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第三章

65話

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「……ドルテナさん……お願いが……あります…………娘を妻として……側に置いてやってくれませんか……」

 ……へ?ナンダッテ?
 今、エルビラを俺の妻にとか言ったか?

 いきなりの展開に俺がついて行けず黙っていると、ヘイデンさんがまた話し始めた。

「まだ子供のあなたに……こんな話をするのはおかしいと…思います……力がないと生きていけない……あなたにはその力が…ある……だからあなたに…娘を託したい」

 既に目も見えていないのだろう。顔は少しこちらを向いているが視線は明後日の方を向いている。
 確かにこの世界は力なき者にとって無慈悲だ。力がなくても生きていくことは出来なくはないだろうが、かなり辛く厳しいものになるだろう。
 ヘイデンさんは変異種との戦闘を見ていたから、俺の力というか武器の威力を知っている。だから俺に託そうとしているのだろうか……。

 ……しかしまだ13歳だよ、オレ。

「あなたなら、娘も喜ぶだろう……」
「……私が娘さんを娶ってもいいのですか?」
「……娘のことを少なからず……想っていて…くれているのでしょ?」

 バレてますがな。
 流石は父親、ということか……。

 あのハーシェル神殿以降、エルビラの事が以前よりも気になっている。
 とても久し振りだがこの感覚には覚えがあった。
 もう何年も忘れていたこの感覚は、人を好きになっていくときのものだ。
 この世界に生まれ変わる前には何度か経験していたが……。

 俺はエルビラが好きになったんだ。この世界で初めての恋になるだろう。

「ヘイデンさんには敵いませんね」
「これでも父親……ですからね」
「とはいえ私はまだ13歳です。ヘイデンさんとの約束は成人後になりますが、それでもよければ」

 俺の決意を聞いて、エルビラが泣き腫らした顔を真っ赤にしている。

 ヤカンを乗せたら湯が沸きそうだな。

「えぇ……ありがとう」
「わかりました。娘さんは私が必ず守ります。成人した暁には必ず妻として迎え入れます」
「……ありがとう……すまないが誰か…大人の人を…」

 一緒にこの部屋まで来た警備兵に、ヘイデンさんが呼んでいると言って側まで来てもらった。

「どうした?……ふむ…あぁ……いいんだな?……わかった。確かに聞き届けた」

 ヘイデンさんから何か言われた警備兵は立ち上がり、部屋を出て行った。
 それを確認したヘイデンさんがエルビラへ話しかけた。

「……エルビラ……これからは、ドルテナさんと……共に歩みなさい。……よき妻となり……彼と共に……幸せに……」
「お父さん……はい、わかりました」

 この後も薬の投与があるからと話は打ち切られた。
 俺は変異種の事を警備兵に話さなければならないので一旦部屋を出た。エルビラは付き添いのため部屋に残っている。

 最初の部屋に戻ると警備兵達が慌ただしく動いていた。
 邪魔にならないように部屋の隅に立っていると、聞こえてくる内容から大体のことがわかった。

 現場確認のため数名が向かっている。
 そして変異種の確認のためミキヒから軍とギルド員がやってくる。その為の受け入れ体制の準備でバタバタしているようだ。

「あ、君!えっと名前は何だったかな」
「ドルテナです」
「ドルテナ君。すまないが、何があったのか話してくれ」

 俺は休憩所でノーラ達が人質を取った事。そして蛇が現れて3人が餌食となり、その後倒した事を警備兵へ伝えた。

「背後関係も洗わないといけないか……うん、わかった、ありがとう。さてと、もう少ししたら軍とギルド員がやってくるから、その時にまたあの変異種を出してくれるかね。それと、君は重要参考人だ。安全性も考慮して詰め所に部屋を用意するから今夜はそこで寝てくれ」
「わかりました。馬と馬車はお願いしてもいいですか?」
「ああ、既にこっちで預からせてもらっている。部屋に案内するから彼について行ってくれ」

 そう言うとまた仕事に戻っていった。
 割り振られた部屋にはベッドが2つあった。たぶん1つはエルビラの為のベッドだろう。
 誰もいないベッドを見ているだけで胸がドキドキしてきた。

