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*白い世界*
皆やさしいんです3
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「二宮、ごめんな。俺知らなくて。御崎に行ったのもきっと疲れちゃった原因だよな」
「違うって言ったでしょ。私も散歩しすぎちゃったし。実は今朝微熱があって、でも皆に会いたくて無理しちゃったの。ごめんなさい」
「でも俺が無理やり御崎に連れて行ったりしなきゃ、」
切なそうに顔を歪ませた空人くんの言葉を遮る。
「無理やりなんかじゃなかった! 私ね、楽しかったんだよ、御崎に行ったの。だって家族も、ルカも。真宙くんや梶くんだって事情知ってたから、だから遊びに行こうなんて誘われなくて」
本当は私だって皆と一緒に遊びたかった。
もっともっと高1の夏を皆と過ごしたかった。
「だから空人くんが知らないでいてくれて良かった、って思った。だって知ってたら空人くんだって遠慮しちゃって誘ってくれなかったでしょ? 今年の夏一番の私のイベントはタコパよりも御崎だったの。皆には内緒にしてね?」
恥ずかしくて布団を顔半分まで手繰り寄せて目だけで空人くんに笑いかけた。
気にしないで欲しいんだ。
「二宮、」
「うん?」
「二宮の病気って、もしかして。俺と一緒?」
空人くんが、トントンと自分の心臓を指さす。
もう、いいか、と私も覚悟を決めて頷いて。
「そうなの、お揃いだね」
っておどけて笑ったら。
「こんなんお揃いなんか嫌だろ」
と泣きそうな顔をして、無理やりに笑ってくれた。
「手術は?」
「したよ、ちっちゃい時に」
手術後、意識が戻るのに1週間もかかったせいか、当の本人は手術したことすらも覚えてなかった。
最も倒れての緊急手術だったから、そのせいもあるかもしれないけれど。
「俺だってしたのに、何で二宮だけがずっと定期健診なの? なんでまだ倒れたりすんの?」
どうして? と唇を噛みしめる空人くんに首を傾げて笑った。
「私、ワガママだし、今までいっぱい遊んだし、結構活発だし。そんなんだから心臓も疲れちゃうんだと思う」
「なんで、二宮は!」
「え?」
「二宮は、もっともっと俺や真宙や安西とゲラゲラ笑って遊ぶべきだし。活発って、そんな青白い顔のやつが言うか? 全然もっとワガママでいいくらいだし、てか言えよ! 二宮のワガママなら全部俺が聞いてやるから! あれ、……ちょっと待って、」
空人くんは一気にまくし立てる様に私を怒っていたはずなのに。
クルリと私に背中を向けた後でハンカチで顔を拭っている。
そっと伸ばした手が空人くんの背中に触れるとビクリと身体を震わせる。
「泣いてないってば」
「何も言ってないよ」
笑いながら私も泣いた。
それから三日間、私は高熱との闘いだった。
心臓に負担がかかってしまわないように、強い解熱剤は使えないから仕方ない。
そのいつ終わるともわからない戦いは、確実に私の体力を容赦なく奪い去っていった。
パパやママのどっちかは、夜以外は常に私に付き添ってくれていた。
つまりそれぐらい私が危険だったってことだろう。
空人くんから聞いたのだろう、ルカや真宙くんや時には梶くんまで励ましのメッセージを送ってくれたけれど読むのが精一杯。
皆からのメッセージにはスタンプぐらいしか返せずにいたのが悔しい。
いよいよ、私の気力も限界かも、って思った四日目の朝体が昨日よりも楽になっているのに気付いて。
検温をしたら36.8。
大丈夫とは言い切れないけれど、一先ず山は越したようだった。
先生からの病状説明がその日のうちにあった。
「夏前の検査でね、ハナちゃんの心臓にまた孔《あな》が開いているのが見つかって、今かなりしんどいでしょ? 身体。だから安静に、ってお話したと思うんだけど。進行の度合いが僕が思っていたよりもちょっと早かったみたいなんだ」
小さい時の手術は心臓の孔を塞ぐ手術、元々の自分の奇形を整形した手術。
けれど、そこに負荷がかかり最初の時よりも、孔が開いてしまったらしいこと。
そして。
「同時にドナー登録もしたいんだ、ハナちゃん」
小さい頃からずっと私の担当医である岡田先生はいつも優しくて冗談ばっかり言っているけれど。
こればっかりは冗談なんかじゃなくって本気なんだな、と目を見てわかった。
「手術は夏の終り、それまでに体力を回復してもらわないといけないしドナーが見つかればそれよりも先に」
歯の奥に何か挟まってるみたいで苦しそうな顔。
以前可能性があるって言っていた合併症のせい?
ドナーだなんて、そんなにも緊急性が高いものなの?
