はさ? カップルの真似事みたいなのしても!」
「やだよ、真宙くんと噂になりたくないからね? 知ってる? 案外モテるんだよ、真宙くんって」
「そうみたい! 坊主じゃなくなったらモテ始めた」

 自分で言ってるよ、と苦笑いしながら注文したりんご飴を一本ずつ受け取って皆が歩いて行った方向に歩き出す。
 さすがに食べづらいからと手を離して、お祭りの賑わう様に浸りながら歩き回る。
 少し夏の息苦しさが混じった、ねっとりとした風。
 赤と白の幕や、たくさんの行灯が優しい色で辺りを照らす。
 ざわざわと楽しそうな会話が聞こえてきて、子供たちが走り回って。
 美味しそうな匂いがあちこちから漂ってくる。
 お祭りのかもし出す独特の空気を楽しんだ。

「しんどくない? ハナちゃん」
「ん? 体? 大丈夫だよ」
「そうじゃなくて」

 そうじゃなくて? ……空人くんのこと?

「真宙くん、前に言ってたでしょ? 私はあきらめ方を知らないんじゃないかって。確かにそうなの。だって昔から必死に願ってれば叶うことがいっぱいあって、だからあきらめが悪くなったし自分からあきらめきれない」

 そんなのは生まれ落ちたなにかに対して失礼なんじゃないかって思ってた。
 辛いから、悲しいから、寂しいから、しんどいから。
 あきらめる理由なんか、いっぱいあって。
 だけど、私はあきらめなかったから今ここにいるって、ずっとそう思っていたけれど。

「願っても叶わないものがあることは知ってるの。でも全力でそれに向かってれば、どこか区切りのいいところで『よく頑張った、もう満足』って思うことができてたんだよ」

 今までは、それが見えていたはずなのに。

「なのに、どうしてかな……、空人くんのことは、どこまで行ってもそれが見えないんだ……」

 カリッと齧った飴の奥、甘酸っぱいりんごがあるのに。
 サクリとしたその感触を味わうことができなくて、必死に齧りついてそれを求めた。
 さっき見た空人くんと春香先輩の姿が目に焼き付いている。
 空人くんの手を私も握ってみたい。

「もしも俺が」

 真宙くんの声に顔をあげたら。

「『もうハナちゃんは頑張ったから、ここまででいいよ。よく頑張った』って止めたら、ハナちゃんは空人のことあきらめるのかな?」
「真宙くんが止めたら?」

 その言葉の意味がわからずに真宙くんの目を見たら困ったような顔をした。

「ハナちゃんは可愛い顔してホンット残酷」

 イーッと顔を歪ませて私の頬をつねる真宙くんに、私もイーッと歯を食いしばる。
 ……、気付きたくない、きっと気のせいだ。
 
「真宙くんっ、真宙くんっ!!」

 どこかで聞こえたその声に周りを見渡すと、神社の灯篭の側で立ち尽くしている春香先輩がいた。

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