 ……こんな時に何を考えてるんだか。

 晩御飯を食べ終わった頃に軍とギルド員が到着したと連絡があり、警備兵の訓練場まで連れてこられた。

「やはりあなたでしたか。見習い冒険者が変異種を倒したという話を聞いて、もしかしたらと思っていたんです」

 声を掛けてきたのは、ミキヒのギルドで受け付けにいた女性スタッフだった。

「見習いの私が倒したと信じてもらえたのですか?」
「正直信じ難いことです。13歳の見習いでランクFというのはとても凄いことですが、だからといって変異種を1人で倒せるとは到底思えません。報告通りの変異種ならば軍の1小隊かランクCの冒険者が12~3人いれば可能ですが……」

 ほうほう、あの蛇はランクCが12~3人なら倒せるのか。それを考えると俺の武器チートは凄いな。

「お話の途中で申し訳ないですが、皆さん揃ってますので変異種を出してもらってもいいですか?」
「あ、すみません。ここでいいんですか?……わかりました、では」

 ここまで案内してくれた警備兵の指示通りに変異種を出した。
 いきなり現れた変異種に辺りは騒然となり、中には抜刀する人もいた。

 こらこら、もう死んでんだからアイテムボックスに入るんでしょうが。

「本当だったんですね……」
「これで信じてもらえそうですね」
「ええ、あなたのアイテムボックスも凄いですが、これもまた……凄いですね」

 早速ギルド員の数名が蛇の周りで何やら調べている。
 中にはナイフを突き立てている人もいる。死んだらあの硬かった皮膚は柔らかくなるのか?

「あの、調べられるのは構わないのですが、この蛇は私の獲物ですのでナイフを差したりして傷を付けられると価値が下がるのですが……」
「申し訳ございません。それにつきましてご相談があるのですが、あの変異種をギルドへ売ってもらえませんか?」
「あの!当方からもよろしいですか?あの蛇の体内にいると思われる盗賊グループの冒険者を調べたいので、取り出させてもらえませんか?」

 ギルドはあの蛇が、警備兵は食われたノーラ達が欲しいとそれぞれの主張を出してきた。
 答えを出す前に一点確認しておきたいことがある。

「そうですね……確認ですが、体内にあるものも蛇の一部なので私に所有権があると思ってもいいんですかね?」
「それは冒険者の事ですか?」
「はい、ようは彼らの持ち物です。蛇の中にあるので私の物としても構いませんよね?」
「ええ、彼らの遺体と身分証、あとは盗賊グループに繋がる物以外はそうなります」

 ならば問題ないな。

「わかりました。では蛇とその魔石、体内の冒険者の持ち物をギルドへ売ります。但し冒険者の所持金だけは私に返してください。解体の際に冒険者の遺体と身分証を警備兵の方へ渡してもらう。ということでどうでしょう」

 俺からの提案に2人とも頷いてくれた。この後、蛇等の買い取り額や受け取り方法についての説明を受けた。
 お金はマホンのギルドで受け取れるのでノーラ達の所持金も一緒にお願いした。

 これで終わりと思っていると、今度は軍の人がやって来た。
 どうやって倒したのかとか、どういう攻撃をしてきたのかとか、根掘り葉掘り喋らされた。
 一連の出来事を最初から話すこととなった。
 特に武器の事ははぐらかす事ができないので素直に話したが信じてもらえず、実際に射撃をすることとなった。
 的になってもらった軍の盾は使い物にならないくらい穴が空いてしまったが、怒られることはなかった。

 変異種を倒したので報奨金があるらしく、これもギルド経由で受け取れるようにしてもらった。

 今度こそ解放されたのでエルビラの所へ戻ることにした。

 ヘイデンさんは昏睡状態が続いており、エルビラがずっと付き添っている。
 テーブルの上には、エルビラ用の晩御飯が手を付けられずに置いてあった。

 父親がこういう状態で食べろという方が無茶だよな。俺のアイテムボックスに食べ物はたくさん入っているから、食べられるようになったら出してあげよう。

「あ、ドルテナ君……あの……」

 エルビラが俺に気付いたが、父親とのやり取りを思い出したのか顔が赤くなっていった。

「お父さんの具合はどう?」
「ずっと寝たまま目を覚まさないの……お父さん、もうダメなのかな……わたし……」

 エルビラの目から再び涙があふれ出した。彼女にはヘイデンさんの容体について詳しく話していないようだ。

 そんな彼女へ俺はどんな言葉を掛けていいのかわからなかった。
 慰めるべきなのか、励ますべきなのか……。

 泣き続ける彼女を、唯々優しく抱きしめる事しかできなかった。

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