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第二章

16話

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「イヤ!離して下さい!ねぇ!離して!!誰かぁ!……」

 一瞬、恋人か夫婦喧嘩かと思ったがどうやら違ったようだ。このままこの場を去るのは後味が悪そうだ。
 いつでも戦闘服に着替えられるようにして、ハンドガン【FN Five-seveN】を持っておく。街中なのでサプレッサーも装着済みだ。
 武器を持って近づくのは本来ならばマズいが、この世界の人は銃を見ても武器とは思わないだろう。

 脇道を進み角を曲がると、7~8m位先で、男が2人して1人の女の子を取り囲んでいた。
 俺の左伝いの壁に女の子が押さえつけられている。そして、女の子の正面と、俺から見て女の子の向こう側に男がそれぞれ1人ずついた。

 正面の男が女の子の手を右手で押さえ、左手で口を塞いで壁に押しつけている。さっきの大声を出した後に口を塞いだのか?
 急に現れた俺に男達の視線が向く。その一瞬をついて女の子が男の手を振り解き、こちらへ逃げてくる。

「お願いします!助けて下さい!!」

 助けを求めながら走ってきた女の子を、俺は背中に庇い男達と対峙する。

「何があったの?あの人達は知り合い?」
「違います!この道を歩いていたら声をかけられて、急に腕を握られて」

 女の子は首を横に振りながら答える。俺の背中を握りしめている手が震えている。

「なんだぁおまえは。フン!見習い冒険者かよ。ガキはすっこんでな。どけねぇと……」

 と言って男は自分の腰にある剣へ手を伸ばす。つまり女の子を渡さなければ斬るぞと。

 ……って、どこの時代劇だよ……

 そう思った俺は思わずため息が出てしまった。

「ハァ~」
「っ!テメエ!死ねやぁ!」
「キャァァ!」

 俺のため息で自分達が嘲笑われていると感じた男は剣を抜いて襲いかかってきた。

 うわ!気の短い奴だな!

 剣を抜いて俺に突っ込んできたが、道幅は2m程しかないので男達は1人ずつ俺へ襲いかかる形になってしまっていた。
 俺は直ぐに戦闘服に着替えて、銃を手前の男に向かって構えて直ぐに発砲。

ー タンッ  タンッ  タンッ  タンッ     タンッ ー

 遠慮なく狙いやすい胴体を狙って撃たれた弾丸は、至近距離と言うこともあり全弾命中した。
 そして最後の1発だけ頭部に当てとどめを刺した。

 先に剣を抜いたのは向こうだ。俺は剣は・・抜いていないから正当防衛だ……きっと。

 そんなことを考えている間に、頭をぶち抜かれた男はその場で動きを止めうつぶせに倒れた。

 その男の斜め後ろにいたもう1人の男は、目の前の仲間がいきなり倒れたため何が起きたか分からず立ち尽くしてしまった。

 おいおい、敵の前で動きを止めるとか具の骨頂!

 動きの止まった男の頭部に狙いを定めて、こちらも遠慮なく引き金を引く。

ー タンッ ー

 立ち尽くしていた男は頭から血飛沫を上げて後ろへ倒れた。
 殺さなくても手前の男を倒した時点でもう一人の男はきっと逃げただろう。
 だが俺は逃がす気はなかった。
 襲ってきた相手を全て殺さなければ、後々に仲間達と報復にくる可能性もあり得るからだ。

 俺は男達の死体をアイテムボックスに入れて、他の仲間や目撃者がいないかを危険察知で確かめた。
 反応はないので仲間もいないようだ。
 FN Five-seveNをアイテムボックスに入れて服もレザーアーマーに戻す。

 後ろへ振り向くと、助けた女の子が両手で顔を覆い、ブルブルと震えながら座り込んで泣いていた。

 見た感じ怪我もないようだな……。

 乗りかかった船だから、この子を家まで送ってから帰ることにする。

「キミ、大丈夫?怪我とかしてない?歩ける?心配だから家まで送っていくね」
「はい、大丈夫です。あ、あの、ありがとうございました」

 怪我もなくて何より。後は……

「いえいえ。怪我もなくてなにより。それでね、お願いがあるんだけど、襲ってきた奴らを倒した方法を、人に言わないで欲しいんだ」

 今回は助けるために人前で使用したが、この世界にはあってはいけない武器を使っているのを、人に知られるわけにはいかない。いずれはバレるだろうが、今は知られたくはない。

「分かりました。誰にも言いません」
「ありがとう。それで、キミのうちはどの辺りなの?」
「え?あ、あの、私、薬剤店の者です。昨日来られましたよね?」

 そう言われて、女の子の顔をよく見る。

 あ、ほんとだ。これは失礼をしました。

「あ、あなたでしたか。そうですか、それなら薬剤店までお送りしますよ」

 店までの道すがら、彼女から事情を聞く。

 店の使いであの先の家へ品物を届けに行った帰り道に、あの男達に捕まったと。腕を捕まれたので、大声を出して助けを呼ぼうとしたら男に口を塞がれた。で、そこへ俺が現れたと。
 なかなか危機一髪な状況だったようで、俺がいなかったらかなりヤバかったと、何度もお礼を言われた。

