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*白い世界*
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「ねえ、ミイラみたいよ」
オブラートに包もうとしない春香先輩の言葉に絶句していると。
「冗談よ」
リクライニングベッドで身体を起こした私がどうぞと言う前に、先輩は椅子に座ってしまう。
先輩、そんな冗談全然笑えません、確かに入院してから体重は三キロも落ちてしまったから。
春香先輩が宣言通りやってきたのは、熱が治まってから二日目のことだった。
「シュークリーム食べれる?」
「う、少しだけなら」
「だったら、あとは家族か友達か佐々木さんにでもあげてよ」
食台の下に備え付けられた冷蔵庫に箱ごと片付けてくれた春香先輩。
「春香先輩は、その、昔私と」
「やっと思い出したの? こっちはあんたの顔見てからずっとムカついてたんだけど」
「ごめんなさい、思い出したわけじゃなくって。佐々木さんに聞いて」
「あ、っそう、そっか。覚えてないんだってね、あの頃の記憶」
「はい、飛び飛びで。なんとなくあやふやなんですよね」
ふうん、と私を値踏みするように見て。
「ズルイわ、あんなに人のこと叩いておいて」
「そ、そんなにですか?」
「そうよ、私なんかほっぺに引っかき傷がずっと残ってたんだから。今は消えたけど」
「でも、先輩も私を引っ掻いたって聞いてますよ?」
「だってやられたらやり返すでしょうよ、何よ、本当に昔も今も腹が立つわ」
ふんっと頬っぺたをパンパンに膨らまして、それを一気に吐き出してから。
「……根に持ちすぎよね、あんなちっちゃい頃の話」
「いえっ」
「夏祭りの日のことはずっと後悔してて、いつかちゃんと謝らなきゃって思ってたのに。あんたの……二宮さんの顔見る度にムカッとしちゃって。色々無茶なこと言ってごめん」
空人くんを取らないで、って言ったことかな?
それなら全然無茶なことじゃない。
首を振る私を見て、更に大きく頭を振って。
「とっくに私は空人に振られてるんだもん、二宮さんに空人を取るな、なんて言う権利なかった」
あはは、と笑う春香先輩を見ていたら、それがカラ元気に思えてきて。
「ちょ、泣かないでよ?! 私が泣かせたみたいに思われるじゃない!! 佐々木さんが来たら叱られるの私じゃん! 止めてよね」
近場のボックスティッシュごと私に手渡してくれるから、ごめんなさいと涙を拭いた。
「私ね、ちっちゃい頃喘息が酷かったの。発作が強い時なんかは入院させられてて。そんな時に、あんた達に会ったの」
あんた達?
「やっぱり、それも覚えてないのかあ。二宮さんと空人、あんた達があまりに仲良しだからちょっと嫉妬してた」
私、と。空人くん?
驚き春香先輩の顔を見ていたら。
「まだ気づいてないの? はーちゃん」
春香先輩からの、『はーちゃん』呼びにやっぱり首を傾げる私に大きなため息をついて。
「仕方ないのかあ、だってその頃のこと覚えてないんでしょ? 私だってそれがあんただった、なんて見ていないからハッキリは言えないけれどね? 空人が言っていた『はーちゃん』は、二宮さんだと思うよ」
衝撃的な話なのにどこか他人事のように思えるのは、記憶のせいか。
「ねえ、聞いてる? あんただと思うのよ、空人の探していた『はーちゃん』は」
記憶の中、夢の中、混濁した私の創り出した記憶には。
いつだって、あの子がいた。
『怖いよ』って泣きじゃくってた、あの子。
右目の下に泣きボクロのある、可愛い、
「空ちゃん、」
私の呟きに春香先輩は一瞬驚いた顔をして。
「確かに、あんたは空人のことそう呼んでたかも! 空ちゃんって、まるで女の子みたいよね」
クスクスと笑い出す春香先輩に。
「女の子だと思ってた」
私も笑い出す。
だって空ちゃんはとっても可愛くて。