先にその説明を聞いていたのかパパやママは私の前で動揺を見せようとはしなかった。
「手術なんかやだって言ったら、」
私の言葉に全員凍り付いたような顔をしたから。
「冗談です、ちゃんと受けます」
少しだけ微笑んだら皆心底ホッとしたような顔をするんだもん。
わかっちゃうよ、それじゃ。
自分の体だもん、わかっちゃうんだよ。
ドナーが見つからなかった場合の手術は、きっと――。
「違うって言ったでしょ。私も散歩しすぎちゃったし。実は今朝微熱があって、でも皆に会いたくて無理しちゃったの。ごめんなさい」
「でも俺が無理やり御崎に連れて行ったりしなきゃ、」
切なそうに顔を歪ませた空人くんの言葉を遮る。
「無理やりなんかじゃなかった! 私ね、楽しかったんだよ、御崎に行ったの。だって家族も、ルカも。真宙くんや梶くんだって事情知ってたから、だから遊びに行こうなんて誘われなくて」
本当は私だって皆と一緒に遊びたかった。
もっともっと高1の夏を皆と過ごしたかった。
「だから空人くんが知らないでいてくれて良かった、って思った。だって知ってたら空人くんだって遠慮しちゃって誘ってくれなかったでしょ? 今年の夏一番の私のイベントはタコパよりも御崎だったの。皆には内緒にしてね?」
恥ずかしくて布団を顔半分まで手繰り寄せて目だけで空人くんに笑いかけた。
気にしないで欲しいんだ。
「二宮、」
「うん?」
「二宮の病気って、もしかして。俺と一緒?」
空人くんが、トントンと自分の心臓を指さす。
もう、いいか、と私も覚悟を決めて頷いて。
「そうなの、お揃いだね」
っておどけて笑ったら。
「こんなんお揃いなんか嫌だろ」
と泣きそうな顔をして、無理やりに笑ってくれた。
「手術は?」
「したよ、ちっちゃい時に」
手術後、意識が戻るのに1週間もかかったせいか、当の本人は手術したことすらも覚えてなかった。
最も倒れての緊急手術だったから、そのせいもあるかもしれないけれど。
「俺だってしたのに、何で二宮だけがずっと定期健診なの? なんでまだ倒れたりすんの?」
どうして? と唇を噛みしめる空人くんに首を傾げて笑った。
「私、ワガママだし、今までいっぱい遊んだし、結構活発だし。そんなんだから心臓も疲れちゃうんだと思う」
「なんで、二宮は!」
「え?」
「二宮は、もっともっと俺や真宙や安西とゲラゲラ笑って遊ぶべきだし。活発って、そんな青白い顔のやつが言うか? 全然もっとワガママでいいくらいだし、てか言えよ! 二宮のワガママなら全部俺が聞いてやるから! あれ、……ちょっと待って、」
空人くんは一気にまくし立てる様に私を怒っていたはずなのに。
クルリと私に背中を向けた後でハンカチで顔を拭っている。
そっと伸ばした手が空人くんの背中に触れるとビクリと身体を震わせる。
「泣いてないってば」
「何も言ってないよ」
笑いながら私も泣いた。
それから三日間、私は高熱との闘いだった。
心臓に負担がかかってしまわないように、強い解熱剤は使えないから仕方ない。
そのいつ終わるともわからない戦いは、確実に私の体力を容赦なく奪い去っていった。
パパやママのどっちかは、夜以外は常に私に付き添ってくれていた。
つまりそれぐらい私が危険だったってことだろう。
空人くんから聞いたのだろう、ルカや真宙くんや時には梶くんまで励ましのメッセージを送ってくれたけれど読むのが精一杯。
皆からのメッセージにはスタンプぐらいしか返せずにいたのが悔しい。
いよいよ、私の気力も限界かも、って思った四日目の朝体が昨日よりも楽になっているのに気付いて。
検温をしたら36.8。
大丈夫とは言い切れないけれど、一先ず山は越したようだった。
先生からの病状説明がその日のうちにあった。
「夏前の検査でね、ハナちゃんの心臓にまた孔《あな》が開いているのが見つかって、今かなりしんどいでしょ? 身体。だから安静に、ってお話したと思うんだけど。進行の度合いが僕が思っていたよりもちょっと早かったみたいなんだ」
小さい時の手術は心臓の孔を塞ぐ手術、元々の自分の奇形を整形した手術。
けれど、そこに負荷がかかり最初の時よりも、孔が開いてしまったらしいこと。
そして。
「同時にドナー登録もしたいんだ、ハナちゃん」
小さい頃からずっと私の担当医である岡田先生はいつも優しくて冗談ばっかり言っているけれど。
こればっかりは冗談なんかじゃなくって本気なんだな、と目を見てわかった。
「手術は夏の終り、それまでに体力を回復してもらわないといけないしドナーが見つかればそれよりも先に」
歯の奥に何か挟まってるみたいで苦しそうな顔。
以前可能性があるって言っていた合併症のせい?
ドナーだなんて、そんなにも緊急性が高いものなの?
先にその説明を聞いていたのかパパやママは私の前で動揺を見せようとはしなかった。
「手術なんかやだって言ったら、」
私の言葉に全員凍り付いたような顔をしたから。
「冗談です、ちゃんと受けます」
少しだけ微笑んだら皆心底ホッとしたような顔をするんだもん。
わかっちゃうよ、それじゃ。
自分の体だもん、わかっちゃうんだよ。
ドナーが見つからなかった場合の手術は、きっと――。
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