 話をしているうちに店までたどり着いた。それでは、と言って帰ろうとしたら中へ入って欲しいと言われた。まだ時間的には余裕があるので店内へ一緒に入る。

「こちらにおかけになって下さい。直ぐに戻りますので暫くお待ち下さい」

 と言ってカウンター横の椅子に案内された。座って待っていると、奥から先日丁寧に対応してくれた薬師の男が出てきた。

「お客様、娘を助けて下さったと聞きました。本当にありがとうございます。なんとお礼を申してよいか」

 なぬ?!む、娘さんだったんだ。てっきり従業員かと思ってた。

「あ、娘さんでらしたんですね。いえ、そんなに気にしないで下さい」

 無事に送り届けたのでお暇する。食事でもと誘われたが丁寧にお断りした。なぜなら、この後は母の尋問……いや、お話しが待っているのだ。家へ帰る足取りが重い。なんて言おう……。

 一葉に帰ってきて、厨房にいる母と伯父に声をかける。このまま部屋に帰ってもする事がないので、食堂を手伝う。レザーアーマーから普段着に着替えてから手を洗い食堂へ出る。
 今日も忙しそうだ。

 あの魔物のウサギもメニューボードに載っている。結構な割合で注文されているようだ。そうこうしているうちに客も引いてきたので部屋に戻る。

 暫くすると母とペリシアが夕食を持って部家へ帰ってきた。
 夕食は厨房で作る賄いだ。そしてその賄いはウサギの魔物で作った料理だ。
 食事をしながら今日一日の出来事をお互いに話す。

 俺は草原での事を話した。ペリシアには好評だったが母は渋い顔をしていた。

 食事が終わり食器も片付けた後、母に説明するため部屋を出てある場所に向かっていた。
 銃の説明をするなら実際に見てもらった方が早いからだ。
 ただ、見てもらうには開けた場所が必要だが、この時間には門は閉められているので外には出られない。

「さてと、ここなら誰にも見られないし丁度いいな」

 危険察知に反応はない。

「テナー、墓地に来てどんな説明をしてくれるの?」
「お兄ちゃん、お父さんの墓に来たの?」

 母が言っているのは昼間の件だ。ウサギをどうやって捕ったのか。普通のウサギだけでなく、魔物まで。
 ペリシアには理由を話さずにここまで連れて来た。

「お母さんが本当はどうやってウサギを倒したのかを知りたいからさ」

 ペリシアは、ん??って顔をしている。

「お昼過ぎにねテナーが採ってきたウサギを見たの。でもね、剣で仕留めた様には見えなかったの。だからテナーに教えてもらうためにここに来たのよ」
「そういう事なんだ。ペリシア、俺のアイテムボックスの容量が大きいことは教えたね?その中にこういう物が入っていたんだ」

 と言って戦闘服に着替えた。
 急に俺の服装が入れ替わり、ペリシアは目をまん丸にする。その後に、以前母に話した服の説明をする。勿論、剣で実演もした。

「ここまではお母さんにもしているんだ。で、今日はこいつの話をしたい」

 俺は徐にハンドガン【FN Five-seveN】を取り出した。勿論サプレッサー付で。

「これは“ハンドガン”という銃なんだ。魔道具だと思ってくれていい。魔力を使う武器だ」

 2人に銃について本当の説明をしても理解できないだろうから、魔力を使う道具と言うことにしておいた。
 5m程離れた場所に昼間使った木の塊と、灯りのために蝋燭を4本周りに置く。そして、2人の元に戻り、銃を構える。予め音が出ることを伝えて発砲。

ー タンッ   タンッ ー

 蝋燭の火に照らされた木の塊に弾が当たるが、2人には何が起きているのかわからないだろう。

「今のは、この穴から魔力の塊がとても速いスピードで飛び出したんだ。もう一度するね」

 さっきと同じように木の塊へ向けて引き金を引いた。

ー タンッ   タンッ ー

 2人を見ると口をあんぐりと開けている。まぁそうなるよね。

「テナー、あなたどこでそれを手に入れたの?魔道具?そんなのこの街で聞いたことないわ」
「どうやって手に入れたのか分からないんだ。アイテムボックスの中に最初から入ってたから」

 本当に分からない。誰がくれたんだろう。神様か?まぁそれしかないわな。

「それでウサギを仕留めたのね。それだけの威力があればウサギの魔物を倒せても不思議はないわね」

 母とペリシアには当面の間、服と武器に関しては人に言わないでおいて欲しいとお願いした。

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