だから私が守ってあげなくちゃって。
あれは夢じゃなくて、ちゃんとした私の記憶だったのか。
オブラートに包もうとしない春香先輩の言葉に絶句していると。
「冗談よ」
リクライニングベッドで身体を起こした私がどうぞと言う前に、先輩は椅子に座ってしまう。
先輩、そんな冗談全然笑えません、確かに入院してから体重は三キロも落ちてしまったから。
春香先輩が宣言通りやってきたのは、熱が治まってから二日目のことだった。
「シュークリーム食べれる?」
「う、少しだけなら」
「だったら、あとは家族か友達か佐々木さんにでもあげてよ」
食台の下に備え付けられた冷蔵庫に箱ごと片付けてくれた春香先輩。
「春香先輩は、その、昔私と」
「やっと思い出したの? こっちはあんたの顔見てからずっとムカついてたんだけど」
「ごめんなさい、思い出したわけじゃなくって。佐々木さんに聞いて」
「あ、っそう、そっか。覚えてないんだってね、あの頃の記憶」
「はい、飛び飛びで。なんとなくあやふやなんですよね」
ふうん、と私を値踏みするように見て。
「ズルイわ、あんなに人のこと叩いておいて」
「そ、そんなにですか?」
「そうよ、私なんかほっぺに引っかき傷がずっと残ってたんだから。今は消えたけど」
「でも、先輩も私を引っ掻いたって聞いてますよ?」
「だってやられたらやり返すでしょうよ、何よ、本当に昔も今も腹が立つわ」
ふんっと頬っぺたをパンパンに膨らまして、それを一気に吐き出してから。
「……根に持ちすぎよね、あんなちっちゃい頃の話」
「いえっ」
「夏祭りの日のことはずっと後悔してて、いつかちゃんと謝らなきゃって思ってたのに。あんたの……二宮さんの顔見る度にムカッとしちゃって。色々無茶なこと言ってごめん」
空人くんを取らないで、って言ったことかな?
それなら全然無茶なことじゃない。
首を振る私を見て、更に大きく頭を振って。
「とっくに私は空人に振られてるんだもん、二宮さんに空人を取るな、なんて言う権利なかった」
あはは、と笑う春香先輩を見ていたら、それがカラ元気に思えてきて。
「ちょ、泣かないでよ?! 私が泣かせたみたいに思われるじゃない!! 佐々木さんが来たら叱られるの私じゃん! 止めてよね」
近場のボックスティッシュごと私に手渡してくれるから、ごめんなさいと涙を拭いた。
「私ね、ちっちゃい頃喘息が酷かったの。発作が強い時なんかは入院させられてて。そんな時に、あんた達に会ったの」
あんた達?
「やっぱり、それも覚えてないのかあ。二宮さんと空人、あんた達があまりに仲良しだからちょっと嫉妬してた」
私、と。空人くん?
驚き春香先輩の顔を見ていたら。
「まだ気づいてないの? はーちゃん」
春香先輩からの、『はーちゃん』呼びにやっぱり首を傾げる私に大きなため息をついて。
「仕方ないのかあ、だってその頃のこと覚えてないんでしょ? 私だってそれがあんただった、なんて見ていないからハッキリは言えないけれどね? 空人が言っていた『はーちゃん』は、二宮さんだと思うよ」
衝撃的な話なのにどこか他人事のように思えるのは、記憶のせいか。
「ねえ、聞いてる? あんただと思うのよ、空人の探していた『はーちゃん』は」
記憶の中、夢の中、混濁した私の創り出した記憶には。
いつだって、あの子がいた。
『怖いよ』って泣きじゃくってた、あの子。
右目の下に泣きボクロのある、可愛い、
「空ちゃん、」
私の呟きに春香先輩は一瞬驚いた顔をして。
「確かに、あんたは空人のことそう呼んでたかも! 空ちゃんって、まるで女の子みたいよね」
クスクスと笑い出す春香先輩に。
「女の子だと思ってた」
私も笑い出す。
だって空ちゃんはとっても可愛くて。
だから私が守ってあげなくちゃって。
あれは夢じゃなくて、ちゃんとした私の記憶だったのか。
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